司会 ご存じの通り8月27日の大阪高裁で注目される判決が下りました。「更新料」が無効とされて、家主に対し、今まで受け取った更新料をさかのぼって返還するよう命令されたのです。
まず皆さんは、このニュースを聞いて、どのようにお感じになりましたか。
A 東京都内で賃貸住宅を3棟80室を所有しています。今回の判決は朝日新聞の記事で読みましたが、とても残念でした。この裁判は、消費者保護の名の下に、我々家主を執拗に攻撃している弁護士・司法書士グループとの戦いと捉えていたので、勝って鼻を明かしてやりたいと思ってましたから。
M 僕は首都圏近郊で古い賃貸住宅と、築淺の賃貸マンションを所有しています。僕も結果を聞いて驚きました。原状回復の裁判とは違い、更新料の方は負けないと思ってましたから。7月に京都で家主側が敗訴したのも特別例だと考えてました。
でも、裁判の地元の京都では影響が大きいかもしれませんが、我々のエリアには、ほとんど関係がないと思っています。
S 僕は首都圏、近畿、中部地域に、小さいですが賃貸住宅を所有しています。いま、福岡市内の賃貸アパートを購入する話を進めています。実は僕は、今回の結果は予測していました。と言うより、それが当然の結果のようにさえ思います。
AさんMさんには怒られるかもしれませんが。
更新料という慣習のない地域にも所有しいますので、あまり更新料に執着していません。
司会 有り難うございます。三者三様ですね。では、今後の影響について、どのようにお考えですか。Mさんは、ほとんど関係がない、と仰っていますが。
M はい、そう思っています。その理由は、京都の事例は「2年間で賃料4ヶ月分」の更新料を徴収していました。我々の地域は「2年で1ヶ月分」ですから4分の1です。これなら判決の結果は違うはずだし、そもそも裁判にもならないのではないでしょうか。
A 僕の見方は少し違います。あの判決のニュースを、首都圏の番組が取り上げていましたが、内容は「京都で更新料が無効になったのだから首都圏でも・・・・」というような、借主を煽るような編集でした。
そこでは、4ヶ月分と1ヶ月分の差などは一切紹介されていません。しかも、過去に払った分まで取り戻せた、という内容ですから、首都圏でも「我も我も」という借主が出てくるのではないでしょうか。
M Aさんは、少し心配しすぎではないですかね。実際、僕のところの借主さんから、この件に対する問い合わせは、1件もないです。
A 借主が何か言うとしたら、それは更新のときだと思います。
こちらから更新の通知を出したときに、「更新料は無効では」とか、「今まで払った更新料はどうなるのか」といった意見が出てくるのでは、と心配しています。
司会 もし、そのように主張する借主がいたら、どう対処するつもりですか。
A そこが難しく悩むところです。不動産会社の方とも相談しますが、想定して準備しておいた方がいいですよね。僕の80室の賃貸住宅の平均入居率は90%を割り込んでいますし、正直経営は楽ではありません。更新料の収入もしっかりと見込んで返済計画や修繕の予算を計算していますから、急に更新料がゼロになるのはキツイのです。更新料が取れないと分かっていたら、若干でも賃料を高く設定したと思います。
S 確かに理屈ではそうなるのですが、賃料を上げると部屋が決まらない、という現実もあります。
M 既存契約の借主が何か言ってきたら個別に対応しようと思っています。まず、契約したときの約束なのだから理解して欲しい、と説明します。「京都では無効だ」と主張しても、4ヶ月と1ヶ月の違いを説明します。ここは何とか話し合いで納得してもらうように頑張ります。
司会 とても現実的な対応ですね。それでも払いたくない、と言ってきたら?
M 最後は僕の方が折れる覚悟です。退去されてしまっては元も子もありませんから。特に古い建物の方は一度空くと次の入居者を探すのに苦労していますからね。
それでも「半月分ならどうですか」と言って、少しでも譲歩を引き出したいですね。
A 過去に支払った更新料まで返還して欲しい、と言われたらどうしますか?どちらかと言うと、その方が怖いのですが。
M それは、断固拒否するつもりです。そこまで認めたら、我々家主は大混乱となりますよ。今後の更新料をゼロにすることまで譲歩しても、過去の受け取り分まで返すなんて、そんなのは適正な商取引とはいえません。
いま貸金業の世界で、出資法の上限を超えた金利で契約しても、後でその過払い分は取り戻せる、ということで、多重債務者相手に商売を展開して、テレビ宣伝までしている輩がいますが、我々の更新料も同じように扱われてはたまりませんね。
S でも、大阪高裁の事例では、過去の更新料返還を命じてます。
M 京都の例は、家賃4万5000円の借主から、5年間で50万円の更新料を受け取っています。我々のところだったら、5年間で更新は2回ですから9万円しか受け取ってません。比べものにもならない数字です。
それでも、「返せ、返さないと訴える」と言うなら、「どうぞ訴えれば」ということですよ。
ただ、基本的には出ていかれては困るので、丁重な話し合いが基本です。話の通じない凶暴な借主には、断固対抗するつもりです。
A 借主が凶暴というより、消費者保護を看板にしている弁護士や司法書士に相談すると、そのように説明されて「その気」になってしまうのでしょうね。
司会 Aさんは、Mさんの意見をどう思われますか。
A 共感できます。
基本的には、契約の約束を守ってもらうことで説得したいと思います。話し合いが大事ですね。
「更新料無し」という条件では納得したくありませんが、場合によっては譲歩が必要かもしれません。更新料はいただく代わりに畳の表替え費用を出すとか、借主の希望の設備があれば検討してみる必要はあると思います。
僕の賃貸住宅の中に3DKがありますが、エアコンを設置してない部屋は、どの世帯にもありますから、それを付けてあげるとか。
ただ、Mさんと同じように「更新料の返還」には応じないと思います。それは、いくら何でも横暴過ぎるし許せませんね。
司会 Sさんはどうですか。
S 今回の判決を考えるときに、既存の契約の効力の問題と、将来の方向性については分けて考えるべきだと思います。
僕の所有物件の中で更新料があるのは、埼玉の賃貸アパートのみで、それ以外は大阪も名古屋も取っていないのです。周りの物件も皆取ってませんからね。
埼玉の物件についても、新規の募集条件では、「更新料なし」を謳ってもらっています。なので、必然的に既存の入居者からも更新料は貰えなくなっていくと思います。新規の募集条件は、不動産会社の店頭に貼り出されるし、インターネットにも載っていますからね。
A 収入が減るので経営が厳しくありませんか?
S 最初に所有したアパートが大阪市内の物件だったので、更新料に対する意識がありませんでした。僕は東京育ちですが、賃貸住宅に住んだことがないので、「更新料」というもを知らなかったのです。
だから、賃貸経営を考えるときに「更新料」は最初から見込んでいないのですね。
埼玉の物件を所有したときに、不動産会社から更新料の説明を聞いて驚いたくらいです。
ですから、更新料収入は、僕にとっては“おまけ”のようなものです。2年に一度の“おまけ”より、空き室が1ヶ月でも早く決まる方が大切ですからね。
司会 話が、「更新料の将来の方向性」に移りましたので、今後のあり方について お話ください。
A 僕は、これからも更新料を取っていきたいと思っています。そのために、消費者契約法違反と言われないような、契約書などの説明書類を充実させたいです。
今回の記事を細かく読むと、更新料の負担について十分に説明されていないことが敗因になっているようです。
借主が、更新料を負担することのデメリットを理解して、間違いなく払います、と宣言した上での契約、というように持っていきたいですね。
司会 Mさんは?
M 僕は、築年数の古い物件については、「更新料無し」にしようと考えています。
募集条件の中に、「更新料ゼロ!」と大きく書いてください、とお願いするつもりです。
以前は、礼金と違い更新料への意識が借主に低かったと思いますが、一般のニュースに流れて、消費者が更新料に注目を始めたわけですから、セールスポイントになり得るのでは、と思っています。
しかし、新しい物件については、競争力のあるうちは、更新料有りで勝負しようと思います。
その際は、Aさんが言われた事はとても参考になりました。書類上で、裁判になっても負けないような、しっかりとしたものを用意したいですね。
S 僕も新規募集で更新料は取りませんが、Mさんの言うように、当分の間、つまの首都圏でも更新料ゼロが当たり前となるまでは、それはセールスポイントになるのかもしれません。「空室対策」の手段の一つとして活用したいと思います。
司会 本日は有り難うござました。