質問
父から相続した20世帯の賃貸マンションを経営する
ことになりました。直近の年間家賃収入は約1600 万
円です。これから一年生として何を目指して経営すべきか、
その指針がありましたら教えてください。
回答
賃貸経営には様々な指標があります。
家賃収入、空室の状況、経費、収益など、どれも重要ですが、
ひとつだけでは正しく判断するのは難しいです。
そこで賃貸経営の大事な考え方を紹介いたします。
それは3つの目標を掲げることです。
目標① 機会損失をなくす
1つめは、機会損失を改善するという目標です。
1600万円というのは実際の年間家賃収入ですね。
しかし、その前提には「100%稼働したときの家賃収入」
があります。
空室が発生せずに年間を通して満室だったときの家賃収入
です。計算すれば簡単に出るはずです。
それが仮に2000万円だとすると、1600万円に対して400万円
の機会損失があったことになります。
これは2000万円の20%にあたります。
頑張れば得られたかもしれない収入です。
この機会損失の原因のほとんどは空室です。
20世帯もあれば退去は年に4 ~ 5 件はあるでしょう。
このときの空室期間が長いと機会損失が多くなってしまいます。
空室以外にも家賃の未回収や、フリーレントなどの入居時
家賃サービスも機会損失になります。
1番目の経営目標は、この機会損失を「10%に落とす」
などと設定することです。
そのために、空室対策を初めとして、どんな手を講じていくか、
が課題になります。
目標② 満室時賃料を嵩上げする
2つめは、このときの2000 万円という満室時賃料を「か
さ上げする」、という目標です。
家賃は築年数の経過や新しいライバルの登場で、
年とともに下がっていくのが普通です。
それをかさ上げするのは簡単ではありません。
しかし、自然に任せて下がり続けるのをただ容認するのか、
少しでも上がるように、あるいは維持できるように努力する
のか。
これも経営に必要な判断になります。
仮に家賃収入を上げる(あるいは維持する)ことを目標と
するなら、ある程度の投資が必要になります。
それは、各室のリフォームやリノベーションであったり、
建物全体のリニューアルであったりするでしょう。
もっと小さな投資もあるでしょう。
仮にAさんが、前記の2つの経営目標を掲げたとして、
数年後に、機会損失を10%に落として、満室賃料2000
万円を維持できていたら、実際の家賃収入は1800万円に
増えることになります。
素晴らしい成果だと思います。
もちろん簡単なことではありませんが、経営目標がシンプル
で分かりやすくなるのではないでしょうか。
目標③ 収益に着目する
最後の3つめは、費用対効果の高い経費を使って収益を
確保するという目標です。
今までは収入を増やすことが目標になっていましたが、
賃貸経営の目的は、収入を増やすことではなく「収益
を増やすこと」です。収益は、収入から経費を差し引
いたものですから、経費の使い方が重要になります。
もし、家賃収入を上げるために過大な投資をしていたら、
逆に収益が減ってしまうことになります。
反対に、経費削減のために必要な投資を怠ると、
結果的に家賃の下落や長期空室を招いて収益悪化を招く
こともあります。
なので、1と2の目標を達成するための、投資という
意味での経費の使い方が重要になるのです。
分かりやすい例をあげると、一部屋に300 万円のリノベ
ーションを検討するとします。
目的は家賃収入を上げて(あるいは維持して)、
空室期間を短くするという、1と2の目標を達成することです。
そこで重要なのは、1と2の達成だけでなく
「それで収益はどうなるのか」という視点です。
その視点は単年でなく複数年で考えることです。
場合によっては10 年単位で見ることです。
この視点で経費の使い方を判断して、収益を確保するのが
3つめの目標です。
漠然と目の前のことだけを見るのでなく、未来に目標を
描いて、そのために「何をするか」を考える。経営数値も、
結果だけを見るのではなく、先に予算を立てて対比してみ
ること。
このような「賃貸経営の考え方」もありますので、お父様
から引き継いで経営を始めるなら、ぜひ検討してみてください。
この記事は当社のオーナー向けニュースレター2021年11月号に掲載されたものです。