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判断に迷った時の「指標」とは?

築20年を超えた物件のリニューアルを考えたとします。
20年前の物件は、間取りも設備も、今の借主の要望に合っていません。
たとえば、間取ひとつ考えてみても、20年前は2DKといえば「面積は40㎡(12坪)」くらい、1Kと言えば「20㎡(6坪)」くらいと決まっていました。
借主は皆、そのような間取りを求めていました。
しかし現在は、単身者にしても色々あります。
学生や新社会人といった「予算の少ない」方達と、30~40代の独身という「余裕のある」方達と、同じシングル世帯でも、求める面積が全然違います。
「余裕のある」単身者が40㎡くらいの面積を求めたとします。
でも、その面積のワンルームや1Kは「ほとんどない」ので、仕方なく2DKを借りて我慢しています。
カップルの世帯も同じですが、若く収入も少なければ40㎡の2DKや1LDKでも納得(?)して住んでくれます。
しかし、共働きで子供も持たないカップルなら収入があるので、60㎡を超える面積を求めます。小さく部屋を仕切った3DKは選びたくないのですが、築20年超の建物で60㎡の間取りは、例外なく3DKや3LDKになってしまいます。
20年前には、40㎡を求める単身者や、60㎡以上を求めるカップルは「ほとんど皆無」だったので供給されていないのです。
築20年超の建物の間取りが、今の借主の要望に合っていないのは「仕方ない」ことですね。オーナーさんや、建物の企画者のせいではありません。
設備にしても、20年前は、こんなに物騒な世の中ではなく、「ピッキング」などと言う言葉もありませんでした。
インターネットもないし、BSやCSも世の中に生まれていません。
そもそも、便利な設備は「持ち家」に期待して、賃貸は「仮の住まい」という考え方が大勢を占めていました。
せいぜい賃貸に求められたのは、エアコンと追い炊き機能くらいです。
そのエアコンも高価だったので、引っ越しの時には家具と一緒に「持っていく」のが当たり前の時代です。
だから、20年前のファミリー物件には「エアコンを付けない」のが業界の常識でした。
単身者は「そもそも持っていない」ので、“エアコン付き”が標準でした。
このように、築20年超建物の設備が、今の借主の要望に合っていないのは、これも「仕方ない」のです。オーナーさんや、建物の企画者のせいではありません。
この「20年問題」とも言える事態は、「家賃を下げる」か、「抜本的なリニューアル」を施すか、選択は「二つに一つ」です。
「ではリニューアルを」と言っても、一部屋に100万、200万、300万のコストをかけることは、なかなか決断がつかないでしょう。
その決断が「必ず正しい」とは限りませんし・・・・。
オーナーさんは、リニューアルをするのが正しいかどうかを判断するための「簡単な指標」が欲しいのではないでしょうか。

その「簡単な指標」とは?

これから、その指標について「なるべく分かりやすく」説明をしていきます。
まず、「営業純利益」という数字だけは、面倒でも把握しておく必要があります。
営業純利益とは、実際の家賃等の収入から、賃貸経営のためにかかる「運営費」を差し引いたものです。たとえば、5万円の家賃の10戸のアパートがあったとします。
そのうち、6戸の部屋が入居中だと1ヶ月の家賃収入は30万円(5万×6戸)です。
1ヶ月の運営費が6万円(家賃等収入の20%程度)とすると、営業純利益は24万円(30万-6万)になります。
賃貸経営では、この「営業純利益」が最も重要な数字です。
※営業純利益のことを、不動産投資のプロはNOI(エヌオーアイ)と呼びます。
さて、このアパートは10戸のうち4戸も空いていて、なかなか決まらないで困っています。
リニューアルするか、家賃を下げるか、迷いますね。判断しやすくなる「指標」を計算してみましょう。
この部屋は4万円に値下げすれば「決まる」としましょう。(どんな部屋でも家賃を下げれば決まります)
そしてリニューアルすれば6万円で「貸せる」とします。
その差は2万円(6万-4万)です。運営費(家賃等収入の20%程度)を差し引くと、営業純利益は1.6万円(2万×80%)ですね。
1.6万の増収が「約束されている」としたら、「いくらまで」リニューアルの費用をかけられるのか。
その範囲内でリニューアルが可能なら、この投資は「安心できる」ことになります。それには「返済倍数」という指標を使います。

「返済倍数」とは?

返済倍数とは、増えた「純利益」のうち、投資するお金の返済に「いくらまで」充てられるか、を計算するものです。
たとえば、10万円の利益が増えても、毎月の返済が12万なら「損をした」気がします。毎月の返済が6.5万円なら、手元に3.5万円(10万-6.5万)が残るので、この投資は「安心できる」範囲内だと思えます。
最悪、10万の純利益が6.5万まで落ちても赤字にはなりませんから。
実際の計算は、純利益が、毎月の返済額の「何倍あるか」で計算します。
通常は「1.5倍」くらいは欲しいところです。
さっきの数字で逆算してみると、
月の返済額が6.5万円なら、その1.5倍の純利益が「欲しい」のです。
(6.5万×1.5倍=9.75万)という計算から、9.75万円の純利益があれば「安心できる範囲内」であると判断できます。
10万円の純利益は「合格」となりますね。そして、この6.5万円の返済額で「いくらまで借りられるか」を計算して、その額がリニューアルにかける費用の上限になります。
この金額以内で有効なリニューアルが出来るなら「安心できる」と判断してもよいのではないでしょうか。
もし「借りる必要がない」場合でも、借りる想定で計算してみるのです。
少し分かりにくく感じるかもしれませんが、「分かってみれば」簡単な理屈です。
前述のアパートの例で計算してみましょう。
家賃の値下げよりもリニューアルの方が、月の純利益が1.6万円増えることが分かりましたね。
この1.6万円が、月の返済額の1.5倍となる「借入額」を算出するには、純利益を1.5で「割れば」いいのです。(1.6万÷1.5倍=10,666円)となります。
つまり、月の返済額が10,666円なら「安心圏」です。
返済額10,666円とは、金利2%で10 年ローンが組めるとすると約116 万円を借りることができます(15年ローンなら約166万円)。
116万円(あるいは166万)のリニューアルで、6万円で貸せる部屋に変身させることが出来るなら、この企画は「安心圏」と判断できるワケです。
そして結果として、一部屋につき約5.5千円のキャッシュが多く手元に残ることになります。
その数字は、増えた純利益の1.6万円から、借入金の返済額10,666円を差し引けば計算できます。
(1.6万-10,666円=5,334円)
この結果を見て「なんだ、100万以上も金をかけて5,334円しか現金が残らないのか」と考えるのは、ちょっと待ってください。
これは、オーナーさんの物件の価値が上がり、そのために借りたお金の元利金を返済した後に、手元に残ったものです。
財産の価値が上がったら、その対価として現金が手元から減るのが普通ですが、上手くリニューアルすれば、価値が上がり現金収入も増える、のです。そして思い出してください。
この計算は運営費も差し引いた「正真正銘」のキャッシュフローになっています。
この「返済倍数」という指標を計算してみると、リニューアルで迷った時の判断に、大きく役立ちます。
迷った時には使ってみてください。

ここまで分かったところで、どんな選択をすれば良いかを考えてみます。
ひとつは、何もしないで、5万円のまま募集を続ける・・・・。
今までも4戸が長い間「空いたまま」になっていますから、良い選択と言えるでしょうか。
次に、家賃を4万円に下げて募集する・・・・。
これなら「すぐに」決まるでしょうが、入居中の6戸も下げていかなくてはならないでしょう。
最後は、一部屋につき116万円(15年ローンなら166万)をかけてリニューアルして6万円で貸し出す・・・・。
前述の計算のように、借りたお金を返済しても、手元に約5.5千円のキャッシュが増えます。

以上のように、賃貸経営をしていく中では「何かを変える」ことが必ず必要な時があります。
建物と設備は「老朽化」していくものですから、それは避けられません。「どのように変えればいいか」と迷いますね。
そのときに判断の助けとなる「指標」や「アドバイス」が、とても役に立つはずです。

 

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