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「価値」をあげるか 「家賃」を下げるか

人がお金を払うのは、その「モノ」に価値があるからです。
100円ショップの商品も数百万円の貴金属も変わりありません。

オーナー様の賃貸物件も同様で、その部屋を契約するのは、お客様(借主)が「家賃に見合った価値」を認めたときだけです。
入居募集の重要な出発点は、この家賃と価値のバランスを、お客様の視点で正しく評価することです。

 オーナー様から時々伺う言葉で「私の物件は○○だから価値がある」というのがあります。
ご自身の物件に「思い入れ」があるのは当然ですが、もしかしたらそれは自己満足かもしれません。
どうしてもご自分の物件は、「身内びいき」とか「過剰評価」になりやすいものですが、そこに暮らそうとするお客様が「価値を認めるかどうか」が本当の評価ではないでしょうか。

 たとえば、6万円の家賃で5年間暮らした借主が退去したとします。
この6万円は5年前の適正家賃ですから、このまま原状回復工事だけで貸すなら家賃は下がっているはずです。
5年間で建物も設備も古くなっているし、いま6万円位で募集しているライバル物件は、オーナー様の貸室より新しく、設備も整っている可能性が高いからです。
このまま貸すなら家賃を下げることを検討すべきですし、家賃を維持するなら5年間で下がった価値を取り戻す必要があります。取り戻すには、設備を替えるか、内装を一新するか、外壁やエントランス等に手を加える等、様々な方法が考えられるでしょう。

 では、この適正家賃とは何をもって判断すればよいのでしょうか。
お客様である借主が、オーナー様のお部屋のどこに価値を感じるのか考えるとき、図のような秤(はかり)に例えると分かりやすいでしょう。
この秤(はかり)には、左側に「立地」「建物」「部屋」「設備」「条件」「サービス」という錘(おもり)があり、右側に「家賃」という錘(おもり)が乗っていて、均衡(バランス)をとろうとしています。

「立地」とは、駅からの所要時間、周辺の施設、人気エリアがどうか。「建物」とは、構造、階数、外観のデザイン、築年数、綺麗に清掃されているか。

「部屋」は、間取り、面積、内装、収納、使い勝手のよさ、明るさ、など。

「設備」は、エアコン、インターネット、セキュリティ、専用駐車場や駐輪場、ゴミステーションなど。

「条件」とは、ペット、楽器、年齢、初期費用や数ヶ月分の家賃サービスなど。

最後の「サービス」は、入居者の暮らしやすい環境を「どこまで」追求しているか、ということです。

 借主が暮らした5年間で、徐々にこの均衡(バランス)が崩れて、図のように秤(はかり)が右側に傾いたのです。
このままで募集すると空室期間が長引きます。

そこで秤のバランスを戻す必要がありますが、そのためには左側の錘の「どれか」を重くするか、右側の「家賃」を軽くするか、どちらかの方法しかありません。
どちらの方法を主とするかに正しい答えはなく、オーナー様の賃貸経営の目的や考え方によって異なります。

 それでは、まず右側の錘を軽くする「家賃の値下げ」から考えてみましょう。

家賃の錘(おもり)を軽くする

 家賃を下げれば、部屋は「どこか」の水準で必ず決まりますので、空室を埋めるための有効な手段であることは間違いありません。
しかし、そのデメリットについても理解しておくべきです。

 まず値下げすれば収益が減り、やがてキャッシュフローがマイナスになる危険があります。
現金の「持ち出し」が必要になる事態です。

 さらに収入が減ると経費が使えなくなりますので、建物設備の老朽化に拍車がかかり、またさらに賃料の低下を招きます。
老朽化の「負のスパイラル」に陥ると、最後の取り壊しまでの数年間が最悪の経営となってしまいます。

 つぎに「借主の質」が低下することも心配です。
同じ間取タイプでも、低額の家賃を希望する借主が集まることになります。
家賃滞納やトラブルが増えることが懸念されます。

 建物を取り壊す時の「立退き料負担」が重くなるケースも考えられます。
「低額家賃しか負担できない借主」だけが残ると、立退き交渉が難航しやすいのです。
オーナー様が転居費用を負担して、家賃の補助もしなければならなくなるでしょう。

 以上のように「家賃の値下げによる募集」にはデメリットがありますが、一方で費用負担なしで借主を獲得できる効果は間違いありません。
最近のお客様(借主)は、同じ間取タイプでも高額家賃のお部屋を望む層と、定額家賃を探す層に二極分化されて、中間の家賃層が決まりにくい傾向がある、という意見や見方もあります。
秤のバランスを戻すための「ひとつ」の選択肢であることは事実です。

価値の錘(おもり)を重くするには

 つぎは、左側の錘(おもり)を重くする方法を考えてみましょう。
これには、運営コストを負担する必要がありますが、どのように効率よく「お金を使うか」がカギとなります。

 まず「借主の退去を防ぐ」ためにお金を使う方法です。
共用部分をいつも綺麗に保って、設備が壊れる前に取り替えたり、新しい設備を追加したりすることによって、出来るだけ長く住んでもらえるようにするのです。
退去が減れば、そもそも空室対策に悩む必要がありません。

 つぎに「賃貸条件を緩和する」ためにお金を使う方法です。
「ペット可」にするならペットのための専用設備が必要です。
これからますます、ペット可の物件も増えるでしょうから、「ペットと暮らしやすい」という差別化が必要になります。

「高齢者OK」とするなら、バリアフリーなどへの対応や、孤立死を防ぐための手段が必要です。
たしかにリスクもありますが、これから増える一方のマーケットですので、無視するワケにもいきません。

 そして、「部屋をグレードアップする」ためにお金を使う方法です。
壁にアクセントクロスを採用したり、照明器具に洒落(しゃれ)たものを選ぶとか、家具や家電をセットして「そのまま」貸すなどのアイデアがよく聞かれるようになりました。
築20年を過ぎてくると借主のニーズに合わなくなっているので、「間取の変更」という手段も考えられます。費用負担は多額になりますが、建物の一生の「折り返し点」なら、費用対効果の合う計画も立てられるのではないでしょうか。

 最後に、「建物の外観を維持する」ためにお金を使う方法です。
外壁塗装や防水処理は、建物を長く維持するためには不可欠な工事で、これを怠ると寿命が短くなることもあります。
これは大規模修繕工事の範疇(はんちゅう)になりますが、家賃とのバランスを合わすために「積極的に行う」ことも、空室対策のひとつです。

 以上のように、左側の錘を重くしてバランスを合わせるための手段は様々です。

 左側の「価値の錘(おもり)」を重くするか、右側の「家賃の錘(おもり)」を軽くするかを考えてきました。
いずれにしても秤(はかり)のバランスを合わせることが、空室対策の出発点として重要であることはご理解いただけたのではないでしょうか。
あとは、この「目に見えない秤のバランス」を、どのように正確に把握するかという問題です。
そしてどの対応手段が、オーナー様の賃貸経営の目的に沿っているかという選択です。

 そのためにオーナー様には、管理会社が存在しているのです。

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