Q. 家賃の督促を法的な手続きで行う場合に、
「公正証書」、「民事調停」、「支払督促」、「即決和解」、
「通常訴訟」などの方法が紹介されてます。
それぞれの特徴を説明してください。
(前回、「公正証書」「民事調停」「支払督促」の説明をしましたので、その続きです)
A. 質問の中に「少額訴訟」が抜けていましたので、
その説明もしておきましょう。
少額訴訟は60万円以下の請求金額のときに使える裁判です。
「支払督促」との違いは、実際に法廷で裁判が行われることです。
滞納者に与えるプレッシャーは「支払督促」より大きいでしょう。
60万円以下といっても、滞納家賃が80万円ある場合、
「その中の60万円について請求する」ということが可能です。
特徴は、一回で判決が下されることです(原則ですが)。
なので、ダラダラと長引くことは避けられます。
ただし、明け渡しを求めることはできません。
この点は、「公正証書」「支払督促」と同じです。
もうひとつ、オーナーさんが原告席に立たなければなりません。
代理人として弁護士か司法書士(認定が必要)は可能ですが、
「少額訴訟」なので、その手の費用をかけるのはどうかと思います
(親族関係や従業員は代理人になれます)。
公示送達
(相手が受取拒否したり住居所不明などの理由により書類の送達ができない場合に、
一定期間裁判所の掲示板に掲示することにより送達の効果を生じさせる方法)
が出来ないのも欠点ではあります。
その場合は「通常訴訟」になります。
とは言っても、滞納家賃を訴えるには、
手軽で短期に判決の得られる制度といえます。
次の「即決和解」は、
あまり聞きなれない制度だと思います。
まず「和解」とは、判決まで行かずに
当事者の話し合いによって訴訟が終了することです。
判決だと10対0という結果になりますが、
和解なら5対5とか、
6対4という結果が当事者の話し合いで付けることができます。
裁判では、オーナー側は「すぐに払え」と言い、
滞納者は「ちょっと待ってくれ」と言う場合、
判決が「すぐに払え」となったとき、
「無い袖は振れない」状態になります。
あとは強制執行という不毛な手段しか残りません。
その場合は、
当事者が話し合いで「5回の分割で払う」とかの
和解案で合意した方が現実的なケースが多いわけです。
なので、裁判所から和解が勧められることが多々あります。
さて「即決和解」とは、文字どおりに「即決」で和解することです。
つまり裁判所に勧められる前に、
当事者間では和解の合意が出来ているのです。
なら裁判所に行かなくていいのでは?と思いますが、
それでは単に「約定書」なので強制力がありません。
そこで裁判所に両者で出頭して和解調書を作成してもらうと、
これは債務名義になるので、
借主が和解内容を違え(たがえ)た時は強制執行が可能になります。
しかも、明け渡しの強制執行も可能なので強力です。
「公正証書」のところでも説明しましたが、
滞納家賃の分割支払いを和解調書にすれば、
強力な強制執行のプレッシャーがかかります。
最後の「通常訴訟」です。
滞納者が次のような場合には、この手続きが向いています。
・滞納金額が高額のとき
※140万円を超えると地方裁判所の管轄になります。
・明け渡しを目的とするとき
・相手に訴訟の知識が豊富なとき
・相手が暴力団等のとき
賃料の滞納で通常訴訟となると、
目的は判決よりも「強制執行」となるでしょう。
それも、“回収”より“明け渡し”の強制執行が多いと思います。
140万円以下の請求額なら司法書士でも可能ですが、
明け渡しの強制執行を視野に入れるなら、
その方面の経験と人脈(※)の豊富な弁護士に依頼した方がいいでしょう。
※専門の運送業者や鍵屋などの多数の人員が必要になります。
弁護士費用も含めて100万円以上かかる、
と言われます。
通常訴訟を選ぶのでしたら、最悪の費用は覚悟しなければなれません。
ただ、この方法でしか解決できない悪質な借主もいますので、
その場合は、早めに手を打った方が、それだけ解決も早くなります。
以上、五つの法的手続きを説明しましたが、
滞納の状況によって、どれを選ぶか異なります。
法的手続きの目的は、「家賃の回収」か「退去を迫る」かです。
退去が目的なら、“即決和解”か“通常訴訟”しか、
明け渡しの強制執行はできません。
「回収」が目的なら、
相手の出方によって“公正証書”や“支払督促”いいでしょう。
「プレッシャーをかけて任意で払って貰う」という目的もあります。