数年前のある研修でのこと。
その研修の目的は、
前半は「賃貸管理の具体的な方法」を学び、
後半は「管理物件の増やし方」を知る、というものでした。
そこに、売買仲介を専門にしている会社の社長さんが参加されました。
スタッフ2~3人の会社だったと思います。
研修終了後の社長の感想は、
「賃貸管理はやらないことにします」
・・・・でした。
賃貸管理を知り、賃貸管理を増やすための研修なのに、
なぜ、そのような結論になったのでしょうか。
今回のテーマは、
「中途半端な賃貸管理なら、やらない方がいい」です。
新宿歌舞伎町のビル火災。
東京港区賃貸マンションのシンドラーエレベーターの事故。
神戸市の賃貸マンションの屋上天窓からの落下事故。
これらはすべて、賃貸経営による「オーナーのリスク」の一例です。
このような事例は数えきれないくらいに起こっているでしょう。
賃貸経営のオーナーは、リスクから逃れることはできません。
エレベーターがあれば事故は起き得ます。
防災機器が設置されていても火災は起こります。
階段に手すりがあっても落下する人はいます。
綺麗に磨かれた床なら滑って頭を打つ可能性はあります。
あなたは、このようなリスクをゼロに近づけようと努力しているはずです。
そのために定期的に巡回し、
定期点検を行い、予防メンテナンスの提案をし、
そして保険への加入をオーナーに提案しているはずです。
それによってオーナーが、
刑事訴追を受けたり工作物責任を問われることを防いでいるのです。
それが、あなたのプロパティマネジメントの価値のひとつです。
ここまではオッケイですか?
それでも、
オーナーのリスクをゼロにすることき出来ません。
しかし、
あなたのリスクは完全に「ゼロ」にしなければなりません。
新宿歌舞伎町や、港区や神戸市の賃貸マンションが、
「もし、あなたの管理物件だったら?」と想定してみてください。
あなたの管理物件で、
44名の死者が出たり、
高校生がエレベーターに挟まれたり、
屋上の天窓から小学生が落下してしまった、
と想定してみてください。
そのとき、
あなたにリスクは降りかかりませんか?
警察に事情徴収くらいはされるでしょう。
でも、逮捕されたり裁判にかけられる可能性はゼロですか?
オーナーがリスクを負うのは賃貸経営の宿命です。
オーナーに「その覚悟」があろうとなかろうと、
オーナーはそれからは逃れられません。
しかし、
賃料の5%の料金で賃貸管理を請け負っているあなたが、
リスクを負うのは「あってはならない」と思います。
そのために、
オーナーとの賃貸管理契約書を見直してみましょう。
どこまで、あなたが請け負い、
どこから先はオーナーの責任であると、明確に線引きされているでしょうか。
「この建物の管理の一切を請け負う」なんて、間違っても記載してはいけませんよね。
そのために、
借主との賃貸借契約書を見直してみましょう。
どこまでをオーナーが提供し、
どこから先は借主の自己責任であると、明確に線引きされているでしょうか。
そのために、
巡回点検と、定期点検と、予防メンテナンスの実施を提案しましょう。
現場でのリスクを出来る限りに取り去る必要があります。
リスク回避の提案を受け入れないオーナーはどうするか。
あなたのリスクと秤(はかり)にかけて決めるべきだと思います。
そのために、
法定点検の実施をオーナーに迫りましょう。
そして、点検業者からのバックマージンを受け取らないことです。
バックマージンの存在は、
事故が起これば明るみになり、きっとあなたの立場を悪くします。
こんなことをオーナーが聞いたら、
“オーナーの収益を守る”と言いながら、
「いざとなったら逃げるのか」と言われるでしょう。
でも、そうではありません。
あなたが守るべきオーナーは「ひとり」ではありませんから。
ひとりのオーナーのリスクに“あなた”が巻き込まれたら、
他のオーナーの収益が守れなくなってしまいます。
だから賃貸管理会社は、常にリスクをゼロにしておくべきなのです。
それがプロパティマネジメントを行う者の責任です。
3日間の研修の中で、
「賃貸管理のリスク」を説明したのは1時間もなかったのですが、
その社長さんの心には大きく響いたらしく
「賃貸管理はやらないことにします」という結論になったようです。
何となく紹介などで始まった賃貸管理を
50戸100戸と行っている会社さんは多いと思います。
売上は“安定収入”と呼ぶには遠くても、リスクは確実に存在しています。
賃貸管理を続けるなら、
リスクマネジメントをしっかり行って、
早く1000戸を超える“安定収入ゾーン”に駆け込んだ方が得策です。
「やるべきこと」を行えば、管理は必ず増えますから。
極論ですが・・・
「中途半端な賃貸管理なら、やらない方がいい」です。