A
私のアパートで一人暮らしの60 代男性が亡くなりました。
いわゆる孤独死です。
5日後に家族が発見してすぐに解約となったのですが、
不動産会社から
「次の借主が気にするので家賃も下げなければならない」
と言われました。皆さんはどう思いますか︖
B
Aさんの貸室を事故物件として扱う、ということですかね︖
「孤独死=事故物件」という考え方ですよね。
これが一般的な判断なのでしょうか。
C
あるいは心理的瑕疵物件とも言ったりしますね。
「入居者が嫌悪するような事実が
過去におこった物件」という意味のようです。
D
だから家賃を下げないと決まらない、という訳ですか。
つまりその事実を次の借主に告知するということですね。
B
でも孤独死のあった貸室は
すべて事故物件や心理的瑕疵物件になるのですか︖
F
納得いかないですよね。
「入居者が嫌悪する事実」というのは、
たとえば自殺が該当するのは理解できます。
自殺は相続する遺族や連帯保証人に
賠償責任を認めた判例がありますから
事故物件といえると思います。
次に住む人の嫌悪感も理解できるので
心理的瑕疵物件ともいえると思います。
殺人事件でも同じですよね。
でも孤独死を事故と考えるのは納得できませんね。
B
法律的な定義はどうなっているのですか︖
C
明確な定義はないようです。
D
亡くなった部屋に対して嫌悪感を感じるのが普通なので、
「だから告知せよ」という理屈なのでしょうね。
B
確かに、
前の入居者が一人で亡くなった部屋を嫌う人は多いでしょうね。
D
でも、事故物件の判定は大家に深刻な影響を与えるのに
定義が曖昧すぎますね。
Aさんが告知しないで賃借するとどうなりますか︖
C
借主が入居後に事実を知ったときに
「知ってたら借りなかった」とクレームを言ってくる。
最悪のケースは「損害賠償しろ」と裁判になる。
D
面倒ですね。何かハッキリした指針はないのですか︖
E
2020年の春に「全宅連」という不動産業者の団体が
「住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書」
を発表しました。
その中で孤独死と事故物件の考え方を整理しています。
その内容を要約すると
① 孤独死は原則として説明・告知の必要はない
② 臭気等で近隣から異変の可能性が指摘されて
孤独死が発覚した場合は説明・告知の必要がある
③ その場合も次の借主が通常想定される契約期間を
利用した場合は次は説明・告知の必要はない(④は割愛)
となっています。
B
うん、だいぶ明確になりましたね。
E
①の「告知の必要はない」というのは力強いですね。
D
②の場合はなぜ説明・告知が必要とされたのでしょう︖
E
借主が入居後に近隣から孤独死の事実を知る可能性が高いからです。
その可能性も心理的瑕疵の判定のひとつになるみたいです。
C
確かに、借主が知る由もなければ心理的瑕疵もない訳ですね。
E
この報告書では、
「住宅内で人が亡くなるのはあり得るし、
病気や老衰による死を責めることはできないから
当然に孤独死は事故ではない」としています。
C
明確で理屈が通ってる。
B
でも法的な根拠がある訳ではないのですよね。
E
そうですね。
しかし後日、借主側と意見の相違がおきたときに
貸主側の見解の背景として強力な拠り所にはなると思います。
万一訴訟となったときの裁判所の判断にも
影響を与える可能性もありますよね。
D
ではAさんは告知しないで通常の家賃で募集しますか︖
5日後に親族によって発見されてるし
近隣でも話題になっていないでしょうから。
A
この事実を不動産会社と相談して最後は自分で決断します。
皆さんの考えと教えていただいた調査研究報告書の内容は
たいへんに参考になりました。
この記事は当社のオーナー向けニュースレター2020年12月号に掲載されたものです。