Q 契約書によると、「貸主からの解約申入れは6ヶ月前に行えばよい」とあるのに、実際にはそのようにはいかないと聞きました。どういうことでしょうか。
A 一般的な賃貸借契約書では、貸主・借主の中途解約権について、「貸主は6ヶ月前までに、借主は1ヶ月前(3ヶ月前というケースもある)までに」という記述が多く見られます。
これは契約自由の原則ですので、双方が納得して契約すれば合法です。
ちなみに、このような特約がなければ、双方とも契約期間内は解約できないことになります(定期借家の場合は借主の中途解約権が強行規定で認められています)。
問題は契約に基づいて行った貸主の6ヶ月前の解約申出に借主が同意しないときです。
その場合は双方の合意より、強行法規である借地借家法が優先されることになりますが、借地借家法では貸主からの解約申出や更新拒絶には「正当事由」が必要である、と規定しています。
結論としては、この「正当事由」が認められないと、たとえ契約書に「貸主は6ヶ月前までに・・・」とあっても解約は認められません。
Q それでは、「正当事由」とは、どのようなものですか。
A 「正当事由」とは、
・大家さんと入居者のどちらがより建物の使用を必要としているのか
・契約した時や入居中の状況、権利金や更新料等の有無や金額など、現在と過去の経過
・現在の建物の利用状況
・金銭(立ち退き料)による正当事由の補強があるか
・建物の現状(老朽化、防災上の危険性、周辺地域の土地の利用状況等)がどうか
このような事情を総合的に検討して判断していこうというものですから、簡単に結論が出るものではありません。
Q 一般的には、どちらの必要度が高いのでしょう。
A 一般的な考え方に従えば、貸主は生活に余裕があるので自分の家を他人に貸すことができるということ、そして、借主は自分の家を持っていないので他人の家を借りて住むということが言えると思います。
そのように考えてくると、一般的な考え方としては、貸主より借主の方に建物の使用の必要度が高いということが言えると思います。
Q では、「正当事由」が認められるのは無理ですか。
A もともと建物の賃貸借というのは、長期間にわたる契約関係がベースになっていますので、その間に、貸主にも借主にも事情の変化というものが生じます。
そのうえ、建物自体も古く、陳腐化してくるという宿命を負っています。
そうなると、例えば、建物周辺の都市計画の変更などによって、その建物が周辺の建物に比較し、狭小なものとなり、土地の有効利用もできていないということも生じてくるわけです。
単に貸主と借主の建物に対する必要度というものだけではなく、それを超えたものが、貸主に「正当事由」があるか否かを判断する重要な要素となってくると思われます。
Q つまり、双方の必要度だけでなく、その後の時代の変化や貸主・借主の事情の変化なども考慮に入れながら、総合的に判断されるということですね。
A その通りです。借地借家法第28条に次の条項があります。
『建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として(中略)賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をし(中略)、正当の事由があると認められる場合でなければ、(更新拒絶の通知や解約の申し入れは)することができない。』
つまり、先ほど申し上げた時代の流れの変化に対応するための知恵として、「財産上の給付」(つまり立ち退き料を支払うこと)という文言が、これからの「正当事由」の有無を判断するキーポイントになるのではないかと思っています。