質問
賃貸住宅でも「置き配」が増えてきましたが
貸主として世間に認知されつつある置き配に、
どのように対応したらよいか考えています。
参考になるご意見をお願いします。
回答
3年前なら
「宅配業者が荷物を手渡さないで玄関に置いて帰る」
という行為は日本では非難の的だったと思います。
しかし現在では、
「不在時に便利だ」「接触しないので助かる」
などの声があがり、すっかり定着しつつあります。
しかし、このような新しい慣習は、
一方でトラブルや犯罪を生むこともあり、
落ち着くまでに紆余曲折があるのが通常です。
大家さんも、
ご自身の物件で行われる置き配について、
関心を持たれることは良いことだと思います。
その上で、
どのような対応策があるのかを考えてみましょう。
基本的な対応策を3つに絞ってみることにします。
1.何もしないで傍観する
置き配は、入居者さんと配達業者との取り引きなので、
大家様とは直接の関係性はありません。
そこに積極的に介入する必要はない
という考えもあると思います。
ただし、置き配された荷物が何度も盗難に遭うとなると、
物件内に犯罪者が複数回に渡って侵入していることになります。
これは物件の防犯問題ですので黙認はできません。
あるいは
オートロック付きの物件に入居者の許可で入った配達員が、
ついでに他の部屋に置き配するという、
いわゆる「オートロック突破行為」が行われているとしたら、
貸主として配達業者と向き合う必要はあります。
そのようなトラブルが起こった場合だけ介入する、
というのも、一つのスタンスではあります。
2.置き配は禁止する
多くの賃貸物件では、
共用部分に私物を置くことを禁止しているはずです。
子供用の自転車や、古新聞・古雑誌や段ボール箱などです。
禁止する理由は、見栄えが悪いですし、
子供がつまずいてケガをする危険もあります。
消防法では避難の障害となるものを
通路に置かないよう定めています。
置き配の荷物も私物ですから
本来は禁止行為に当たります。
一方で、宅配ボックスなどが提供されていない物件で、
コロナ禍で便利に使われている方法を
全て禁止するというのは、お客様視点の経営姿勢からみると
考えなければならない部分もあります。
ここは悩ましいところなのですが、
一つのアイデアとして「条件を設ける」という手段が考えられます。
共用部分の私物を禁止しているのは区分所有マンションでも同じです。
国土交通省は昨年6月に、
全国のマンションの管理規約のひな型となる
「マンション管理規約・標準モデル」を改正しました。
その中で注目を集めたのは置き配の扱いです。
その内容は、
「専用使用部分でない共用部分に物品を置くことは
原則として認められないが、
宅配ボックスが無い場合等、
例外的に共用部分への置き配を認める場合には、
長期間の放置や大量・乱雑な放置等により、
避難の支障とならないよう留意する必要がある」
というものです。
「原則は禁止だが条件付きで認める」という趣旨でしょう。
では、その条件とは︖ というと、
・24時間以上留守にするときは利用しない
・3時間以上の放置をしない
・他の借主の邪魔にならない場所を指定する
・同時に置ける荷物の個数と大きさは〇〇以内とする
などが考えられます。
全面禁止とするか条件付きで許可をするか、
という目的で置き配問題に関与するスタンスになります。
3.置き配を便利・安全に活用させる
借主に需要があるのなら、
もっと便利に使えるよう積極的に関わるというスタンスです。
一番に考えられるのは宅配ボックスの設置ですが、
スペースと費用の問題が壁になります。
これをクリアできるなら検討の余地は大いにあります。
しかし宅配ボックスも万全ではなく、
ダイヤル式の場合は、
配達員が設定する暗証番号を間違えていたり
未記入というトラブルがよく報告されます。
長く置かれたままの荷物でボックスがいつも埋まっている、
というクレームも耳にします。
せっかく費用をかけるのですから、
「設置したらおわり」ではなく、
設置後の利用状況をみて改善を続けていく必要があります。
宅配ボックス以外にも便利なサービスが提供されています。
オートロック物件では、
配達員に制限付きのロック解錠権を与えて、
借主が不在でも玄関まで運べるシステムもあります。
オートロックのない物件でも、
吊り下げ式の宅配バッグなどを利用して、
盗難被害が防げる置き配サービスもあります。
置き配の需要が高まるかぎり、
これからも多くのサービスが生まれるでしょう。
貸主として積極的に導入するのも一つのスタンスです。
入居者ニーズは時とともに変化します。
このコロナ禍では、高速インターネットや、
リモート会議向けのスペースというニーズが生まれました。
置き配もその一つです。
全ての新しいニーズに対応はできませんが、
その詳細を知って検討することは無駄にはならないと思います。
この記事は当社のオーナー向けニュースレター2022年3月号に掲載されたものです。