賃貸管理のスタートアップをテーマにした10回目です。
今回は、設備メンテナンスについて解説します。
この賃貸管理スタートアップの記事の最初で
賃貸管理メニューについて解説しました。
メニューは
・一般的な管理メニュー
・メンテナンスメニュー
・保証メニュー
の3本立てで構成されています。
この2番目のメンテナンスメニューに力を入れている管理会社は多くありません。
専門的な知識や経験が必要ですし、
大家さんも費用がかかるので積極的でないことが その理由です。
しかし賃貸経営を上手に運営するためには、
建物と設備のメンテナンスに手間とお金をかける必要があります。
そうすることで、建物と設備を長く使うことができて、
入居者さんにも快適に暮らしていただけるからです。
ということは、大家さんに役立つ賃貸管理としては必須のメニューといえます。
メンテナンスメニューは大きく分けて4つです。
共用部分の日常清掃
建物設備の巡回点検
法定点検
大規模修繕工事
それでは順に説明しましょう。
【日常清掃】
ひとつ質問をします。
賃貸と同じく部屋をお客様に提供する商売としてホテルや旅館があります。
ホテルや旅館で、建物周りやエントランス、ロビーを
日常的に清掃していない例があるでしょうか?
そんな旅館をご存知でしょうか?
さらにもうひとつ質問します。
日常的に共用部分を清掃しているアパートと、
まったく清掃しないアパートがあったら、
お客様はどちらを好ましく思うでしょうか?
2つの答えは明確で、日常清掃しない旅館はありませんし、
アパートにおいて日常清掃は、やらないよりやった方が良いと、
お客様は答えるはずです。
ではなぜ、日常的に清掃している賃貸物件が少ないのでしょうか。
答えのひとつは、不動産会社が提案していないからです。
もうひとつは、費用が高くて大家さんの予算に合わないからです。
そもそも、日常清掃に価値を見出して、
いくらまでならかけても良いという予算を持っている大家さんが少ないのです。
しかし一方で、お客様は共用部分が綺麗な物件を求めているのですから、
日常清掃を行うことは大家さんにとっての物件の差別化となりますし、
それを大家さんが許せる予算内で提供できるなら、
その管理会社の管理メニューも他社と差別化がはかれることになります。
ゆえに管理会社は、
リーズナブルで質の高い日常清掃メニューを持つべきなのです。
ひとつの基準を仮定しましょう。
共用部分を常に綺麗に保つために必要な清掃の頻度は週1回とします。
つぎに大家さんが清掃のために負担できる費用の限度は家賃の2%とします。
家賃の2%で週1回の日常清掃を提供することがひとつの目安となります。
どんな方法があるでしょうか?
ある会社は、
いままで外部にアウトソーシングしていた清掃業務を
内製化することにしました。
その要員としてパートを募集したところ、
応募してきたのは女性ではなく、50代と60代の男性でした。
いままで管理物件の3割は清掃を請け負っていて、
その分を外部発注費にあてていましたが、
その費用を採用するパートの人件費の財源としました。
そして、清掃していなかった管理物件の大家さんを説得に回って、
8割の物件で清掃メニューを採用していただけることになりました。
「週1回の質の高い清掃を家賃の2%以内で」というセールストークを使いました。
清掃による管理料収入は増えましたが、
人件費は今まで外部に払っていた範囲で収まりましたので、
余った予算で中古の軽自動車を購入しました。
いまではロゴ入りのジャンパーを着た男性二人が週に5日、
常に管理物件を巡回するようになりました。
行った先では清掃だけでなく、
設備点検や空室の簡易清掃までできるようになりました。
2人のスタッフが現場で問題を感じたときは、
翌朝一番にホワイトボードに書き込むようになりました。
今では管理スタッフが、
朝一番でホワイトボードをチェックするようになりました。
賃貸管理においては、
スタッフが現場に週一回以上訪れることが基本ですが、
それを実践するのは難しいのが現実です。
その理想が実践できるようになりました。
つぎに、幼稚園児のママさんで清掃部隊を作ったという事例があります。
同じく日常清掃業務を内製化しようとした管理会社で
パートを募集したところ、
応募してきた方が たまたま幼稚園児のママさんでした。
あと何人かのパートさんが必要とお願いしたところ、
同じ幼稚園に通う子をもつママさんを3人集めてくれました。
聞けば幼稚園は水曜日と土曜日が半日とか、
いつ熱を出すか分からないという事情で、
なかなか適当な仕事が見つけられないとのことでした。
そこで考えたのは、4人でひとつのチームを編成してもらい、
このチームに一週間ごとに清掃してもらう物件を割り当てることです。
割り当てられた物件を週一で清掃しさえすれば、
いつ清掃しても、そのときに4人のうち誰が清掃業務に参加しても,
その判断はチームに任せるという自由度を与えました。
各自が何時間従事したかは申告制にしました。
特に清掃が好きな訳ではありませんが、
仲間と自由にスケジュールを決められるのと、
都合の悪い時はお互いが遠慮なく言えるので、
張り切って続けてもらえるようになりました。
一年後には4人ずつのチームが3つに増えていました。
この清掃にかかる費用は、家賃の2%以内に収まっていました。
他にも、管理物件に入居している奥さんを口説いた事例もあります。
お子様が小さく、外で働くのは難しいと予想される奥さんに、
都合の良い時間に、一週間に一回の割合で共用部分の清掃を頼んだのです。
その奥さんは、お子さんが寝ている時間を利用して、
何回かに分けて一回の清掃をこなしているようでした。
家にいながら仕事が出来るので助かります、と感謝されました。
このような内製化ではなく外部へのアウトソーシングで、
「週一回で家賃の2%以内」という条件がクリアできるなら、
それも良い方針だと思います。
いずれの方法にしても、
安価で質の高い清掃を提供できるのは、ひとつの「強み」となります。
【建物設備の巡回点検】
人間も病気が進行してから治療するよりも、
予防することの方が重要視されるようになりました。
その方がトータルの医療費も安くなると言います。
車も同じで定期点検のおかげで、
道端で故障している車は見かけなくなりました。
建物や設備も同じです。
建物は完成した瞬間から老朽化が始まります。
賃貸物件の寿命を仮に30年としても、
途中で何らかの修繕が必要な建物の部位や設備がほとんどです。
壊れてから直すより、
壊れる前に修理する方がトータルの経費は少なく済みます。
なにより入居者に不便をかけなくて済むのが大きいです。
お客様に迷惑をかけてから、
初めて修繕に着手するのは正しい経営とはいえません。
人間の定期診断に匹敵するのが、建物設備の定期点検です。
これを毎月か隔月に行うのが、建物設備の巡回点検です。
そのためには前提として、
定期点検項目が明らかになっている必要があります。
以前に日管協が発行していた
定期巡回点検のためのチェック表というのがありました。
外構と建物本体と設備に分かれて、それぞれの項目が表示されています。
このような項目が参考になるでしょう。
【設備の法定点検】
仮に、賃貸物件のエレベーターで事故が起こってしまい、
借主や物件を訪れた人が巻き込まれて
被害に逢うという事態になった時、
所有者である大家さんが責任追及される可能性があります。
法定点検が完ぺきに行われていれば免れるかもしれませんが、
点検業者の選択に落ち度があったり、
あるいは法律で定められた点検が行われていなかったら、
所有者責任が重くのしかかるかもしれません。
火事で犠牲者がでた場合も同じことです。
新宿歌舞伎町のビル火災や、
東京・港区のマンションで起きた
シンドラー製エレベーターの事故などが
記憶にある方もいるのではないでしょうか。
このようなリスクを回避するために、
法律で定められた点検義務は必ず守らなければなりません。
少なくとも管理会社は、
このようなことを知らない大家さんに対して提案すべきです。
法定点検は、
消防法、建築基準法、水道法、電気事業法、浄化槽法などで定められています。
その中のひとつの消防法では、
建物の消防設備の点検が義務付けられています。
消火器、火災報知器、避難設備、誘導灯などが正常に作動するか、
破損や設置位置などを点検します。
機器点検は6ヶ月に1度、総合点検は1年に1度が義務です。
そして届け出は3年に1度が義務です。
対象となるのは延べ床面積150㎡を超える建物ですので、
多くの賃貸物件が含まれます。
建築基準法では、エレベーターの検査が義務付けられています。
エレベーターの機能全般を点検します。
他に、特殊建築物定期検査として、
1000㎡以上の建物には3年に1回の検査義務があります。
建築設備点検として、
1000㎡以上の建物は1年に1回の検査義務が課されています。
水道法では、簡易専用水道管理状況検査が1年に1回義務付けられています。
貯水槽や受水槽の検査と清掃を行います。
これらは資格を持った業者が行うものなので、
管理会社としては、業者を選んで、見積もりをとって、大家さんに提案します。
これらは管理会社の義務といえます。
【大規模修繕工事】
大規模修繕工事とは、
建物の性能を維持して老朽化を防止するために、
計画的に行なわれる修繕のことです。
10年15年という周期で行われ、
足場などを組んで行うので多額の費用がかかります。
その内容は、
鉄部塗装工事・外壁塗装工事・屋上防水工事・給水管工事・排水管工事などです。
足場を組むのは費用がかかるので、それが必要な工事をまとめて行います。
いつ工事を行うかを判断するために、
前提として長期修繕計画が作成されていて、
それに基づいて前述の定期点検を行い、
最適な時期を見つけて実施するのです。
これらは、分譲マンションでは当たり前に行われていることですが、
所有者が単独の賃貸物件の場合は、修繕計画の作成や、
その費用の準備をしている大家さんは多くありません。
長期修繕計画がなく定期点検を実施していない賃貸物件では、
築15年30年の時期を目安に、
大規模修繕工事を取り扱う業者に点検を依頼して見積もりをとり、
工事する項目を決めて実施することになります。
壊れてから直すのでは遅いのです。
建物と設備を長くもたせて、
修繕費用を効率よく出費するためにも必要な工事です。
つぎの記事では「初めて管理するときのチェック項目」を解説します。
賃貸管理の基礎が動画シリーズで学べます。 ↓
https://www.geonetwork.co.jp/pm_basic/