ある日・・・・
娘が住む賃貸マンションの管理会社から電話がありました。
「お父さんですか。ちょっと問題が・・・」
娘が何か問題を起こしたらしい。
しかし今は仕事に行っている時間のはずなのですが・・・
「何があったのですか?」
「ちょっと・・・ワンちゃん達が・・・」
どうやら問題を起こしたのは「アリス&エマ」らしい。
娘が可愛がっている、
“ミニチュアダックス”の女の子の二人(二匹というと怒られる)です。
歩いて15分、車ならすぐの距離だし、
ちょうど家で仕事をしていた時だったので
すぐにマンションへ向かいました。
着くと、エントランスに担当の“彼女”が立っていました。
「何があったのです?」
「お留守番のワンちゃんが鳴くので・・・」
「ああ、苦情があったのですか」
2階の娘の部屋からは何の音も聞こえてきません。
「今は静かみたいですね。私が着いたときには鳴き声は聞こえなかったのですが・・・」
部屋に入ると「アリス&エマ」が飛びかかってきました。
ダックスなので、こういう時はうるさく吠えます。
「吠えないで、また、苦情がくるから」
部屋は意外と整理されていたので安心しました。
「すいません。留守番が慣れないので吠えたのでしょう。
ご迷惑をかけた入居者の方に謝っておきましょうか」
「いえ、その必要はないのですが、
苦情というか、連絡をくれたのは大家さんなのです」
(えっ、大家さんが?)
一瞬、絶句して考えこみました。
「他の入居者の方の迷惑になるので、大家として注意しておこう、ということですかね」
と好意的にとらえて尋ねると、
「いえ大家さんが「うるさいので何とかして」と言ってきたのです」
「・・・・・・・」
初めて、内見に来た時の光景を思い出しました。
たしか大家さんの奥さんも、2階の一室から出てきた娘さんも、犬を抱えていました。
そしてここは「ペット可」のマンションです。
2匹(ゴメン)を飼うので、「敷金2ヶ月を償却する」という条件も飲みました。
それなのに・・・
「大家が苦情を言うか・・・」
よほど激しく「アリス&エマ」が鳴いたのかなぁ、と信じられない気持ちです。
今夜、娘と話し合わないと・・・・。
夜、娘を呼んで話を聞くと
「私が出て行ったときに、少しは鳴くかもしれないけど、
あの子たちは、そんなに激しくは鳴き続けないはずだよ。
お父さんも知ってるでしょ」
と困惑気味です。
確かに、当家に居候していた時に、留守番させたことは何度もありますが、
アリスが、ティッシュを部屋にまき散らすという「いたずら」はしましたが、
「鳴き続けて」迷惑をかけた、という記憶はありません。
「あのね」と娘が言います。
「何日か前、大家さんと通路で出会ったときに言われたの」
「なんて?」
「この前の夜、マンション内を、犬を歩かせている入居者さんを見かけたけど、
新井さんじゃない?」
「そう言われたの?」
「そう」
「で、歩かせていたの?」
「そんなことしないよ、ルールは知ってるもの。マンション内は二人とも抱いて歩いてるよ」
「けしからんな」
つい、口に出してしまいました。
大家が、まるで、自分たちも入居者のように、苦情を言うのはどうなんだろう。
しかも夜中でなく昼間の「ささいな鳴き声」に(・・と、親子は信じてる)。
ペット可マンションなのに、
自分たちも犬を飼っているのに、
敷金を2ヶ月分とも返さないくせに、
しかも、娘を「ルール破り」の犯人扱いするなんて。
これは、苦情を申し立てられて、冷静さを失った、借主側の自然な反応ですよね。
これでは、トラブルは、より大きくなってしまいます。
「借主に、快適に長く住んでもらおう」という考えは、微塵も見えません。
「こんな「クレーマー大家」が一緒に住んでいては、たまったもんではない」
(これも、冷静さを失った借主側のセリフです)
こんなこともありました。
夜10時過ぎに、当家に置いて行った娘の荷物を届けに行った時のことです。
両手で持てる程度の、段ボールひと箱の荷物を、車で運びました。
マンションのエントランス横に、大家さん専用の「シャッター付ガレージ」があります。
他にスペースがないので、シャッターの前に車を停めて作業をしていました。
すると、運悪く、大家さんの「ご主人らしき人」の車が帰ってきました。
ぼくは手を挙げて合図します。
心の中で、「すいません。すぐに終わりますので・・・」
表情と態度にも、「その気持ち」は表れていたはずです。
そして段ボールを早く運んでしまおう、と作業を再開したら、
「ピッ」とクラクションを鳴らしたのです。
「早くどけろ」という合図(というように聞こえた)です。
「ふざけんな」ですよね。。
その車はBMWだったと思うけど、
「その車、誰の家賃で買(こ)うたと思うてんねん!」
思わず関西弁が飛び出すほど腹が立ちました。
もちろんBMWは、お父さんの自分の稼ぎで買ったのでしょうけど・・・
借主に向かって「ピッ」はないですよね。
たとえば「セブンイレブン」のオーナーが、
店の横に「自分専用」の駐車スペースを確保していたとします。
他のスペースが塞がっているので、店に来たお客様が「そこに」停めていたとします。
お蔭で自分は停められないワケです。
そのとき、店に入って、
「私の専用スペースに停めている人、すぐに車を動かしてください」
と言うでしょうか?
絶対に言いません!
たとえ100円の「おむすび」1個を買いに来たお客様でも言いません。
(僕らは、毎月十数万円を払い続ける、超固定客ですよ)
セブンイレブンのオーナーは、
「駐車スペースが埋まるほど繁盛してよかった」と思いますよ。
あるいは、
「お客様用の駐車スペースが足らないな、もっと増やさないと「機会損失」になる」と考えますよね。
どこの商売人が、お客様に「ピッ」とやるんですか。
ここの大家は、
取り仕切っている「ふくよかな」奥さんも、
賃貸条件に横から口出す娘さんも、
夜遅く帰ってくる「ご主人」も、
みんな「大家の覚悟」が足りません。
借主を「お客様」とすら思ってません。
こういう大家さんだと、
いくら「テナント・リテンション」を唱えても難しいですよね。
こういうオーナーを教育するのも、
プロパティマネジメントの務めでしょう。
でも、この大家さんに向かって、どんな風に言ったらいいのでしょうか?
面と向かっては言いにくいし、それでは感情的になって、正論を聞いてくれないでしょう。
そんなときは「ニュースレター」で、少しずつジワジワと「攻める」のは効果的です。
そして、勉強会などで講師に話してもらうのもいいでしょう。
業界雑誌や新聞の記事の「切り抜き」を、毎月のレポートに加えるのも。
その感想として、あなたが正論を伝える。
などなど。
でも、娘の住んだマンションの大家さんは、悪い部類では全然ないです。
物件にお金はかけない、
あなたの提案には耳を貸さない、
借主から「とれるもの」は出来るだけとる、
それでいて、「早く決めて」と怒る。
そんな最悪な大家さんと比べれば「全然まし」な方です。
最後に・・・・
これは、かなり暴論に近いかも、と承知の上で書きますが、
もし、この考えに反対なら、読み飛ばしてください。
管理物件も増えてきて、ある程度の戸数に到達したら、
「覚悟のない大家さんとは付き合わない」という選択もあると思います。
一部の「覚悟のない大家さん」のために、
きっと多くの時間を浪費されるはずです。
貴重な時間は、「賃貸経営に前向きな大家さん」のために多く使いたいのです。
でも、「覚悟のない大家さん」は、
「過剰に請求」するし、
「文句」が多いし、
「費用負担を渋る」人もいます。
あなたには、できるだけ「いい大家さん」に時間や情熱を注いでいただきたい、と思います。
プロパティマネジメントは「大家さんの収益を増やす」仕事ですが、
「最悪に覚悟のない大家さん」は助けることはできませんよね。
娘は、住み始めて18ヶ月で「ひとり暮らし」の冒険を終えました。
そして、すべての費用を負担した僕には、
「娘が賃貸マンションを借りましたシリーズ」が残りました。
「NO.1賞」を授与する新人研修の、名物(?)シリーズになっています。