前回の最後に、ご所有の物件が「いくらで売れるか」を意識しましょう、というお話をしました。
もちろん仮定の話で、実際に売る必要がないことは言うまでもありません。
「売る」ことを意識すると「価値」が気になるので、必然的に価値を高めることに意識が向く、という効果を期待してのことです。「価値が高い」とは「しっかり稼いでいる」ということですから、 「部屋を何とか埋めるために家賃の値下げを繰り返す」、という行動は正しいだろうか、という自問自答が必要だと思います。
答えは、それぞれのオーナーさんの考え方の中にあります。
さて、今回は更に想像を膨らませて、“中古アパートを購入する”シミュレーションを考えてみることにします。もちろん、オーナーさんに積極的な不動産投資を勧めるつもりはありません。
オーナーさんの中には、ご所有の土地を有効に活かすために賃貸経営を始められたケースもあるでしょうし、相続税などの税金対策で建物を建てたケースもあると思います。どちらかと言えば、「積極的に賃貸住宅経営を始めたわけではない」というオーナーさんも多いと思います。それなのに、他人が経営している築年数の古い中古アパートや一棟マンションなど、誰が好き好んで購入するのだ、と思うかもしれません。
なので、あくまでシミュレーションにお付き合いいただくだけの話です。でも、何かが見えてくるかもしれません。
まず素朴な考えとして、賃貸住宅の収益で残った現金を金利の低い預金に置いたままでは勿体ない、という想いがあります。オーナーさんが資本に対して、少なからず「投資する」というお考えがあるなら、銀行の口座に置いていても達成することはできませんね。
さらに最近のニュースでは、日銀が「量的緩和」「ゼロ金利」などを盛り込んだ金融緩和策を決めました(10月8日の記事)。
日銀が、新たな資金を不動産投資信託(J―REIT)の購入に充てる、ということは、不動産投資の市場を活発にさせるのでしょうか。金融機関は不動産投資向けの融資に前向きになるのでしょうか。興味深いですね。
もうひとつ、想像だけの「購入シミュレーション」で売りに出ている物件を吟味すると、自分の物件の現状が見えてくる、効果があるかもしれません。では、始めてみましょう。
不動産情報の大手ポータルサイト「ホームズ」で売りアパートを検索してみると、沢山の売り物件の情報が掲載されていて驚かされます。一度、近隣の売り情報をご覧いただくといいと思います。
ひとつの物件を無作為に選んでみます。価格は手頃な5000万円程度のアパートにします。
インターネットに掲載されている「収益物件」のデータには、正確な間取の面積や築年月日などが空欄のものが多いので、ある程度は予想で補います。右上の物件を選んで、現地で物件調査を行い、管理会社にも聞き込みを行います。必要なら区役所にも行きます。
最寄駅:JR浦和駅駅歩12分
土地の面積:180㎡
建物の面積:180㎡
間取:1DK
戸数:6戸(募集中3戸)
構造・木造2階
築年数:18年
満室時家賃:504万円
価格:4800万円
【近隣の状況】
浦和駅は、乗降客数79,376人でJR東日本の中で51番目なので多い方です。浦和区の人口は146,346人、 5年で4,300人増えています。微増の範囲ですが、人口が減っている地域ではありません。周辺に大学も多く一戸建てを中心とした住宅も広がっています。
【室内の状況】
空いている3室はリフォームされていますが間取と設備は変更されていません。排水管、給水管、雨漏り等の異常はないと報告されています。一番の問題はユニットバスがトイレ一体式の不人気なタイプ、だということです。
【過去の修繕工事】
3年前に外壁塗装の吹き替えと防水工事を行っています。
【インフラ工事】
ケーブルテレビが引き込まれているので、高速インターネットや地デジ放送・BS放送などはクリアしています。
【管理状況】
地元の良質な管理会社に委託されていたので、滞納もなく良好な状態のようです。管理料は5%です。
【空室状況】
間取は全部屋同じ1DK・30㎡でフローリングです。エアコン・室内洗濯機置場以外に特徴のない室内です。
【アンケート】
18歳~29歳の入居者の希望設備・仕様のベスト3とワースト3は下記の通りです。
<ベスト3> ~欲しいもの~
1位、インターネット。2位、オートロック。3位エアコン
<ワースト3>~嫌われるもの~
1位、3点式ユニット。2位、畳。3位、外の洗濯機置場。
このアンケートで気になるのは、「オートロック」が装備されていないことと、「3点式ユニット」に該当する、という2点です。
さて、購入するかどうかの検討です。購入する時に絶対に施工したい工事として、
・3戸の3点式ユニットを取替
・1階の部屋と前面道路との間に目隠しフェンスの設置
・ゴミステーションを設置
・その他、細かな目に付いたところの修復工事
これらの工事を見積もったところ450万円という金額が提示されました。そこで投資金額を5000万円内で収めたいので指値を入れることにします。つまり購入コスト(仲介手数料、登記費用、税金等)も含めて5000万円以内です。450万円くらいの値引き交渉です。
【募集条件】
現在入居中の部屋は平均で7万円の賃料(共益費含む)が取れています。この物件資料の「満室賃料」も7万円に基づいて計算されています。「満室稼働時の表面利回り 10.5%」と謳っているのは、年間504万円の賃料収入を想定して、物件価格の4800万円で割って計算したものです。
年間賃料504万÷価格4800万=利回り10.5%
しかし、近隣の募集賃料を調べた結果、たとえ工事をしたとしても7万円の賃料を維持するのは難しいと判断しました。想定賃料は6.5万円で計算することにします。
これで投資分析をしてみます。
・自己資本 15,000,000円
・ローン借入 35,000,000円
(18年返済 金利2.5%)
・投資総額 50,000,000円
①総潜在収入 4,680,000円
空室損・滞納損 -468,000円
②実効総収入 4,212,000円
運営費 -702,000円
③営業純利益 3,510,000円
ローン支払額 - 2,410,000円
④キャッシュフロー 1,100,000円
以上のような結果になりました。
①は、6.5万円×6戸×12ヶ月で年間の賃料収入を計算しました。 「空室損・滞納損」は10%を見込んでいます。「運営費」は、管理会社に支払う管理料や税金と保険、退室時にかかるリフォーム費用等ですが、総賃料の15%としました。
最後にローンの年間支払い額を差し引くと、手元に110万円が残ります。
さて、この不動産投資にゴーサインを出しますか?
この物件の収益率は7.02%です。
広告の10.5%より3%も下がりましたが、これが本当の実力です。
計算式 (351万円÷5000万円)
自分で投資した1500万円に対する配当率は7.33%です。
計算式 (110万円÷1500万円)
この配当率7.33%が収益率7.02%より少し高いので、この投資はレバレッジ効果が+(プラス)と評価されます。
つまり、銀行から借り入れた方が全額を自分で用意した時より、利回りが高くなっているからです(若干ですが)。
さて、シミュレーションはこれで終わりとしましょう。肝心な点は、ご自分の物件を、このように第三者の冷静な目で見直すことが大切なのではないでしょうか。
他人の物件を真剣に評価するときは、マイナスポイントを必死に探します。それを見逃せば赤字になるかもしれないからです。
でも、購入を前提にするなら、ケチばかり付けるのではなく、どのように改善すれば安全な賃貸経営ができるか、可能性を一所懸命に検討するでしょう。
自分の物件だと愛着もあるので、「こんな新しい設備が付いてるのだから、この条件で決まるはずだ」と考えてしまうのですが、第三者の冷静な目は、「その設備は付いていて当たり前」とか「さらにこんな設備も必要」という改善提案になります。
さらにシミュレーションであったように、自分にとって初めての地域なら市場分析を念入りに行います。駅の乗降客の推移や人口の増減が気になるはずです。大型の商業施設が誘致される可能性とか、工場や大学の存在も気になります。
それに対して、何年も前からこの地域に物件を所有しているなら、もっともっとこの地域に関するデータや知識が豊富になっているべきですが、意外にも人口統計すら把握していないかもしれません。
もし、人口が減り続けている地域ならば賃料相場は下がり続けるのが通常です。
反対に人口が増えている地域なら、古い物件でも賃料が高止まりしています。
さて、私たちの地域はどうでしょうか。人口は減っているでしょうか。増えているでしょうか。
どのような年齢層向けの間取が足らないのでしょうか。
その年齢層の「ベスト3」と「ワースト3」の設備・仕様は何でしょうか。ご自分の物件の「購入シミュレーション」をしてみると、色々なことが見えてくるかもしれません。