賃貸派が増えた
20年前と現代の借主の意識の違いを考えたときに、二つのポイントが見えてきます。
ひとつめは「賃貸派が増えた」ということです。
昔は「いつかは持ち家」というのが当たり前でしたが、現代では「一生、賃貸暮らしでも構わない」と考える人が増えているのです。
そのグループの人たちは「金がないから賃貸に住む」というのではありません。「賃貸だから我慢する」という発想もないのです。賃貸住宅であっても、スペースも設備も便利さも欲しいと考えています。
単身者が増えた
もうひとつのポイントは「単身者が増えた」ということです。これから更に増える、と言ってもいいでしょう。結婚する年齢が高くなったり、そもそも結婚しない人が増えているのですから当然の成り行きです。反対に、賃貸住宅の顧客層からファミリーは減りました。就学児童のいるファミリー層はマンション等を購入するからです。そして、この単身者は「ひとりだから狭く住む」とは思っていないのです。
この「賃貸派」と「単身者」に共通していることのひとつは、一人あたりの「必要面積」が広くなった、ということです。
20年前の「一人当たり面積」は15~20㎡くらいであったと思います。
15~20㎡の1Kに一人で住む単身者、30~40㎡の2DKに2人で住むカップルです。同じ2DKにファミリー(子供一人)で住むと、「一人当たり面積」は10~15㎡と狭くなります。50㎡の3DKに住むファミリー(子供2人)も12~13㎡です。このくらいのスペースが賃貸住宅では「当たり前」でした。
「日本人はウサギ小屋に住んでいる」と言った外国の政治家もいましたね。
現在で求められている「一人当たり面積」は25~30㎡でしょう。単身用は25~30㎡、カップル用は50~60㎡のスペースです。この「意識とニーズ」を満たす物件はまだまだ足りていません。
もうひとつ「賃貸派」と「単身者」に共通しているのは、「自分好みの部屋が欲しい」という想いです。賃貸でも個性を演出したいのです。自分の好きな色や設備の住まいに暮らしたかったら、中古マンションを買ってリニューアルするしか選択肢がない・・というのが「今まで」でした。だから「賃貸で実現できないか」と潜在的に考えていたのです。供給されないので仕方なく、2DKに単身で住んだり3DKにカップルで住んだりしています。気持ちに不満を抱えながら・・・。
カスタマイズ、デザインセレクト
自分の好きな壁紙を変えたり、棚板を付けて収納スペースを付け加えたり、部屋を自分にとって住みやすく変更することを「カスタマイズとかデザインセレクト」と呼び始めています。リクルート(東京都千代田区)と「21C住環境研究会」が共同で行った「入居者ニーズと意識調査」の中で「カスタマイズ、デザインセレクト」に対する質問項目があり、この回答が興味深いものでした。いくつか紹介させていただきます(1000人以上の賃貸入居者が対象です)。
まず、カスタマイズやデザインセレクトを「やってみたい」と思うかと質問しました。50%が「家賃や初期費用で自己負担がないのなら『やってみたい』」と答えています。別の約15%は「自己負担が初期だけなら『やってみたい』」と答えています。ちなみに「家賃が上がっても『やってみたい』」と答えた人は極めて少なかったです。いずれにしても、全体の70%が「やってみたい」と興味を示しました。
もうひとつは、「カスタマイズやデザインセレクトをしたときの居住期間」に関する質問です。「長く住むと思う」と答えたのは46%で、その期間は平均7.2年です。「居住期間は変わらない」と答えたのは54%で、その期間は平均3.8年でした。大きな差が出ていますね。カスタマイズやデザインセレクトした部屋なら「長く住みたい」と回答したグループの平均居住期間が7.2年というのは興味深い結果だと思います。「自分好みに自分が選んだ部屋なら長く住みたい」と考えるのは「賃貸派」にとっては当然の結論なのでしょう。
もうひとつの別の質問から、現在の借主の「意識とニーズ」が見えるものがありました。質問は「部屋を決めるときにその部屋の管理状況を確認したか」というものでした。70%が「確認している」と答えています。「確認している」と答えた人に「どのようなところを確認したか」と聞きました。
順位は、
1番が「ゴミ置き場」、2番が「玄関・廊下の汚れ」、3番~5番は大きな差はなく「外観の傷み具合」「郵便受けの状況」「共用部分の傷み具合」、6番が「エントランス回りの植栽と花の状況」、7番が「外溝・フェンス・エクステアの傷み具合」、8番が「雑草の生え具合・植栽の手入れ度合い」です。
部屋だけでなく、細かなところを見て、そして決めていることが分かります。
賃貸は「仮の住居ではない」と決めている人たちなら当たり前のことかもしれませんね。
現代の借主の「意識とニーズ」を知ることは、「物件の価値を高める手段」を考える上で大いに参考になるはずです。