Aさんは10年前に、2LDKが12戸の木造アパートを建築して賃貸経営をスタートしました。総工費は1億1千万円でした。新築時は7万8千円の家賃(共益費込み)で募集しましたので、満室なら年間で1100万の家賃収入になります。実際に初年度は、ほとんど満額の1070万円の収入がありました。完成から少し遅れて入居した2世帯分のロスが3%分発生しただけです。最初の年の運営費は170万円程度なので、差し引くと純利益は900万円になりました。実質利回りは8%です(土地代は計算に入っていませんが)。
建築費の全額を25年の返済期間で借りていますので、年間の返済額は560万円ほどになります。手元に残ったのは340万円で、月にすると30万円近くなります。(下の表を参照してください)
https://www.geonetwork.co.jp/site2/images/mail/image.jpg
「ちょっとしたサラリーマンの給料分」と喜んでいました。土地を残してくれたお父さんに感謝するAさんでした。
Aさんは、それから10年経った昨年の実績を計算してみました。募集家賃は10年で7%近く下がって7万2千円程度になっています。この条件で満室なら年間で
1040万円の家賃収入になります。しかし、実際に手に入った家賃は850万円です。退去のあとの空室期間が長くなり始めたり、家賃の未回収損失も昨年は1件ありました。申し込みの際の交渉で、2~3千円の値引きを、仕方なく承諾することもあります。初年度は3%だったロスが、10年後は
15%にもなっていた計算です。運営費は150万円程度ですので、差し引くと純利益は695万円です。10年で200万円の減額になりました。返済額を差し引くと手元に残ったのは135万円、月に約12万円です。「サラリーマンの給料がパートタイマーになってしまった」と苦笑しました。まだローンは15年分残っているのです。(前の表を参照)
Aさんが不安に思うのは、この先、もっと数字が悪化していったら「どうなるのだろう」ということです。そこで5年後を予測して計算してみました。募集家賃はさらに7%下がり、空室などのロスも20%に増える、という想定にしてみました。計算してみると純利益は585万円で、返済額560万円にギリギリです。手元には、ほとんど残らないことが分かりました。「サラリーマンがパートタイマーになって、いよいよ失業だ」と笑っている場合ではありません。ここからさらに悪化すると、手持ち資金を足さないとローンが返済できなくなるなってしまいます。「まだこの段階で10年もローンが残っているのに・・・」
(表では20年目も予想してあります)
さて、このAさんのためのアドバイスを一緒に考えてみてください。
まず、Aさんが考えた5年後の数字は決して「超悲観的」ではないと思いまんか?新築時7万8千円の家賃が15年後に6万8千円になることは「あり得る」でしょう。空室等のロスが20%というのも、褒められたことではありませんが、十分に「あり得る」と思います。つまり、このシナリオは「実際に起こり得る」のです。
この情報誌をお読みいただいているオーナーさんなら「処方箋がいくつかある」ことは、すでにお分かりだと思います。
まずひとつめは「満室時の賃料を上げること」ですね。少なくとも「これ以上は下げない」ための方策を考えなければなりません。でも、このまま何も手を打たなければ、建物と設備の老朽化に伴って、賃料が下がるのを防ぐことはできません。それを阻止するためには「物件力のアップ」が必要不可欠です。するとすぐに「お金をかける」ことが思い浮かぶでしょう。もちろん、ある程度の投資が伴うことは避けられませんが、
・外観やエントランスの見栄えに気を使う
・共用部分をいつも綺麗に保つ
この二つの方法だけでも「物件力」はアップできます。費用もそれほどかかりません。つぎは室内ですが、こちらの見栄えをアップする場合は「ローコスト」を意識すべきです。
・アクセントクロスを採用
・照明器具とカーテンをセット
・キッチン設備にカッティングシートを貼る
・水栓器具や取っ手を交換する などの方法です。
もちろん、新しい設備の導入や間取の変更など、もっと費用がかかる方法も必要になるでしょうが、その場合は「費用対効果」を考えなければいけません。
ふたつめは「空室などによるロス率を下げること」です。初年度は3%だったものが10年後に
15%になってしまったのです。このまま放っておけば、5年後は20%を超える事態となることも予測できます。少なくとも15%以上にはしないことと、10%を切ることを目指します。その場合、一番効果的なのは「いまの入居者を退去させないこと」です。そのためには、入居者さんの「満足度」をあげることですね。つまり「快適な暮らし」を提供するのです。
ここでも、
・外観やエントランスの見栄えに気を使う
・共用部分をいつも綺麗に保つ
この二つの方法は効果が大きいのです。また、長く住んでくれた入居者に「希望する設備」を設置してあげるというサービスも考えられます。そして、退去されてしまった部屋を早く決めるために、ここでも「物件力のアップ」が必要不可欠になります。そのうえで「部屋の見せ方」として、「家具をセットしてモデルルーム化する」などの手段があります(外観、エントランス、共用部分が綺麗なのは言うまでもありません)。
つぎに「部屋の貸し方」として、
・初期費用を抑えて入居できるサービス
・アクセントクロスが選べるサービス
などの積極策は効果が期待できます。とにかく、全力で空室によるロスを防がなければなりません。
みっつめは「運営費を節約すること」です。運営費の項目には
・税金(固定資産税 等)
・保険(火災保険、施設保険 等)
・水道光熱費(共用部分)
・修繕費(資本的支出でないもの)
・設備保全費(定期点検費 等)
・リース代
・備品代
・事務代
などがあります。消費税が増税になれば経費高騰の直撃を受けることになります。
これらの費用の中で、見直せるものは見直しましょう。
そして「3つの処方箋」には含まれていませんが、「ローン返済額」を少なくすることで、手元に残る資金を増やすことに繋がります。
具体的には、
・金利等を金融機関と交渉する
・借り換えを検討する
・繰り上げ返済する などが検討材料になります。
以上のような複合対策で、10年目からの5年間、さらにその先の5年間の「純利益と手元残金」を減らさないようにしなければなりません。
Aさんは、築後10年のところで「このままではいけない」と気付きました。アパート経営においての10年は、「これからどうする」を考えるための重要な岐路なのだと思います。