前回の記事で、
「この投資が割に合うか?」と心配するオーナーへの答えとして
簡易版のシミュレーションを作成しました。
しかし単年度だけの簡易版シミュレーションでは
「読み取れないリスク」が存在することも分かりました。
このままだと「少し」説得力に欠けています。
そこで本日は、
5年ほどの複数年に渡った2つのシミュレーションを作成する方法を説明します。
このシミュレーションで、オーナーの決断を「後押し」したいと思います。
またこの説明は、
リニューアル企画提案に限らず
不動産投資の投資分析手法の基礎的な勉強にもなります。
使用する「投資指標」として以下の項目があります。
これらの知識は、賃貸管理というよりも、
プロパティマネジメントを行う上では必須となりますから、覚えておくと役に立ちます。
・潜在賃料(あるべき賃料収入)
・ロス(空室、値引き、未回収、譲歩)
・実効賃料(実際の賃料収入)
・運営費
・営業純利益
・負債支払額(ローン返済額)
・キャッシュフロー(税引き前)
それでは、この投資指標を使って、
リニューアル企画を実施したケースと
リニューアルをせずに値下げで対応した場合の
5年間のシミュレーションを作ってみましょう。
まず、
リニューアルをせずに値下げで対応した場合の5年間は
このようになります。
http://geonetwork.co.jp/downloads/images/1229_2.png
まず、潜在賃料は毎年下がることになるでしょう。
6万円で入居中の部屋が、毎年2部屋ずつ解約になることを想定しています。
1年目は、6万円で貸せている部屋が6室で5万円で貸せる部屋は4室ですが、
2年目は、6万円の部屋は4室になり、
3年目は2室になる想定で計算してあります。
空いた部屋は5万円で募集します。
空室や滞納などのロス率は、
賃料を下げた年は40%から20%へ改善しましたが
毎年5%ずつ悪化していくことを想定しています。
1年目は20%のロス率で、
2年目は25%、といった具合です。
ローンは残っていないので負債支払額はゼロで、
営業純利益がそのままキャッシュフローになります。
初年度は年間で400万円、月額で33万円ほどのキャッシュが残ります。
このように、実力である潜在賃料が下がり続け、
空室等のロス率が増え続けると、
営業純利益が年々減っていくのが分かります。
400万円あった営業純利益が4年間で240万円に、
160万円も減ってしまいました。
(これが一番の深刻な不安材料です)
この表では、運営費を潜在賃料の20%で一律に計算していますが、
20年を過ぎた建物や設備は、
実際にはもっと多くの修繕費用がかかるはずです。
数字は、これより悪くなるかもしれません。
もうひとつは、
リニューアル企画を実施したケースのシミュレーションです。
http://geonetwork.co.jp/downloads/images/1229_3.png
10戸のうち4戸だけのリニューアル案では複雑なので
全戸をリニューアルする企画で作成しました。
リニューアル総額は、
10室のリニューアルと外壁の塗り替えで1850万円。
(各部屋150万円×10=1,500万円。外壁塗装に350万円)
リニューアル後は7万円で貸せるとします。
潜在賃料は5年間で変わらない計算です。
その代わりに、
空室等のロス率を3年目から10%に、5年目は15%に、ロスが増える設定で計算しています。
リニューアル費用の1850万円を10年返済、金利3%で借り入れることとして、
年間の元利均等支払額が215万円となります。
その計算で算出されたキャッシュフローがこの数字です。
「値下げ」で対応したケースと比較すると、
初年度は「ほぼ同額」ですが、
2年目からリニューアルを実施した方が安定したキャッシュを確保しています。
このふたつのシミュレーションを比較して、どう思われましたか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
たとえば・・・・・・
「意外とキャッシュフローの差がつかないではないか」
と思いましたか?
5年間のキャッシュの合計を見ると
「値下げ対応のケース」は約1580万円で、
「リニューアルを実施したケース」は約1900万円です。
その差320万円です。。
「1850万円も借入してリスクを負ったのに、5年間でたったの320万円?」
と言われるかもしれません。
でもこの差は、次の5年間でもっと広がってくるはずです。
実は、もうひとつ重要なのは5年後の営業純利益の額にあります。
「値下げ対応」の営業純利益は240万円で、
「リニューアル実施」の営業純利益は546万円です。
この営業純利益が、この不動産の実力を表し、
プロの不動産投資家はこの数値で購入価格を決める、と説明しましたね。
もし、ある不動産投資家が、
自分の投資する不動産に8%の利回りを期待して物件を吟味しているとしたら、
「値下げ対応」して5年経過した物件には3000万円の値を付けるでしょう。
2,400,000円÷0.08=30,000,000円
つまり3000万円で購入すれば、
その8%にあたる240万円の純利益を生み出す物件、と言うわけです。
このように、
営業純利益を「期待する利回り」で割って不動産の価値を出すのが
正しい計算方法です。
そして「リニューアル実施」して5年経過した物件には6825万円の値を付けます。
5,460,000円÷0.08=68,250,000円
1850万円を借りたローン残高がまだ995万円ほど残っているので、
売却した場合のオーナーの手残りは5830万円になります。
6,825万円-995万円=5,830万円
3000万円と比べれば2830万円もの差になります。
キャッシュフローに大きな差が付かなくても、
財産価値でこんなに差が付きました。
この建物が立っている土地は、
立地も広さも同じなのに、
上にある建物が「稼げるか「稼げないか」で
こんなに価値に差がつきます。
収益物件の価値はこのような「収益還元法」で決まるのです。
もちろん、あなたのオーナーは物件を売ることは考えていないでしょう。
でも、不動産の価値が高まることは、
オーナーにとって重大な意味があります。
リニューアルで多額の投資をする場合は、
収益だけでなく不動産価値の変動という側面からも評価しないと
「本当のところ」が分かりません。
その事実をオーナーに理解していただきましょう。
この事実を逆から考えると、
オーナーの不動産の価値を下げないためには、
営業純利益を減らさないようにすることが大切なのです。
「そのために働く」のがあなたの賃貸管理だとしたら
「単なる代行業務で5%」のライバルの賃貸管理より、
何倍も価値があると思いませんか?
さて、話を元に戻して・・・・
このように、
「やった場合」と「やらなかった場合」の2つのシミュレーションが
単年度だけでなく複数年にわたって説明されるのは
オーナーの決断の大きな助けになるはずです。
あなたがオーナーなら、どちらを選択しますか・・・・
もちろん、リニューアルですよね?
なぜなら、
リニューアルによって「悲惨な10年」を回避することができます。
古い設備は取り換えか修繕されていますので、
これからかかる修繕費用は予定より少なく済むでしょう。
キャッシュフローも改善されました。
入居者の質も良くなる可能性が高いです。
資産価値も維持されます。
これらは全て、オーナーの説得材料として使えるトークです。
さて、昨日と本日で2つのシミュレーションを紹介しました。
リニューアル企画案が優れているとしても
プレゼンテーションの際のシミュレーションに説得力が欠けると
オーナーの決断に迷いが生じます。
反対に説得力のあるシミュレーションは
オーナーの背中を力強く押すでしょう。
もうひとつ、
オーナーへの強力な説得材料として「家賃保証」があります。
次回は、このリニューアル企画シリーズの最後として、
「賃料保証の検討」についてお届けします。