原状回復の説明義務化 〜 正しい理解が必要 〜   
 

 この欄で何度かお知らせしている、10月1日から東京都が施行する「賃貸住宅紛争防止条例」についての続報です。東京都以外のオーナーにも影響が予想される問題と捉えています。
まず最初に、誤った情報の伝わり方があるようなので確認が必要です。ある賃貸専門新聞に「東京都では、自然損耗分のリフォーム費用は原則家主負担とする条例まで可決された(原文のまま)。」という表現でこの条例が紹介されていました。この言い回しは誤っています。

まず「自然損耗分のリフォーム費用は原則家主負担とする」というのは民法の原則で決められていることで(経年変化・通常使用による損耗は貸主負担、故意・過失、善管注意義務違反による損耗は借主)、東京都があえて同じ事をわざわざ条例で定めている訳ではありません。もともと今回の条例は、東京都が都内に貸室を持つオーナーに対して直接何かの規制をするものではないと理解されます。
正しくは、仲介する宅地建物取引業者(不動産業者)に対し、原状回復費用の負担について前述の民法の原則を、借主に契約時に別紙を用いて説明せよ、という説明責任を課したものです。

不動産業者はオーナーの貸室を仲介するときに「重要事項説明書」という書類を作成して、借主に説明する義務があります。これと同じレベルで「原状回復説明書」というようなものを作り、借主に説明する義務が、この条例によって新たに増えるわけです。
「重要事項説明書」の説明義務を違反すると、宅地建物取引業によって処分されますが、「原状回復費用説明書(仮)」の説明義務に違反すると、東京都から指導・勧告が行われ、従わないと氏名・住所・勧告の内容が公報やホームページで公開される、とのことです。
あくまでも取り締まられるのは不動産業者なのです。

もちろん間接的にオーナーは影響を受けますが、それに対してはオーナーの方々に賛否両論があるようです。「オーナーの原状回復費用負担がますます増えて困る」という意見と「契約時にしっかり説明するので退去時のトラブルが減って良いことだ」とする意見です。

不動産業者に義務づけられた説明はつぎの4つです。
@退去時の通常損耗等の復旧は貸主が行うことが基本であること(前述の民法の原則)。
A入居期間中の必要な修繕は貸主が行うことが基本であること(同じく民法の原則)
B賃貸借契約の中で、借主の負担としている具体的な事項(これは特約のこと。ここで了解された事項は民法の原則よりも優先される)(ただし、特約の有効性について色々な議論があります)
C修繕と維持管理等に関する連絡先−。      

 ところでこの条例で思うことですが、消費者にとって物の価格は、シンプルで分かりやすい事が大切だと思います。スーパーで売っている魚の価格が、「魚体200円、包装15円、冷蔵保管費12円、レジ費8円」となっていたら混乱します。しかし世の中にはこのような価格体系を残している物がありますよね。ゴルフをおやりになるオーナーさんならご存じの通り、ゴルフは「プレー費、キャディーフィー、ロッカーフィー」など色々な名目に分かれて請求されます。

貸の賃料も同じで、家賃の他に「共益費、管理費、礼金、更新料、敷引き、敷金償却、原状回復費用」などの名目で、実質的な賃料を徴収している訳です。これは借主にとっては分かりにくい価格表示で、疑問や不満のタネとなっています。また商売熱心な弁護士さん達の目の付け所にもなっている訳です。
東京都が「礼金・更新料をなくす」事を目指すのも、この考え方に則したものと理解できます。

そこで、もうひとつ誤解があるようですが、10月1日から施行される条例には「礼金・更新料」についての影響力はありません。もともと自由な商取引が認められているのに、条例で「礼金は取ってはならない」という規制するには無理があります。「関係団体と協議していく」となっていて、今後の課題としています。

ただ前述の通り、このまま分かりにくい価格表示を続けるのにも無理があるように思えます。もし現在の賃料を低く抑えていて、原状回復にあてる料金が含まれていないと考えるならば、その分を賃料に上乗せすればいいでしょう。
4%上乗せして4年住んでもらえば賃料の約2ヶ月分が確保できます。2年で出ていく人、6年住んでくれる人、色々いますが平均で考えればいいのです。
「4%上乗せしたら賃料が高くなって、空室が余計に決まらない」と考えるか、「退去時に修繕費用が請求されない事に借主は魅力を感じる」と考えるか、オーナーさんはどちらですか?