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【賃貸管理中級編⑤】滞納賃料の法的回収の知識

ほとんどの借主は保証会社が入っているので
家賃集金と督促は丸投げだと思いますが、
管理物件の中には個人の連帯保証人による契約もあるでしょう。

その場合は管理スタッフが督促することになります。

そこでは滞納発生から45日間に行うべき「初期督促」の手順を説明しました。
ショートメッセージ、文書、電話、訪問、という手段を用いて、
借主と保証人に対して「ソフトにしつこく」請求を続けます。

入居審査がしっかりされているなら、
この45日間の初期督促を行うことで、
滞納が解消されるか、
任意による契約解除による退去の交渉が進んでいるはずです。

連絡がまったく取れないとか、
誠意ある対応が見られない相手には、
つぎは法的手続きに移行することになります。

45日を過ぎた頃から、
今までと同じ督促を続けながら、
法的手続きの準備も進めます。

そして滞納から90日を過ぎたところで、
時間をおかずに法的手続きが開始できるようにします。
(実際にやるかどうかは別として準備だけは整えておくべきです)

これが大家さんの被害を最小限に食い止めることになります。

ところで管理会社として、
大家さんのために法的手続きを行おうとする場合、
「非弁活動」について知っておく必要があります。

「非弁活動」とは、

弁護士の資格のない者が報酬を得るために
債権の取り立てなどの法律事務を取り扱うこと。
と定義されています。
そして この行為は弁護士法72条で禁止されています。

つまり管理会社が、
大家さんから管理料をいただいている一環として、
滞納家賃の回収の法的手続きを行うことは非弁活動となるのでしょう。

前の説明で、
「法的手続きが開始できるようにします」と言いましたが、

実際にその行為を行うのは、
弁護士か有資格の司法書士か、
あるいは大家さんご自身ということになります。

管理会社は そのサポートに徹する、ということです。

しかし、だからと言って、
管理会社が法的手続きについて、
無知で良い、ということではありません。

まず、
滞納発生と同時に開始される初期督促は管理会社の役目です。

借主が任意に滞納家賃を支払うことを求めながら、
任意では支払おうとしない借主・保証人に対しては、
法的手続きに移行することを決断して、そのタイミングをはかる必要があります。

大家さんは基本的には、時間とお金のかかる法的手続きに躊躇しますが、
このタイミングが遅れると被害額が拡大してしまう場合がほとんどです。
そのときの大家さんの説得も管理会社の重要な役目です。

そして、大家さんご自身で行っていただくか、
どの弁護士や司法書士に依頼するかについても、
管理会社がアドバイスするべきです。

では、滞納家賃回収のための法的手続きには、
どんな方法があるのでしょうか?

ここでは5つの方法を順に解説いたします。

1.明け渡し訴訟(通常訴訟)

賃貸借契約上の法的手続きで一番に思い浮かべるのはこの方法でしょう。
滞納家賃の請求と同時に、
賃貸借契約を解除して建物から立ち退きを求めます。

明け渡しの判決を得るためには家賃を滞納している事実だけでなく、
貸主と借主の「信頼関係が破綻した」と裁判官に認められる必要があります。
そのため、1~2ヶ月の滞納では「破綻した」とは認めてもらえません。
以前は「6ヶ月以上滞納しないと裁判にできない」と言われたようですが、
最近では3ヶ月の滞納でも裁判所は訴状を受け付ける事例が多くなっています。

管轄するのは簡易裁判所と地方裁判所になります。

明け渡しを求める不動産(建物の一室)の、
固定資産税評価額に0.5をかけた価額によって、
140万円を超えなければ簡易裁判所、
140万円を超えたら地方裁判所が管轄になります。

また、滞納家賃の回収だけを求める裁判の場合は、
請求金額が140万円を超えるかどうかで、
管轄が簡易裁判所と地方裁判所に分かれます。

大家さんが自ら裁判を起こすことは可能ですが、
この明け渡し訴訟は弁護士か司法書士を代理人として依頼する方が、
スムーズに解決につながります。

滞納3ヶ月の時点で、回収よりも明け渡しを優先するなら、
明け渡し訴訟が、一番確実で早く解決できる方法でしょう。

裁判が行われて首尾良く明け渡しの判決がとれても、
借主が判決に従わないときは、
さらに強制執行の申し立てをする必要があります。

この一連の流れについても、
経験豊富な弁護士や司法書士なら、
手順良く進めてくれるはずです。

しかし弁護士や司法書士なら、
誰でも建物明け渡し裁判の経験が豊富な訳ではありません。

裁判を起こすほどの不良借主を入居させたことは大家さんの不幸ですが、
この時点で望めることは一日も早い解決です。
それが出来るのは、明け渡し訴訟の実務に詳しく経験の豊富な専門家です。

管理会社は、その条件に合う弁護士や司法書士を探して、
大家さんに紹介することが求められます。

2.公正証書による回収

滞納家賃の督促をしていると、
借主が「必ず払います」と言って、
支払期日を延ばすように交渉してくることがよくあります。

通常は「支払い約定書」を作成するのですが、
これは私文書になるので強制力がありません。
約束を破っても「今度は必ず」と言って逃げられてしまいます。

そこで金銭を支払う約定書を「公正証書」で作成する、という手段があります。

公正証書の詳しい説明は、この記事ではいたしませんので、
知らない方はインターネットで調べてください。
不動産業務に従事しているなら知っておいて損のない知識です。

支払い約定書を公正証書で作成することの大家さんのメリットは、
1つは借主や保証人に与える心理的なプレッシャーです。
やはり私文書よりは重みがあります。

2つめは強制執行できることです。
これも、実際に執行するというよりも、
その可能性が心理的プレッシャーを与えます。

この公正証書による金銭の支払い約定書は、
借主だけでなく保証人まで巻き込むと強力な強制力となります。

支払い交渉には応じるが、
なかなか支払おうとしない借主と保証人に向いている方法です。

3,支払督促の申し立て

金銭を請求する手段として、この「支払督促申し立て」は、
とても便利で強力な方法です。

裁判を起こさないで、最後は強制執行まで出来るという強力な手段です。

管轄は簡易裁判所です。
請求できる金額に上限はありません。

簡易裁判所に行って、家賃滞納の事実を説明して、
借主に督促してほしいと裁判所に依頼すると、
裁判所が督促状を送ってくれる、という手続きです。

このとき裁判所は、一方の当事者である借主に、
事実の確認をすることなく督促状を送ります。

借主と保証人に同時に送ることができますので、
真面目な保証人なら驚くでしょう。
特に資産を持っている保証人は見過ごすことはできないはずです。

手続きの流れは次の通りです。

裁判所から借主・保証人に支払督促が配達証明で郵送されます。
支払督促を相手が受け取ってから2週間が経過すると、
裁判の判決確定と同じ効力が発生します。

次に貸主は「仮執行宣言の申し立て」を裁判所に行います。
裁判所から借主・保証人に仮執行宣言が配達証明で郵送されます。
仮執行宣言を相手が受け取ってから2週間が経過すると、
仮執行宣言付き支払督促が確定します。

貸主は相手が支払いに応じなければ強制執行の申し立てができます。

以上のように、最短で4週間で強制執行できる権限を持つことができます。

特に保証人に対しては大きなプレッシャーとなるでしょう。

この万能のような支払督促にも弱点があります。

最初の支払督促を受け取ってからの2週間と、
つぎの仮執行宣言を受け取ってからの2週間以内に、
裁判所に対して相手が異議の申し立てを行うと、
通常の訴訟手続きに移行してしまいます。
つまり普通の裁判になります。

この裁判は、滞納家賃の支払いだけが争われるので、
裁判に勝っても明け渡しの強制力は得られません。

もうひとつの弱点は、
相手が裁判所からの郵便を受け取り拒否する場合があります。
その場合は、休日送達による再送達や就業場所への送達などを検討することになります。

裁判などの手続きによらないで、
弁護士や司法書士に依頼しなくても可能な簡単な手続きが、
この支払督促申し立てのメリットです。

4.少額訴訟

少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる訴訟制度です。
管轄は簡易裁判所です。
原則として1回の審理で判決がでます。
これが大きな特徴であり、貸主側のメリットです。
裁判官から判決でなく和解を進められることもあります。

支払督促申し立てと比べると、
実際に裁判所から出廷を求められるのでプレッシャーが強いでしょう。
家賃の回収のみで、明け渡しの強制力は得られないのは、
公正証書や支払督促と同じです。

上限が60万円なので、使えるケースが限られます。

5.即決和解

最後に少し変わった手続きとして、即決和解という方法があります。

2番目に説明した「公正証書」を思い出してください。

滞納家賃の支払い約定書を、私文書で作成しないで、
強制力のある公正証書にする、という方法でした。

この公正証書による金銭支払い約定書は、
家賃の回収しかできず、明け渡しの強制力がないことが欠点でした。

そこで、滞納した家賃を支払うという借主との合意を、
公証人役場でなく裁判所に持ち込むという手続きです。

裁判所が作る合意文書は、公正証書ではなく、和解調書となります。

和解とは、通常は争っている原告と被告の裁判の中で、
裁判官の勧めによって行われるものですが、
今回は、裁判所に行く前に双方の合意が成立していることから、
「起訴前の和解」とも呼ばれる手続きです。

この和解調書の中に、
「滞納家賃の支払いの約束を守らないときは建物を明け渡す」、
という合意を入れることができます。

これによって、和解した内容を守らないときは、
明け渡しの強制執行が可能となります。

うまく進めば、借主と保証人が頑張って、
滞納家賃を支払って、通常のカタチに戻ってくれるかもしれません。
支払わない場合は明け渡しの強制執行ができます。

明け渡し訴訟よりも簡単に解決する可能性のある手続きです。

以上のように、滞納賃料回収を目的とした法的手続きとして、

明け渡し訴訟
公正証書による支払い約定書
支払督促申し立て
少額訴訟
「起訴前の和解」と呼ばれる即決和解

の、5つの方法を紹介しました。

この法的手続きの入り口とも言える手段として
内容証明郵便があります。
これについては賃貸管理入門編で解説しているので
ご確認ください。

管理会社として実際に経験することは少ないと思いますが、
「いろいろな方法がある」ことを知ることは無駄ではないでしょう。

最後に、大家さんが法的手続きを選択する目的を再確認しておきます。

法的手続きの一番のメリットは、
滞納している借主と保証人に対するプレッシャーです。

家賃を支払わないと、法的手続きによって、
給与や預金などが差し押さえされる、という事実は、
一般の人には動揺を与えるはずです。

それによって、自ら支払うとか、自ら退去するという、
任意での解決を期待します。

そのためには初期督促の最終段階で、
滞納借主と保証人に対して、この手続きに入る予告をする必要があります。
そのためには管理会社に知識が必要なのです。

二番目のメリットは国家権力によって契約を解除して、
滞納賃料を回収したり、建物を明け渡しさせることです。
これを強制執行といいます。

大家さんは最終的に この方法をとれるので
不良借主を入居させてしまった場合でも、
被害を一定の範囲で食い止めることができます。

管理会社は この法的手続きの目的を理解した上で、
必要なら早め早めに決断して手を打つことを、
大家さんに提案することが本来の役目です。

管理会社は大家さんの法的手続きを代理することはできませんが、
大家さんに必要な知識を与えて、最善の提案をするために、
必要な知識を学んでおいてください。

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