Q.築25年の木造アパートを所有しています。2階に住む70歳の男性入居者が、外出時に鉄骨の外階段を降りる際に、足を滑らせて下に落ちてしまいました。下から3段目ぐらいから滑り落ちたので、足首の捻挫と腕のかすり傷で済んだのは幸いでした。その後、近所に住む息子さんから「階段の手すりが“グラついて傾いた”のが原因なので貸主は損害賠償してほしい」と言ってきました。貸主に責任はあるのでしょうか。
A.その「手すり」の状態は?
Q.25年間でペンキの塗り替えはしましたが補強工事はしていません。強く寄りかかると「グラグラッと傾く」感じはあります。
A.いままでも事故があったのですか?借主から修繕要望や苦情があったり、貸主さんご自身は事前に知っていましたか?
Q.事故は今回が初めてで、他の借主さんからの要望や苦情もありませんでしたが、定期点検のときに、少しグラつくので「心許ない」という報告を受けていました。でも、それが原因で落ちるとは思えませんでした。
A.まず貸主の「工作物責任」について説明させていただきます。これは、民法717条で規定されている「土地の工作物等の所有者の責任」のことです。「土地の工作物」とは今回の場合の「階段の手すり」も含まれます。ここに「瑕疵」があって他人に損害を与えた場合は、所有者である貸主に責任がある、とする法律です。そして「瑕疵」とは、普通なら備えているべき安全性を欠いていることを言います。「工作物責任」には、所有者である貸主に故意や過失があったかどうかは関係なく損害賠償責任が及びますので、貸主にとって厳しい内容です。
もうひとつ「貸主の修繕義務」というのがあります。民法606条では、オーナーは賃貸する建物を提供するときは、安全で快適に過ごせるように、必要な修繕を行うことが義務付けられています。
これらは、賃貸経営を業とする貸主にとって義務であり「リスク」ですので覚えておいてください。
今回のケースでは手すりが外れたのではなく、体を支えるために手すりを掴んだら「グラついて傾いた」のでバランスを崩した、という事故だと思います。もし「手すりが外れた」なら、貸主は損害賠償責任を負うことになるでしょう。手すりには、借主が体を支えるために「よりかかる」ことは予想できますから、それが外れるのは、「通常は備えるべき安全性を欠いている」と言えますね。ただその場合であっても、通常より強い力で手すりに寄りかかった場合・・・・。たとえば4~5段上から足を滑らせて落下し、手すりに強く「寄りかかった」等の事情があったなら、「過失相殺」ということで貸主の責任が減額されることもあり得ます。
さて今回は「外れた」のではなく「グラついた」ことによる事故ですから、階段の手すりが少しグラつく程度で「本来あるべき安全性を欠いている」といえるのか。もうひとつは、「そのグラつきが原因で借主が転落したのか」、という点を確認する必要があります。
70歳のご老人が鉄骨の階段を降りる際には、手すりに「しっかりとつかまって」一歩一歩と降りる姿は想像できますね。あと数段のところで手すりがグラついて、それが原因で足がもつれて、下まで滑り落ちた・・・。ということなら「グラつきが原因で転落した」と言えるかもしれません。もちろん、この場合の「ご高齢」は、借主の落ち度にはなりません。
したがって、どんな状況で事故が起きたのか、その事実関係や一連の流れを調べる必要があります。事実によっては、賠償額は相当程度減額される可能性もあります。
重要な教訓は、賃貸経営を行う貸主にとっての「リスク」を忘れない、ということです。通路・階段・窓・鍵・ベランダの手すり等の、入居者の安全に関わるものについては、定期的なチェックと予防措置がとても大切だということをご認識いただけたら幸いです。