建物の30年間のメンテナンスを考えると、賃貸経営においては、築20年以降の運営を「どう考えておくか」が極めて重要な事が分かります。
人間で言うと60歳から「どう生きるか」でしょうか。今回は、そのようなお話です。
建物や設備は完成したと同時にすでに老朽化が始まっています。
木造なら25年、鉄骨や鉄筋なら35~40年以上は「頑張ってほしい」と思いますが、老朽化の進行に伴って「手を入れる」必要があります。
つまりメンテナンスの実施ですが、それには費用がかかります。
賃貸経営の目的は「利益をあげること」なので、建物設備のメンテナンスは常に「費用対効果」を優先します。
費用はかけなければなりませんが「かけ過ぎ」はダメなのです。
ではどのようにすれば、「ベストなタイミング」で「最も安く効果的な」メンテナンスを行うことができるのでしょうか。
それには「予防メンテナンス」という発想があります。
人間で言えば「定期健診」によって、悪くなりかけている所を早めに見つけて予防するのと似ています。
「早期発見・早期治療」ですね。たとえ癌でも、早めに発見できれば治癒が可能な世の中になりました。
このように、建物躯体や設備を定期点検することによって、傷んだり壊れそうになっている所を早めに見つけて手当することが「予防メンテナンス」の考え方です。
工事費用はかかりますが、完全に壊れてからの工事ではもっとかかってしまいます。
私たち人間も、早期発見できれば薬の投与や生活改善で治療できますが、病状が悪化してからでは大手術が必要になってしまうのと同じですね。
建物の場合は、年数の経過によって劣化する部位が共通しているので「予防しやすい」という側面があります。
例えば、「鉄部の錆び」は5年を過ぎると発生します。
なので5年ごとに塗装することが予定できます。
さらに10年ごとには防水処理の予定も立ちます。
屋根(カラーベスト)や外壁(モルタル・サイディング)や雨樋は、10年で汚れや色褪せ、ひび割れなどが発生するので、10年ごとの塗装の予定を立てることができます。
排水管の5年ごとの高圧洗浄、外部建具や外構は15年が目安です。
室内設備も、エアコンや給湯器は5年で修理、10年で交換といった予定を組みます。
ユニットバスなど水回りの設備も、5年ごとの修理や10年ごとの部分交換が予定できます。
このように部位ごとの劣化が、経験則から正確に予想できるのが建物・設備の特徴です。
人間の場合はこうはいきません (50肩とかありますが・・・・)。
以上のように、経過年数に応じて必要となるメンテナンスが予想できるので、かかる費用も計算できます。
そして、30年間に必要な工事費用の合計額を360(30年間の月数)で割ると、毎月積み立てるべき金額の目安が分かります。
その標準となる金額(一戸当たり)は以下の通りです。
1K~1DK 4,000円~5,000円
1LDK~2DK 5,000円~6,000円
2LDK~3DK 7,000円~8,000円
(日本賃貸住宅管理業協会調べ)
いかがでしょうか。2DKの場合は一部屋ごとに毎月5,000円~6,000円を積み立てる必要があります。
これは「空室の場合も」ということになるでしょう。
このメンテナンス計画のお手本は分譲マンションです。
マンションの区分所有者は毎月多額の「管理費」を負担していますが、その一部は積立金になっています。
その額は、前述したようなメンテナンス工事費用の総額を区分所有者の持分で割って算出しています。
分譲マンションの住人は「自分の家」なので、その費用負担を承知でマンションを購入しています。
しかも全員で負担するので、一人の負担は重くありません。
オーナーは全部を負担しなければならないのが「厳しい」ところです。
しかし費用を掛けないと、家賃が下がったり、空室が長引いたり、あとで多額の修理費用が発生するというリスクを背負うことになるので負担しない訳にはいきません。
実は皮肉にも、築10年以内はほとんどメンテナンス費用がかかりません。
一番多くかかるのは築20年を超えてからです。つまり、収入の多い時期にはメンテナンス費用は必要なく、収入が極端に減る頃に費用は最も多くかかります。
「アリとキリギリス」ではありませんが、春夏のうちに穀物を保管しておく必要があるのです。
現実的でない話をあえてさせていただきますが、もし賃貸建物を、20年経った時点でスッパリと取り壊す計画なら、メンテナンス費用はかなり少なく済みます。
メンテナンス費用の半分以上が築20年以降から必要になるのですから。
あるいは、ローンを20年で組んでおいて、完済した時点で新たな借入れを起こして大規模なリノベーション工事を行う計画なら、必要な積立金額は随分と下がります。
つまり賃貸経営を長期で見るとき、築20年以降をどのように考えておくかがとても重要です。
別の記事で㈱リクルートのデータによる記事を紹介していますが、「築20年以上の賃貸物件に入居する人が増えている」と報告しています。
その理由はリノベーションして古さを感じさせない物件が増えた事である、と分析しています。
世間ではすでに実行されているのですね。
そして、そのような20年後の計画が初めから明確なら、築15年~20年頃に大金をかけてメンテナンスをする必要はなくなります。
このように、一番お金がかかる築20年以降をどのように運営していくかを想定することは、賃貸経営の中でとても重要なテーマです。
さて、前述で計画した工事は必ず実行されるものではありません。
例えば「鉄部の錆び」の塗装工事のために5年後に現場を確認した時に、「まだ大丈夫」と専門家が判断すれば工事は翌年以降に持ち越すべきです。これを「繰り延べメンテナンス」といいます。
30年間で5回予定していた工事が4回で済めば経費の節約になります。
しかし予定があるから、「工事すべきか」を検討することが出来て、結果的に「繰り延べる」判断が下せるのです。
このように、ベストタイミングで工事を実施するためには、メンテナンス計画を立てるだけでなく「定期点検」が欠かせません。
定期的に建物や設備をチェックすることによって劣化の進行を見つけることができます。
以上のように、まず予防メンテナンスを心掛けること。
そして築20年以降の具体的な運営を考えておくことが、賃貸経営で収益を上げ続けるための近道と言えます。