Q
相続した20世帯の賃貸マンションが築20年を超えます。
ここで空室が出たので管理会社からリノベーションの提案がありました。
いつもの原状回復工事では現行8万円の賃料が難しいことと、
設備も20年を経過して耐用年数が迫っている、というのが理由です。
予算は300万円です。
多額の費用をかけるべきかどうか経験がないので悩んでいます。
このようなケースで、決断を助けてくれる基準のようなものはありますでしょうか?
A
一部屋に300万円を投資するのが正しいのか、
悩むのは当然です。
結論から申し上げると「これが正解です!」というお答えはありません。
理由は、
大家さんの賃貸経営に対する考え方によって答えが異なるからです。
築年数の経過した賃貸物件の大家様には、
①建物設備が使える間は経営を続ける、
②何年か(例えば10年)で賃貸経営をやめる、
という選択があります。
①と②の大家さんにとって300万円の投資への答えは違うはずです。
10年くらいで経営をやめる場合でも、
③取り壊して更地で売却するか、建て直して経営を始める、
④土地・建物のまま売却する、という方で答えが異なります。
さらに、賃貸経営を続けるとしても、
⑤程度の良い状態を維持して高く貸せるように経営したい(老朽化マンションで終わらせたくない)、
⑥お金はかけずに賃料を下げるなどで対応したい、
というお考えの大家さんもいるでしょう。
①から⑥の大家さんには、
それぞれの解答があるわけです。
地主さんが税金対策で賃貸経営されているなら
売却という選択はないでしょうから、
長く経営するという方針が普通だと思います。
不動産投資で所有している方は出口戦略がありますので、
売却のタイミングを探っているでしょう。
相続されて1年未満の質問者様は、
まだ明確な方針をお考えにはなっていないかもしれませんね。
よい機会なので、一度考えてみてはいかがでしょうか?
すべての対策の収益予想表をつくる
経営の方針が異なっていても、
「300万円の投資という提案」への
答えを出さなければなりません。
その時の判断基準について考えてみましょう。
多額の投資に対して大家さんには2つの疑問があるはずです。
それは、
A.採算がとれるのか? と、
B.他にも選択肢があるのではないか?
という疑問です。
空室を埋めるには、300万円の投資の他に、
家賃を下げる、数10万円の少額リフォームを行う、
といった選択肢もあるからです。
どの方法でも、適切な家賃設定ならば、
お部屋が決まらないことはないはずです。
その答えを出すために、
300万円の投資をした場合と、
それ以外に考えられる対策の、
すべての収益予想を作って比較するというのが、
お勧めする方法になります。
収益予想で用いる数値は以下の5つです。
1.募集賃料
2.空室率
3.実際の家賃収入
4.経費
5.粗利益
一部屋だけの収益予想に「空室率」とは?
と思うかもしれませんね。
実は収益予想が1年分では参考にならないので、
10年程度の期間を計算したいのです。
すると2~3回の退去があり、
募集に要する期間も対策ごとに違うので空室率も変化します。
本当は「粗利益」ではなく「収益」を算出したいのですが、
一部屋ごとに運営費を計上できないので、
工事費を経費として差し引いた「粗利益」で代替します。
300万円のリノベーションの収益予想は以下の通りです(年単位です)。
※募集賃料は現行から5,000円上げて85,000円に、
募集に要した期間は2カ月半に、
工事代300万円は8年間で年に375,000円ずつ計上しました。
2回目の退去のとき(9年目)は家賃を5,000円下げています。
家賃値下げ案の収益予想は以下のとおりです。
※募集賃料は現行から10,000円下げて70,000円に、
募集に要した期間は6カ月。
4年ごとの退去で家賃を5,000円さげて、
そのたびに6カ月の空室が発生しています。
2つを比較すると、
10年間に稼ぐ粗利は「家賃の値下げ」が累計で35万4千円ほど多くなりました。
「10年程度で取り壊す」という大家さんにとっては、
家賃を下げる方が正しい選択かもしれません。
しかし、長く経営を続ける、という大家さんは、
9年目10年目の粗利益を比べれば、
この後の10年間で大きく逆転することが見えますので、
300万円の投資の意義が確認できるのではないでしょうか。
もし、質問いただいた大家様の方針が、
できるだけ長く経営する、
程度の良い状態を維持して高く貸せるように経営する、
という方針でしたら、
これらの収益予想から、
300万円を有効に投資するという経営判断が見えてくるのではないかと思います。