今回は「単身高齢世帯」について書かせていただきます。
内閣府の高齢社会白書によると、
2042年にピークを迎える65歳以上人口は、
その時点で4人に1人が一人暮らしになると予測しています。
一方で民間賃貸住宅は慢性的に空室の増加や
長期化の問題を抱えていますから、
需要に対して供給はあるのにマッチングできていません。
その理由は、単身高齢者にお部屋を貸すことに
貸主側がリスクを感じているからですが、
その1つが孤独死の問題です。
たしかに事故物件となって募集に苦労するのは
避けたいと思いますが、実はもう1つ、
かなり大きなリスクが存在しています。
それは、契約解除と残置物処理の問題です。
単身高齢者の賃貸住宅の安定確保のために
一般賃貸借契約では借主が亡くなっても
賃借権は消滅せず相続されます。
貸主が契約解除を望んでも
賃借権の相続人の同意がなければできません。
部屋に残された荷物の処分もできません。
相続人がいれば交渉できますが、
その所在が判明しないときは貸主側が探さなければなりません。
その間は契約解除も残置物の片付けもできません。
募集ができないと大きな機会損失になります。
これは孤独死に劣らないくらいの大きなリスクなのです。
この問題を解決する手段として、
昨年6月に国土交通省と法務省が
「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しました。
これについて解説いたしますので図を参照してください。
借主Bは65歳の一人暮らし男性。
身内が近くにおらず貸主Aは賃貸を躊躇しています。
そこで借主Bは、自身の死後事務処理の代理権を、
前述のモデル契約条項を使って、
当該物件の管理会社Cに委任することにしました。
Bが受任者Cに委任したのは「契約解除権」と「残置物処理権」です。
これで貸主Aは契約を承諾することができました。
どんな代理権なのかをみてみましょう。
「契約解除権」によって受任者Cは、
Bの死後にBに代わって、貸主Aと合意して解除することと、
解除に関するAの意思表示を受けることができます。
これでAはBが契約期間中に亡くなったときでも
問題なく契約を解除できます。
次に「残置物処理権」によって受任者Cは、
Bの死後にBに代わって、
賃貸物件内に残された動産類(残置物)の
廃棄や指定された送付先への送付等ができます。
これによってAはBが契約期間中に亡くなったときでも、
問題なく残置物が処理されることになります。
これでリスクの1つが消えます。
このモデル契約条項の活用で、
増え続ける単身高齢者の賃貸住宅の安定確保が国交省などの目的です。
運用するにはいくつもの注意点があります
これは新しい法律ではありません。
このモデル契約条項によってBからCへ代理権が移行し、
Aの不安が取り除かれて単身高齢者への賃貸が促進される、という主旨です。
しかし運用に注意する点がいくつかあります。
それについては国交省のサイトにモデル契約条項を解説した
26ページの文書が掲載されています。
ちなみに私は理解しながら読み進めるのに
数時間を要してしまいましたが…………。
そこで、特に注意が必要な「残置物処理」を取り上げてみましょう。
このモデル契約条項では、
借主Bの残置物を3つに分類しています。
1つはBが「廃棄しないでほしいと指定した残置物」です。
この場合は送付先を指定して、
リストを書く、シールなどを貼っておく、
金庫などにまとめて入れておく、などの処置をします。
2つめは「指定した以外の残置物」です。
CはBが亡くなって一定期間経過後(3ヵ月以上)、
かつ賃貸借契約終了後にこの残置物を廃棄できるのですが、
値打ちがあるとCが認識したときはリサイクル業者などに
売却するなど換価するよう努める必要があります。
善意で気が付かなければ仕方ないのですが、
Cの責任となり得るので注意点となります。
3つめは現金です。
廃棄しないのは当然ですが、保管して相続人に渡すことになります。
現実的に相続人には、この代理行為でCが負担した費用や、
貸主Aに対する賃料支払い等の義務が発生することもありますので、
残置物を換価した金銭と一緒に相殺して
受け渡されることになるのでしょう。
相続人が見つからないときは供託します。
受任者になるための条件とは?
実際に管理会社が受任者になれるのでしょうか?
解説文では適切な受任者として相続推定人を第1に挙げています。
それが困難なときは居住支援法人や管理会社等の第三者としています。
「管理会社は無効とはいえないが、
貸主の利益を優先させず、委任者(の相続人)の利益のために
誠実に対応する必要がある」と注文をつけています。
実際には義務や責任ある立場のため、
受任者となる人は少ないと予想されるので、
管理会社が受ける事例が多くなるのではないでしょうか。