Q.消費税率アップもあり、ますます費用負担が増大していくのが不安です。
そこで少しでも原状回復費用の負担を軽くしたいと思っています。特約に書けば、借主さんに負担していただくようにできるものでしょうか。
A.ご存知のように、自然損耗や通常の使用による損耗は「貸主負担」が日本の原則となっています。国土交通省のガイドラインにも書いてありますし、過去の判例も同じです。ご質問の意図は、「その一部」を借主に負担していただくことが賃貸借契約書の特約によって可能か? ということと推察いたします。答えは「可能です」と言っていいでしょう。
でも単純ではありませんね。
平成23年3月24日の最高裁の判決で「敷引特約」が有効とされました。この判決によって「自然損耗や通常損耗を原因とする原状回復費用であっても、一定の場合に、一定限度であれば、借主に負担させることができるようになった」と理解されています。
でも、借主は賃貸借契約の「素人」です。本来は、自分が負担する義務のない費用を負担していただくので、しっかりと説明して理解と承認を得る必要があります。
それでも時間が経つと考えが変わったり、新しい知識を得たりするので「本来は自分が負担する義務はない」と異議を唱えて、この特約の無効を訴えることもあります。そうなると借主と争うことになってしまいます。そのような「火種」を抱えた関係になりますね。
また善良な借主は、そのような疑問が芽生えても、大人しく約束(契約)に従うでしょう。でも、この善良な借主にこそ、長く暮らしていただいて、他の「善良な借主」を呼び込んでもらいたいのですが、彼らは「静かに」去って行ってしまうかもしれません。せいぜい家賃の1ヶ月分程度の費用を削減するのと「どっちが利益か」考える必要はありますね。
別の面から考えてみましょう。
賃貸経営の目的が「収益をあげること」だとした場合、今回のご相談のような「費用負担の削減」は「そのため」の手段のひとつです。
確かに経費が減れば収益は増えますが、それが理由で家賃収入が減ったのでは元も子もありません。
借主と揉めることが家賃収入にプラスとなることはありませんね。経費を減らすことは目的ではないのです。
本来、オーナー(貸主)が「負担すべき費用」は負担して、そのうえで、借主に「気持ちよく」住んでいただく。そして長く暮らしてもらう。
その方が家賃の安定収入をもたらし、結果的に収益が増えることもあります。
売主であるオーナー(貸主)は、お客様である借主と良好な関係を保つことが、商売を成功させる一番の基本ではないでしょうか。
今回のご質問に対する答えは、
特約によって原状回復費用を(ある程度)借主に負担していただくことは可能でしょう。でも「収益をあげるため」の賃貸経営にとってプラスとなるかどうか、しっかりと考える必要があります。