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借家契約にも、期間を定める場合と期間を定めない場合とがあります。そして、借家人が借家契約を終了させたい場合、期間の定めのあるときと、ないときとでは、方法も違ってきますので、まず場合を分けて考えてみることにしましょう。
@期間の定めのないとき
普通、アパートなどの場合、期間を定めて契約されますが、ときには当事者の都合などで、期間を定めないで契約される場合もあります。
期間の定めのない借家契約の場合、借家人はいつでも解約の申し入れをすることができます(民法617条1項。これに反し、家主からの解約申し入れは、借地借家法27、28条の制約があります)。
そして、借家人よりこの申し入れがあると、借家契約は3ヶ月後に終了します(同条1項2号)。
A期間の定めがあるとき
期間の定めがあれば、原則として、家主も借家人も決めた期間にしばられ、期間が満了しなければ、借家契約は終了しません。これは当然のことで、当事者が「この借家契約は2年間としましょう」と合意して決めた期限なのですから、それを途中で、「やーめたっ!」などとはできません。
ところが、借家契約をするとき、当事者間で「借家人は、期間の中途においても、いつでも本契約を解約することができる」。といった解約権を留保する特約=合意をしておけば、期間の定めのない場合と同様、借家契約も中途解約できます(民法618条)。
この解約による場合も、特に通知期間に定めがないとときは、借家人が解約申し入れをしてから3ヶ月たたないと借家契約は終了しません(民法617条1項後段2号)。
また、期間の途中で家主と借家人が解約を合意すれば、その合意にしたがった方法で借家契約を終了させることもできます。
B本問の場合
借家人Aさんとの借家契約は2年間の期間の定めのある借家契約のようです。そして、Aさんは、突然解約の申し入れをしてきて、「10日以内に敷金を返せ」と要求しているようです。
さて、かかる場合の家主の対応です。
イ.まずAさんとの本件借家契約では、前述Aの<解約権の留保>などは特約されていないようです。となると、家主側が承知しない限り、Aさんからの突然の解約申し入れは許されません。
したがって、家主としては、法律上の理屈からすれば、Aさんの借家契約はあと1年間終了しないことを、はっきりAさんに説明すべきです。そうなると、Aさんは、仮に転勤しても、あと1年の家賃は家主に払い続けなければならず、敷金ももちろん1年後でなければ返してもらえないことになります。そこで、それではAさんも気の毒ですから、話合いということになりましょう。
ロ.期間の定めのない場合でも、借家人が解約申し入れをしてから3ヶ月たたないと借家契約は終了しません。ということは、この場合でもAさんは3ヶ月分の家賃は払わなければなりません。それなら、中途解約も認めてやる代わりに、3ヶ月分の家賃相当額を示談金としてAさんに払わせて示談にしたらよいと思います。
この支払いは、敷金から差し引くのもよいでしょう。また、3ヶ月分の家賃相当額を払ってAさんが立退いてくれれば、Aさんのあとを他に貸し、こちらからも家賃がとれますから、家主にとっては、損な示談にはなりません。
他方Aさんの方も、理屈からすれば、中途解約が認められず、あと1年間分の家賃を払い続けることから考えれば、かなりの得にもなります。
C一般的な借家契約
このケースは別にして一般的な借家契約はどうなっているでしょうか。特に取り決めがあるわけではありませんが慣習として、「契約期間2年で借主の中途解約権を認め、その通知期間は1〜3ヶ月の間」が一般的のようです。借主の中途解約権を認めない借家契約は前述の通り合法ですが、借り手市場の今日、合理的な条件ではないと思われます。ただ、通知期間が1ヶ月で良いのか、という点は一考の余地があると思います。空き室期間が長期化していますし、次の募集のために家主が行うリフォーム費用負担が増えていますので、予期せぬ途中解約のペナルティーが家賃1ヶ月分では少ないように思います。
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