目次
高額の“立ち退き料”負担
賃貸経営するオーナーの7つのリスク、
最後は『高額の“立ち退き料”負担』です。
僕の「立ち退き交渉」の経験は2件しかありません。
面倒な仕事から一所懸命に逃げていた成果(?)です。
そのうちの1件で、
賃料の10年分の立ち退き料を負担したことがあります。
築35年を過ぎた平屋の貸家が8軒くらい並んでいました。
オーナーさんに木造2階建ての1Kアパートを提案しましたので、
「立ち退き交渉」の仕事が僕に回ってきました。
先輩の支援を受けながら、交渉をスタートさせました。
まず、オーナーさんの説得です。
一番は立ち退き料の負担
「家賃の10ヶ月分は用意してください」
内訳は、
・新しく借りるのに必要なお金 礼金、敷金、手数料
・引っ越し料
・迷惑料 などです。
二番はオーナーの直接交渉の禁止
二番目は、「今後は、借主さんたちとの直接の交渉に応じないこと」
僕との交渉が始まれば、借主さんはオーナーの所に確認に行きます。
そのときは「新井に任せてある」と言ってもらいたいのです。
中途半端に口を出されると「大家さんはこう言った」ということになり、
交渉ごとが面倒になります。
窓口は一本に絞ることが大事ですね。
三番はオーナーの借家法の理解
三番目は、
「借家法によってオーナーの立場は強くないこと」
これは意外にも良くご存じでした。
そのときにオーナーさんがこう言いました。
「右端の2軒は25年以上も住んでるけど、
家賃も25000円の据え置きで安く貸してるので感謝してるはず。
簡単に出て行くと思うよ」
その他は35000円~40000円の相場で貸していたのですが、
2軒だけはかなり安く貸していたのです。
そのことを先輩に報告すると「????」という感じでニヤリと、
謎の含み笑いを浮かべました。
次に、8軒の借主さんに挨拶回りをします。
最初から立ち退き交渉はしない
最初は、
「建物が老朽しているのでオーナーさんが“建て替え”を検討しています」
という内容を伝えて回るだけで、交渉はしません。
一通り回り終えたときに印象に残ったのは、やはり「例の2軒」です。
1軒は、何度行っても出てきません。
もう1軒は夫婦で応対してくれましたが、全くの「無反応」でした。
先輩のアドバイスで「その2軒」は後回しにして、
相場で貸している6軒に、今度は正式な交渉に回り始めました。
内容は、
・建物を取り壊すので契約書通りに「6ヶ月で解約」となります。
・新しい貸家のご希望があれば資料を持ってきます。案内します。
・立ち退き料(家賃の6ヶ月分を提示)の用意がありますが、2ヶ月以内に退去いただければ10ヶ月分お支払いいたします。
もちろん借家法がありますから、
オーナー都合の6ヶ月解約条項は、
借主の合意が得られなければ押し通すことは出来ません。
でも、本人同士が合意した契約書があるのですから、
こちら側は当然に「それ」を主張します。
難敵が借主が現れた
この条件で、6軒の交渉は順調に進みました。
そのうちの4軒は、2ヶ月以内に退去されて10ヶ月分の立ち退き料を手にしました。
残ったのは「例の2軒の借主さん」です。
なかなか出てこない方は、中年女性の一人暮らしでした。
それこそ、10何回目かにやっと顔を出してくれて、
少しずつ話を聞いてくれるようになりました。
そしたら、隣の夫婦から「今までひどく虐(いじ)められた」
という話をし始めて、延々と「恨み話」を聞かされました。
「飼っていた猫が“毒の饅頭”を食べさせられて亡くなった」みたいな話です。
この方は、僕に「その話」をし終わると、
意外にあっさりと立ち退きに応じ始めて、
6ヶ月の立ち退き料で出てくれました。
最後のご夫婦の交渉は手間取りました。
最初は「この家で死にたい。骨を埋めたい」などと言います。
(骨を埋められても困りますし)
「金の問題ではない」と何回も言ってました。
当社(当時)の事務所に来てもらって
上司の部長にも交渉してもらいました。
そのうちに「1000万円くれれば出て行く」と言い始めました。
僕は目を丸くしたのですが
部長は「金額が出てきたから、もうすぐに決着するよ」と予言しました。
家賃10年分の立退料
結果は部長の言葉通り、1~2週間後に「300万円」で話が付きました。
25000円の家賃の10年分です。
オーナーは協力に拒みましたが、
最後は当社の建築利益から半分を負担することで、
ようやく納得してくれました。
「相場より安く貸していたのに」というわけですが、
これが、相手の借家権を強くしてしまう結果になるのです。
皮肉ですね。
これが、あのときの先輩の「不思議な笑顔」の正体だったのです。
さてさて、引用が長くなりましたが、
賃貸経営しているオーナーは、
皆さんが「立ち退き料」のリスクを負っています。
建物は、いつかは「取り壊し」の運命にありますから、
そのときに「退去してください」と頼むことになります。
その場合の「借家権」は強力ですから、
強欲な借主に遭遇すれば、高額な立ち退き料の負担を強いられることがあります。
私達はこのリスクを回避するために、
・賃料を相場以下に落としてはならない
・借主とのコミュニケーションをとっておく
・定期借家契約を導入する
などの対策を、オーナーに提案して実行する必要がありますね。
賃貸経営の7つのリスクとは
もう一度、オーナーの7つのリスクを再確認しましょう。
1.『空室』
2.『値下がり』
3.『未回収損の発生』
4.『運営費の増加』
5.『天災地変に遭遇』
6.『事件に巻き込まれる』
7.『高額の立ち退き料』
オーナーには、このようなリスクが存在することを、
日頃から伝えておくようにしましょう。
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