賃貸物件を経営する目的はいろいろとありますが、例外なく共通している目的は、「所有不動産の収益を最も多くすること」と、
「所有不動産の価値を最も高くすること」、でしょう。
そのための公式として
「利益÷期待利回り
=不動産の価格(価値)」
がよく使われます。
これは、年間の利益が1000万円として、期待利回りが10%なら、不動産の価値は1億円となります。
(1000万円÷10%=1億円)
※利益とは、「営業純利益=NOI(エヌオーアイ)」です。賃料収入から「運営費=物件の経営に必要となる費用」を差し引いたもので、賃貸経営の「本当の収益」です。
※期待利回りとは、
オーナーがその投資に期待する利回りのことで、キャップレートとも呼ばれます。
話が横道に逸れますが、「キャップレート」というのは地域によって異なります。
たとえば、東京六本木より札幌の方が投資リスクが高いので、キャップレートも当然に高くなります(ハイリスク・ローリターンでは誰も投資しませんよね)。
地主さんが土地活用で賃貸経営を始めた場合は「期待利回り」を意識していない場合が多いかもしれません。「土地をそのままにしておくと固定資産税も高いし、賃貸建物を建てれば相続税も下がるから」という理由で始めるので「いくら儲けよう」という発想がないのは当然ですね。
でも、賃貸経営という不動産投資をした以上、投資した金額に対して「いくら儲けたい」という「期待の利回り」を設定した方がいいと思います。
ひとつの「目標」ですが、目標があった方が「良い、悪い」の判断ができますよね。
ちなみに、建築の提案時に「利回り」が提示されたかもしれませんが、おそらくそれは「表面利回り」です。今回テーマとしているのは「実質利回り」とか「ネット利回り」と呼ばれるものなので、「表面利回り」より低くいはずです。
先ほどの公式が言わんとしていることは「利益を多くすることが不動産の価格を高める」ということですね。
だから賃貸経営の大切な考えは、
「なるべく家賃を落とさないで、いかに早く空室を決められるか」
ということになります。
賃貸経営の一年の決算をしたときに去年よりも利益が落ちていないか、を気にすべきです。
利益が落ちていたら不動産の価値が下がったことになってしまうので、原因を突き止めて改善しなければなりません(建物が古くなった分が下がるのは仕方ないですが)。原因として考えられるのは、
・家賃収入が減った
・契約家賃が下がった
・礼金や更新料の収入が減った
・解約による退室が増えた
・空室期間が長くなった
・滞納が増えた
・入居時のサービス(フリーレントなど)が増えた
・運営コストが増えた
・原状回復費用負担分が増えた
・資本支出とならないリフォーム工事を行った
(これなら来期の利益増に貢 献するかもしれません)
・空室増に伴って業者へのバックフィー(広告料)が増えた
など、いろいろと想定できるわけです。
この中には容認できるものもありますし、防ぐことができるものもあります。
その改善点を見つけて実施して、来期の利益を増やすことを目標にします。
このように考えると賃貸経営は、目の前の「空室」だけを問題にするのではない、ことが分かりますね。そして、ここで問題にしているのは「利益」です。家賃収入ではないことにご注目ください。
家賃収入が減っても利益は増やせますし、反対に家賃収入が増えても利益が減ることもあります。
賃貸経営は、
・入居者を住まわせて、
・家賃を集金して、
・クレームがあれば処理をして、
・物件の清掃や点検を行う。
と考えがちですが、
利益を目標に近づけるためには、
・なるべく家賃下げず入居させて、
(そのためには物件の価値を高める必要があります)
・解約を減らし長く住んでもらい、
・日常の運営コストを下げること、
が大切なテーマとなります。
これらを単月ではなく年次単位で、あるいは数年単位で把握して管理します。
そのために、オーナーの「物件の競争力」が、他のライバル物件と比べて見劣りしないようにしなければなりません。
「物件の競争力」を高めるとは、
・リニューアルの実施
・間取りを今のニーズに合わせる
・外観を工夫する
・設備を入替・追加をする
・募集方法を見直す
・「ゼロ円」で入居可能 など
・入居者サービスで差別化する
・いわゆるテナントリテンション
・入居条件を緩和する
・ペット可が代表的
等の方法を駆使するのもひとつの選択肢です。
「物件の競争力」を高めるために再投資することもあります。
前に「賃貸物件を10年単位でとらえよう」という考え方を紹介させていただきましたが、築年数が20年を超えたところでリニューアルをする、というのは重要な検討事項になります。そのままにしておくと、莫大な維持費用が降りかかってくるからです。
もちろん「何もせずにこのまま維持する」という選択肢もあります。
賃貸物件を所有する「オーナーの目的」によって異なるのです。
そして、物件に再投資を検討するときは、
「再投資した額が賃料収入増で回収できるか」という見通しを立てることが大切です。
そのために、ちょっとした「投資分析」が必要です。
「投資分析」というと大げさに聞こえますが、たとえば「エアコンを付けたら賃料がいくら上げられる?」という問いに対して答を考えるのです。
あるいは「エアコンを付けたら、どれくらいで部屋が決まる?」でも同じです。
もし「3000円上げることが可能」と判断できるなら、10万円の投資で「割が合うか」を考えます。
この場合は約3年で「元が取れる」ので、投資分析としては「良」ですね。
もうひとつ、再投資するということは新たな借り入れを伴うので「ファイナンス」の条件も重要です。
単に金利だけでなく「返済期間」もキャッシュフローに大きく作用します。
新規に建てるときは低利で貸すでしょうが、リニューアルの時は金融機関によってバラツキが大きいでしょう。
どんな条件でローンで借りることが出来るかも、再投資を成功させるためのポイントになります。
このような知識は賃貸経営をするうえで「必須」ではありません。
多くのオーナーさんがお持ちではないと思います。
「この土地をどのように活かそうか」とか、「相続税をいかに下げようか」が大きなテーマですから、知識を持っていないのは当然です。
でも、持っていた方が「より利益を増やせる」のも事実です。
初心者程度であっても、ご自身で知識を得られるか、パートナーとしての不動産業者に依存するか、どちらにしても「少しは」意識された方が、いい賃貸経営ができるのではないでしょうか。