「磯野波平さんが亡くなったときに、サザエ、かつお、ワカメに課税される相続税は、それぞれ約850万円です。」
退屈で分かりにくい相続税の授業ですが、このような前振りをすると、受講者の集中力は一気にアップします。
これは、「賃貸仕入研修」のひとコマですが、オーナーに管理仕入れの営業をするには、相続税の知識が役に立つ場合もあるので(必須ではありませんが)、カリキュラムに入れています。
しかし、最終日の午後3時頃なので、とにかく眠い時間帯なのです。
そこで、実際の相続税の計算をするときに「サザエさん一家」に登場いただくと、冒頭のように、眠気が一気に覚めるのです。
ホワイトボードには、サザエさん一家の似顔絵も書きます。
二日間の研修の中で一番注目される時間帯ですが、なんだか複雑な気持ちになります。
この設定は、波平さんの遺産総額が5億円で、債務が1億円という想定です。試しに計算してみてください。
(ごくまれに、波平さんの遺産にしては高額すぎる、と批判を浴びますが、「昭和26年から朝日新聞に出演してるのだから、それくらいの蓄えはあるでしょう」と反論しています)
さて、この相続税の計算が変わることになりました。
新聞でご承知のように、相続税は増税されることが、2011年度の税制改正大綱に盛り込まれました。
改正になるポイントは、
「基礎控除」が、現行の「5000万円+法定相続人数×1000万円」から、「3000万円+法定相続人数×600万円」に縮小されたことです。
サザエさん一家の場合は、妻である「フネ」と子ども3人で、法定相続人数は4人となります。
すると現行の計算式に当てはめると9000万円になります。
これが改正後は5400万円に減ります。
(減ると相続税が課税・増税される可能性が高くなります)
大多数の人は、これ以上の遺産を残せないので、この時点で相続税は非課税になります。
なので、我々のような下々(しもじも)は、相続税に無関心でいられました。
(僕の場合は、今回の税制改正の実施後も無関心でいられます。自慢になりませんけど)
しかし、今まで当落すれすれの方は、今回の税制改正の実施によって、課税対象者に入ることになります。
その数は、4万人から7万人に増えて、2600億円の増収が見込まれる、と報じられているのです。
増えた税収は「子ども手当」と「法人税減税」の財源に廻されるようですが。。。
この記事で、この話題を取り上げている理由は、私たちのオーナーさんの多くが、この改正で、新たな課税者となるか、さらに増税になる可能性が高いからです。
これまで何とかやりくりして、ギリギリのところで課税を逃れていたオーナーさん達が、一気に相続税の支払い対象者になる可能性が指摘されているのです。
さて、サザエさん達たちの相続税は、いくら増えるでしょうか。
波平さんの遺した遺産5億円から、負債を差し引いた4億円が計算の元になります。
(5億円 - 1億円 = 4億円)
ここから基礎控除を差し引きます。
現行では9000万円なので、差し引き、3億1千万円になります。
(4億円 - 9000万円 = 3億1千万円)
これを法定相続分に割り当てます。
フネ 2分の1 → 1億5500万円
サザエ 6分の1 → 約5166万円
かつお 6分の1 → 約5166万円
ワカメ 6分の1 → 約5166万円
そして、それぞれの額に応じて税額を計算します。
フネさんは配偶者なので、2分の1か、1億6000万円までは課税されない決まりがあります。
サザエさんの税額は、
(5166万円 × 30%) - 700万円 = 849万8000円 となります。
※ かつお、ワカメも同額です。
このように、現行では約850万円でした。
幼稚園のワカメには酷な税額ですよね。
では、税制改正後の3人の税額はいくらになるでしょうか。
基礎控除が9000万円から5400万円に縮小されます。
ここから先は、皆さんで計算してみてください。
そうです。
約1030万円になりますね。
一人当たり、180万円の増税、ということになります。
私たち、賃貸管理に携わる者にとって、「オーナーの目的に沿った賃貸管理をすること」が重要であると、何度か申し上げました。
多くのオーナーさんは、「収益を上げたい = キャッシュフローを増やしたい」という目的だと思います。
しかし中には、「ズバリ!相続税対策」というオーナーさんもいらっしゃるでしょう。
その方たちにとっては、「やはり来たか」という想いが強いと思います。
改正後の計算を税理士に頼む方もいるかもしれません。
対策として、新たに借入れをして、賃貸物件の「資本的改善」を行うことを決めるかもしれません。
オーナーの目的は、「相続税の課税から逃れるため」かもしれませんが、
資本を投下して賃貸物件を改善するのであれば、
私たちは、その投資を100%、意味のあるものにしなければなりません。
プロパティマネジメントを目指す、私たちの出番です。
「相続税が上がりそうですね」
「いくら増えるか、計算されましたか」
オーナーさんに、こんな会話を仕掛けたら、オーナーさんとの新たな領域に踏み込めるかもしれません。