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「賃貸物件の収支予算」の応用編

前回の記事で「プロパティマネジメント」には、
「賃貸経営の計数管理の知識」  と、
「オーナーさんの数値の実態の把握」   が必須と書きました。
今回は「そこのところ」を、もう少し具体的に説明したいと思います。

でも、「お勉強」のような話だと退屈で誰も読んでくれませんので、「応用問題」でいきましょう。

築年数が経って競争力(賃貸物件としての魅力)が落ちた物件に対して、
一部屋当たり50万とか100万円、あるいはそれ以上のリニューアルを提案する、とします。
でも実際には「リニューアル案」だけを見ても、「是か非か」を判断するのは難しいですよね。

「100万円かけてリニューアルすれば、お部屋はこんなに魅力的になって、
家賃を5,000円アップしても、すぐに部屋が決まりますよ」
なんていうトークでは説得力に欠けます。

もしオーナーが承諾してくれたとしても「信頼関係」があるからです。
提案に説得力があるからではありません。

では、どのようにしたら「説得力」があるのでしょう?
それは、「代替え案=もうひとつの選択肢」を一緒に提出するのです
。 たとえば、「リニューアルしたとき」と「このまま何もしないで続けたとき」、
ふたつのケースでシミュレーションを作り、それぞれの年間の「収益」を比べてみるのです。

具体的な事例を考えてみましょう。
(採用している数値は「いいかげん」ですがご了承ください)

木造2階建で築20年、間取りは2DKで10戸のアパート、があったとします。
6万円で募集していますが、空室が5室あって、なかなか決まりません。

ここに120万円(一部屋ごと)かけてリニューアルを提案します。
間取りを1LDKにして、ユニットバス・キッチン・トイレ等を入れ替えます。

5室全部の工事代金(120×5部屋)で合計600万円の見積金額とします(リニューアル案A)
もうひとつ、全室をリニューアルして外壁の塗装工事も行う案も考えます(リニューアル案B)
Bの見積金額は、(120×10部屋)で合計1200万円と塗装工事300万円で、合計1500万円とします。

そのときの「年間収支予算」を作成してみました。
https://www.geonetwork.co.jp/downloads/2011.0411.pdf

「現状のまま」と「リニューアル実施」で年間のキャッシュフローを比較しています。

「現状のまま」の場合は、現在より募集賃料を下げて計算します。
6万円のままで募集していたら、空室がさらに増えてしまうかもしれません。
現状のままの実力は、53,000円といったところでしょう。

「値引き」や「滞納」も含めたロス率は35%くらいが妥当です。
ローンは完済しているとして「負債支払い」はゼロとしました。
年間のキャッシュフローは 3,180,000円となります。
(ローン支払いがなければ、ロスが35%あっても、キャッシュは残りますね)

「リニューアル実施」の場合は、募集賃料を3,000円だけアップしました。
ロス率は10%で いいと思います。
工事金額の600万円を、金利3%で5年返済とすると、年間支払額は130万円程度になります。
年間のキャッシュフローは 4,235,000円となります。

しかし「リニューアル案A」では、工事をしない部屋は、このまま退去しないことが前提になっています。
これは現実的ではありません。
そこで、「すべての部屋をリニューアルする」案を作り、比べてみました。
築20年も経っているので外壁も塗り替えた方がいいですね。
借入金額が1500万円と高額になるので、返済期間を10年にしました。

このように、3つのシミュレーションを並べると「どれにすれば良いか」判断がしやすくなります。

「本当に、新たに費用をかけてリニューアルすべきか」
「賃料と稼働率が下がっても『現状のまま』でいくか」
提案する私たちも、正しい判断ができます。

私たちが目指すのは「リニューアルをしていただく」ことではなく、
「オーナーの賃貸経営の目的を達成させる」ことですから、
何が何でも「リニューアルさせよう」という提案は間違いです。

さて、このオーナーさんは、どちらを選ぶでしょうか。
これなら、「現状のまま」を選ぶかもしれませんね。

それなら「それで良い」と思います。
その代わり、「ロス率35%」は許容範囲内なので、
空室が3部屋あっても、部屋を埋めることに必死にならずに済みます。

「オーナーさんの数値の実態把握」ができると、
「満室経営を目指さなくてもよい」ということが分ります。

このような「シミュレーション」を作成するためには、
「賃貸経営の計数管理」の知識だけでなく、
「オーナーの経営数値を把握」していないと不可能、ということになりますね。

最後に、
今回のシミュレーションは、単年度だけの収支なので、「目安」の数値です。
もう少し正確に出すためには複数年(5年程度)の収支と、
それぞれの、5年後の資産価値を査定する必要があります。
それには、少し高度な計算法が必要なので、機会がありましたらシミュレーションしたいと思います。

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