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貸室内での自殺 損害賠償の事例

貸室内での自殺・・・・・・。

縁起の良くない話ですが、賃貸経営のリスクを考えると避けられない災難ではあります。
どのような未然策を講じても、人に部屋を貸す以上、可能性をゼロにすることは出来ません。
であるならば、起きたときのことを想定しておくことは無駄ではありません。
被害をゼロにはできませんが、最小限度に抑えることはできるでしょう。
だいぶ前の経験ですが、上場企業の社宅として貸していた1Kマンション内で自殺事故がありました。
法人からすぐに解約の申し出がありました。
現場では、「住む人がいなくなったのだから当然だろう」という判断で解約に応じようとしました。
しかし、「損害賠償できるのでは・・・・」という意見を言う者があり、調べたところ可能であることが分かりました。
そこで、「このまま2年以上契約を続けるか、損害賠償に応じるか」と交渉したところ、残りの契約期間プラス2年の期間、社宅として借り続けることで合意しました。
実際に他の社員の方が住まわれたようです。「その後の入居募集の際は説明は不要」と判断しました。
このケースでは、貸主の損害はゼロに抑えることができました。
希な例だと思いますが、もし解約をスンナリ受け入れていたら、相当の空室期間と、たとえ入居が決まっても賃料を下げざるを得ず、貸主の損害は多額になっていたでしょう。
たとえ損害賠償が得られても、実際の被害額の100%を埋めることは難しいでしょうから。
以上のように、このような事故の場合は初動が重要になります。
誰も経験の少ない事態ですから慌てるのは当然でも、最初の対応を間違えると被害が拡大してしまいます。
そのために、「想定しておく」ことが大事なのです。

最近の新聞記事になった事例を紹介させていただきます

平成15年10月に木造10戸のワンルームアパートを賃貸しました。
家賃6万円の条件です。更新契約を済ませた1年後の平成18年10月に借主が自殺してしまいました。

貸主は、借主の被相続人の母親と連帯保証人に対して、賃貸借契約書の債務不履行に基づいて、それぞれ676万円の支払いを求めて提訴しました。
請求金額の内訳は下記の通りです。
①2年間は賃貸できないので、その間の賃料
②その後4年間は半額にせざるを得ないのでその補填分
③事故のあった貸室の両隣と階下の3室は、当面2年間は8割程度の賃料しか取れないのでその補填分
これに対して母親と連帯保証人は、「借主は、心理的な影響を与えるような事由についてまで賠償の義務を負っていない」「保証人は賃料不払いなどについてしか保証する意志がなかった」などと反論しました。

さて判決ですが、結論として母親と連帯保証人に132万円の支払いを命じました。
裁判所の判断の主旨を整理してみます。
①借主は、貸室を善良な管理者の注意義務をもって使用する義務があるが、自殺しないようにすることも義務の対象に含まれる。
②上の債務は、相続した母親と連帯保証人に賠償責任がある。
③貸主には、自殺があったような物件を賃貸するときは、賃借希望者に事故の内容を告知する義務がある。
④しかし(その義務は永遠ではなく)、特別の事情がない限り、新たな入居者が一定期間生活することにより、その前の入居者が自殺したという心理的な嫌悪感の影響もかなり薄れるものと考えられる。本件のように物件所在地が都市部である場合は、最初の借主には告知すべき義務があるが、以降の賃借希望者に対して告知する義務はないというべきである(最初の借主が極短期間で退去したといった特段の事情が生じない限り)。
⑤原告(貸主)は、事故から約3ヶ月後に、当該貸室を期間2年、賃料3万5千円(通常時の58%)、敷金なしで賃貸した事実がある。
当裁判所としては、事故から1年間賃貸できず、その後の2年間は3万円でしか賃貸できず、しかし3年経過したら6万円での賃貸が可能であると考える。

以上の判断によって、132万円とという支払額が算出されました。
整理すると、
・1年間は賃料の満額(60,000×12ヶ月)
・2年間は賃料の半額(30,000×24ヶ月)が賠償され、
・3年経過すれば貸主の告知義務はなくなる
・隣や階下の貸室への告知義務は 当初からない
という判断のようです。
ひとつの事例として参考になる判例でした。

実務として考えたとき、判断に迷うのは下記の事項です。
①事故から何年間説明しなければならないのか。
今回の判例は3年ですが、必ずしも考えは一定ではありません。
事故の状況、貸室のタイプ(単身者用、ファミリー用)、事故に関する周辺住民の記憶等によって事例ごとに様々です。
都市部かどうかでも異なってきます。札幌の裁判で10年という告知義務期間の判断が下されたことが報告されています。
②事故の部屋と隣接する住戸等にも告知する義務があるか。
今回の判例では義務無しとなっているようですが、これも上記同様にケースごとに判断することになるでしょう。

このような事故は起きないことが最善なのは当然です。もし不幸にも起きてしまった場合は、冷静な判断の基に被害を最小に食い止めるよう、行動することが大切です。

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