木造2階建て、貸室が15〜16ほどあるアパートを所有しています。このアパートは、亡父から相続したもので、かなり古く、このままでは新しい借り手もつかないし、あったとしても家賃を値切られ、採算に合いません。また、絶えず雨もりとか建具の故障が起こり、その修繕のための手間ヒマ費用が大変です。
 そこで家主の私としては、現在居る借家人と借家契約を終了させて立ち退いてもらい、このアパートを取りこわし、再築するか、土地の別な利用を考えています。このためには、借家人にどのような対応をしたらよろしいものでしょうか?

期限の6ケ月前までに通告


@期限が決められている借家契約の場合
 おそらく、借家契約の期限を2年とか3年と決めて、借家人に貸しているものと思われますので、このように期限を定めた借家契約を終了させる場合についてまず考えてみましょう。
 家主は、期限の1年前から6カ月前の間に、借家人に対し、「期限の更新には応じられない」または「従来の条件をコレコレに変更しなければ更新には応じられない」といった内容の通告をしておかねばなりません。

 家主が通告をしなかった場合、期限が到来すると、その借家契約は、従前と同一の条件で更新されたものとみなされてしまいます(借地借家法26条1項。ただし期間は定めのないものとされます)。
 なお、家主が以上のような通告をした場合でも、期限後、そのまま借家人がその借室を使用しているのに、家主がすぐに異議を述べなかったときは、同様に更新がみなされます(同法同条2項)。

居座りにはすぐ異義を
 したがって家主が、借家契約を終了させたいと思っているのなら、期限が決められている借家契約の場合、必ず以上の通告をし、かつ期限後も借家人が貸室に居座っていたら、すくに異議を申し出ておかねばなりません。

A期限の定めなき借家契約の場合
 期限が決められていない借家契約の場合、家主がこれを終了させようと思えば、借家人に対し<解約の申入れ>をします。すると、この申し入れの日から6カ月経過することにより、借家契均は終了することになります(借地借家法27条l項)。ただし、この解約申し入れにより借家契約が終了したのに、借家人が居座り、これに対し、家主がすくに異議を述べないと、従前と同一の条件で借家契約が更新されたものとみなされます(同条2項)。

B更新拒絶、解約申し入れの要件
 問題は、前述@の借家契約の更新拒絶にせよ、Aの解約申し入れにせよ、家主は無条件でこれらができるわけではありません。
 上記の拒絶の通告や解約申し入れが効力を持つためには、家主に賃貸建物につき自己使用の必要があり、かつ、拒絶や解約申し入れにつき正当事由が認められなければなりません(同法28条)。つまり、家主側にこのような要件の充足がないと、更新拒絶も解約申し入れも許されないということになります。

C本件の実際的対応
 本件の場合、最大のキーポイントは、家主であるあなたに、本件アパートの借家契約につき、前述Bの更新拒否、解約申し入れの要件、とくに正当事由があるか否かにかかっていると思われます。
 そしてこの要件の存否の判断は、専門家(弁護士など)にもかなり難しい問題とされています。
 したがって、あなたが「この際思い切って借家人の立ち退きを!」と決心されたのなら、賃貸管理業者等に相談して、まずこの点の判断を求めるのがよいと思います。

 本件アパートがかなり古く、そのままでは採算上も経営が無理の上、補修のために手間ヒマ費用が多大にかかるとかの事情は、上記の正当事由を認める上で、かなり家主側に有利な事態と考えられます(法は、あなたに慈善事業を強いるようなことはしないはずですから)。
 そして、専門家の目で「大丈夫!正当事由あり!」となったら、あなたとしては更新拒否、解約申し入れに踏み切ったらよいと思います。

定期借家契約にするのも一つの方法
 もっとも、あなたの計画が、一刻を争うとかの事情になければ、更新拒否の条件として「これからの期限の更新については、以後の借家契約も定期借家契約とする」などの条件をつけるのも一つの方法です。
 定期借家契約にすれば、そのとき決めた期限が借家契約の終了期間として確定され、更新は一切認められませんから、その期限に借家人を立ち退かせられます(借地借家法38条)。

 また、更新後の借家契約を<取りこわし予定の建物賃貸借>(同法39条)にするとか、<一時使用目的の建物賃貸借>(同法40条)にするとかすれば、いずれも期限の更新は否定できますから、当初に決めた期限どおりに借家人を立ち退かせることができます。
 そして、<定期借家契約>にせよ、<取りこわし予定の建物賃貸契約>にせよ、<一時使用目的の賃貸借契約>にせよ、相手の借家人が合意さえしてくれれば、家主側に前述の正当事由があろうと無かろうと、有効に成立しますから、より確実で手間ヒマもなくして、本件の家主側の計画を遂行できることになります。