「原状回復工事」と聞くと、どんな想いが頭の中に浮かびますか?
「また経費がかかる」
「昔は借主が負担していたのに」
「なるべく費用をかけたくない」……などでしょうか。
たしかに平成10年頃までの原状回復は
「入居時の状態に戻すこと」であり、
費用の大半は借主が負担していましたが、
現在では「通常使用の損耗は貸主負担、
故意・過失の損耗は借主負担」という認識が全国で定着しています。
昔と比べて大家さんの負担が増えたのですから、
その対応が消極的になるのも理解できます。
しかし、私たちは原状回復工事をネガティブに捉えずに、
「次の入居者募集で早く高く貸すための重要な機会」と考えています。
原状回復に積極的に取り組めば、
大家様の資産の価値を高める貴重なチャンスとなるのです。
そのように提案する管理会社は少数かもしれません。
そこで今回は反面教師として、
「わが社の原状回復工事の失敗例」を紹介いたします。
これらの反省から
「大家様の収益改善に役に立つ原状回復工事」を積み上げてきました。
ケース①「クロスは壁だけでなく天井も」
5 年で退去した部屋の原状回復工事を検討したときのことです。
壁のクロス張り替えは当然として迷ったのが天井のクロスでした。
壁と同様に経年変化しているので張り替えを提案しましたが、
大家様の「目立たないから」という言葉に従うことになりました。
工事が完了すると、真新しい壁と、色の変わった天井の差が目立ち、
余計に古く見えるように感じました。
そして案の定、内見したお客様に「天井が気になった」と言われてしまい、
決めるのに数ヶ月の時間を要しました。
大家様は「目立たないから張り替えない」と強く主張したのではなく、
「張り替えなくてもいいのでは?」と尋ねただけなので、
プロとして正しい方針を提案すべきでした。
数万円の経費カットを選択して、
数ヶ月分の収入ロスを招いたことを強く反省した工事でした。
ケース②「細かな部位の劣化を見逃す」
原状回復のたびにクロスや畳は新しくなりますが、
見過ごされて古いままになっているのが、
木部の傷、コンセントやスイッチカバーの変色や劣化などです。
築10年を過ぎると、
周りの壁や畳が新しくなることで余計に目立つようになります。
2 月3 月の繁忙期のお客様は、
引っ越しの期限に迫られて早く決めてくれますが、
閑散期のお客様は「良い部屋があったら引っ越そう」と考えているので、
こういう細かな箇所もチェックされるのです。
それが原因で決めていただけなかったことがあるのが反省点です。
ケース③「まだ壊れてないから」
ある原状回復工事で
15年も使用したエアコンの取り換えを提案したところ、
「まだ壊れていないから」という大家様の意見によって、
クロス張り替えだけで済ませて、まもなく入居が決まりました。
しかし、暑くなった頃に、そのエアコンが故障し、
入居中に取り換えることになりました。
最新のエアコンは小さいので、故障したエアコンを取り外すと、
クロスに跡が残ってしまい、
もう一度 張り替え工事が必要になってしまいました。
入居中に修繕工事をすると、期日と時間調整に手間が取られ、
家具などを汚さないための養生も必要になるので、
空室時の工事より割高になります。
大家様には、
二重のクロス工事と割高な費用を負担させてしまうことになってしまいました。
これらの失敗例から私たちが学んだことは、
————————————–
・壁や床以外の細かな部位の経年劣化にも気を配る
・経費判断は短期視点でなく長期視点で答えを出す
・原状回復とリフォーム工事を合わせることで
コストカットの実現と重複工事を防ぐ
————————————-
以上の3点です。
このように、原状回復工事においても、
大家様の収益改善を目的にした提案ができることが、
管理会社に必要なスキルとなっています。