私が今建てているアパートの近くには、大学が2つほどあります。
 そうなると、地方から出てきた学生さんたちが借家人になる場合も十分考えられます。ひと昔前なら、学生さんと言えば、食事つきの下宿住まいがほとんどでしたが、今どきはなかなか贅沢になり、普通のアパートに住むようになってきているようです。しかも、若い彼らの場合、モダンなアパートを好むようです。
 その点、私のアパートの場合、新築ですから、若い人向きなアパートを造るつもりです。そこで、学生さんというと、半分くらいは未成年者のはずです。そして未成年者との契約は法律上いろいろ問題があると聞いています。その辺、家主として留意すべき点をご指摘下さい。


 大学生の場合、4年制なら、その前半の学生は、おそらく18歳か19歳が多いでしょう。この人たちが、地方から出てきた場合、今どきは、その大半がアパートを借りて大学へ通うようです。そこで大学近くのアパートの場合、嫌でも未成年の学生たちを相手に賃貸借契約を取り交わす機会も増えてくるかと思われます。

@契約の取り決め

 未成年者は、原則として、父母の同意がないと有効に賃貸借契約はできません(民法4条)。
 したがって、家主としては、まずこの点を確かめねばなりません。この方法としては、未成年者と契約を取り交わすとき、どうせアパート賃貸借契約書を作って、そこに署名を求めることになりますから、この契約書の末尾にでも、父母の同意のサインを求めればよいでしょう。「上記賃貸借契約に同意します」と書いて、署名捺印してもらうのです。

 これは原則ですが、その未成年者がすでに結婚しているときは、成年とみなされます(民法753条)から、親の同意は必要なく、その未成年者がすでにある種の営業を親から許されていて、その営業のためにアパートを借りるとかの場合も、親から重ねてそのアパート賃借につき同意を受けることは必要ではありません(民法6条)。

A親の同意がなかったとき

 では、家主がうっかりして、親の同意を取りつけないで、未成年の学生とアパート賃貸借契約を取り交わしたらどうなるでしょうか?その場合は、賃貸借契約を取り消すことができます(民法4条2項)。この取り消しは、未成年者本人、その親がやれます(民法120条)。契約が取り消されるとその契約は最初から無効のものとされます(民法121条)。もちろん取り消すまでは契約は有効ですから賃料は徴収できます。

 もっとも、後で親の方も、未成年者が勝手にやった契約につき、「これならよろしい!」となれば、親がその契約を<追認>してこれを当初から有効なものとすることもできます(民法122条)。
 また、上の追認ができる時より後で、未成年者が勝手にやったアパート賃貸借契約につき、家賃を払ったり、「早く借室を使わせろ!」と催促したり、親が保証人になったりしたような場合は、追認をしたものとみなされます(民法125条)。

 なお、契約の取り消し権は、追認ができる時より5年で時効にかかり消滅します(民法126条)。

B親の保証

 上のとおり、未成年者の学生とアパート賃貸借契約をするには、どうしても親の同意が必要です。そのため、親の同意を取りつけるわけですから、この同意と一緒に、親に賃貸借契約の保証人になってもらったらよいと思います。

 ほとんどの未成年者の学生は、学費から生活費まで親がかりなのでしょうから、親がその学生の賃貸借契約に同意する以上、家賃の支払いも親は覚悟しているはずです。したがって、借家契約の保証など当然と思っています。おそらく家主側が要求しても、いなやはないはずです。
 この保証を取りつけておかないと、未成年者の借主本人が家賃を不払いした場合、当然には親に請求できませんから、家主にとっては必要な措置です。

C親の同意が得られないとき

 未成年者の学生Aが、「親の同意は後日必ず取りつけますから…」というので、契約したところ、親が一向に同意してくれないとかの場合、家主はどう対応すべきでしょうか?
 この場合、Aと家主とのアパート賃貸借契約は、取り消し得べき行為かもしれませんが、取り消しがあるまでは一応有効として扱われます。

 したがって、家主としては、Aが借家人としてきちんと居住し、家賃もちゃんと払ってくれれば、家主の方からとやかく言う必要もないわけです。
 ただAが借家契約上の義務を不履行したりすれば、他の借家人の場合と同様、その履行を催促し、それでも履行しない場合は、借家契約を解除して、立ち退かせればよいことになります。

 つまり、Aを未成年者と考えなければよいわけです。このような意味で、Aが借家人として好ましければ、家主としては、あまり
<親の同意>ということにこだわる必要はないことになります。親の同意があっても、借家人として不適切より、はるかに始末が良いわけですから。

D未成年者が年齢を偽ったとき

 未成年者Bが「僕は新入生ですが、浪人していたので、年だけは20歳です」と偽り、家主もこれを信じて借家契約をしたような場合、家主はどう対処すべきでしょぅか?
 これは明らかにBの詐欺により、借家契約が成立したものですから、家主としては、これを取り消すことができます(民法96条1項)。そして、この取り消しをすれば、Bとの借家契約は当初から無効となりますから(民法112条)、Bを借室から追い出すこともできます。

 しかし、この取り消しがあるまでは、Bとの借家契約は一応有効です。したがって家主としては、Bが、借家人としては好ましく、きちんと借室に居住し、家賃もちゃんと支払っているなら、ことさらBとの借家契約を無効として、これを追い出す必要もないわけです。

 したがって、家主もだまされたふりをして、Bの借家人としての適不適を見定めたらよいかとも思います。ただし、この場合、家主としては、あくまでだまされたふりをしていることが重要です。だまされたとわかっているのに、Bの居住を黙認したとなると、追認したものと扱われるからです(民法125条)。