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オーナー対談(更新料訴訟について)

司会 今回は、いま話題の「更新料訴訟」について、皆さんのお話を聞きたいと思います。
京都市で賃貸住宅を借りていた男性が、退去した後に、過去5年間の支払い済みの更新料50万円の返還を求めて起こした訴訟です。
 これについてどのようにお考えになるかという点と、そもそも更新料をどうされているか、という事に対してお聞かせください。

A 訴えのポイントは消費者契約法第10条に違反している、ということだったですよね。  消費者に一方的に不利な条項は契約で取り決めた事柄自体が無効だという。

G 僕に言わせれば言語道断だね。この男性は、納得ずくで契約して、更新料を5回も支払ったのでしょう。そして退去の時に最後の賃料を滞納して、6ヶ月して貸主が請求したら「逆に払った更新料を返せ」だなんて、こんな事が認められるなら、日本に社会道徳、倫理、信義が存在しないことになってしまいますよ。何で、こんな非常識な訴えに弁護士が何人も付くのかな。

司会 Gさん、だいぶお怒りですね。 まず、更新料っていつ頃から徴収し始めたのですか。

D 僕の子供の頃の記憶では、昭和30年代はじめには徴収していたと思いますね。

M ええ、かなり昔からだったと思いますよ。一説では戦後の昭和20年代からとも言われています。

司会 そもそも徴収した理由は?

D いろいろな方が新聞などで言っているような面倒な理由でなく、単に礼金と同じ性格だと思いますよ。つまり、住むところに困窮していた時に住宅を貸してくれたことに対するお礼=礼金と、同じく契約を継続してくれたお礼として更新料が生まれたのだと思います。

司会 であれば今の時代には、一部の地域や物件を除いては合わない制度と言えなくもないですね。

D ・・・・・・そうですね。慣習で続いているのだと思います。 司会 皆さんの賃貸物件では更新料はどうされていますか。

A 築年数の新しいマンションは競争力もあると思っているので、2年ごとに1ヶ月分を貰っています。そのうち半月分を、事務手数料として不動産業者に支払っています。もうひとつ築30年のアパートは、数年前から請求するのをやめました。「空き室対策」の一環です。

G 僕は兵庫県にひとつアパートを所有しているけど、地元に習って取っていないです。その他の物件ではもらってます。

D 徴収しています。半分は業者に支払います。

M 同様ですね。 ところで思うんですが、昔の更新料の裁判は、更新料条項が不明確な点が争われていましたよね。

A ん? と言いますと?

M うちの昔の契約書は更新料についての条項にこう書かれていました。「借主は、更新料1ヶ月分を支払うこと」

G それでいいんじゃない?

M この書き方だと「法定更新の場合は支払い義務がない」とか、「1回目の更新料の支払い約束はされているが、2回目以降までの約束は認められない」というような論争が起きる、と指摘されました。 なので今は「借主は、法定更新・合意更新を問わず、2年経過ごとに、更新料として新賃料の1ヶ月分を支払う」というように、支払時期と支払額を特定して、文言の解釈で争う余地を無くしています。

G なるほどね。そう言えばうちの契約書もそんな風になってますね。

M 最近起こる更新料訴訟は、更新料支払条項が明確であっても、消費者契約法第10条によって、その契約の効力自体が否定されるのではないかというのが論争の対象なんですね。

A なるほど。まず契約書の条項をしっかりとして、少なくとも文言の解釈で争われることがないようにしよう、と。しかし次の段階で消費者契約法10条違反と認められてしまったら、いくら明確に約束事を定めてあっても無効ということになるのですね。

G それっておかしくないですか。お互いに納得して契約しているのに、あとで無効にするなんて。 

M 悪徳業者に騙されてうっかり契約書にサインしてしまった消費者を守るというのが最初の主旨なんでしょ。例のリフォーム業者とか訪問販売で商品を売りつけるような場合に備えて。

G 我々は悪徳業者ですか!

M 最近の傾向が、あまりに「消費者保護」というものを拡大解釈しすぎていると思いますね。 契約の内容を承知した借主の自己責任を重視すべきですよ。自分で入居前に納得してサインした更新料の条項を後になって否定に転じると言うことは、貸主との信頼関係を裏切り、約束違反をしていることになります。 こんな自分が行った約束を破る人を支援したり推奨する人の考えが理解できないですね。

司会 その辺の皆さんのお考えというかお怒りはご一緒のようですね。ところで、この京都市の裁判に貸主側が負けた場合、皆さんの契約にも影響すると思われますか?

A 判決文の内容にもよるのではないでしょうか。例えば「更新料特約については消費者契約法違反とは言えないが、1年で2ヶ月分の更新料は、公序良俗に違反し消費者の利益を一方的に害する」という内容での敗訴なら、認められなかったのは「更新料の金額」なので「更新料特約」が無効とされるわけではない。

M もし金額に関係なく無効、とされたら影響がでるような気がします。そうならなければいいと思いますが。いずれにしても、あれだけの弁護団が双方に付いているので最高裁まで争われるでしょうから、1〜2年はかかるのではないでしょうかね。

D 新聞によると貸主側が集団の弁護士でこの裁判に取り組んで闘っている理由は3つあるそうです。
ひとつは、借主からの更新料返還請求が認められないことを法廷で決着をつけること。
ふたつめは、賃貸借契約を双方の意志で自由に結ぶという「契約自由」の原則が危うくなっているので、それを阻止すること。
三つめは、賃貸借契約の分野で消費者運動の行きすぎが見られ、借主の一方的有利な状況が作られているので、適正・公正な賃借関係の確立をはかること。

G ぜひ、そうして貰いたいですね。

A 実際の裁判例で、消費者契約法10条に違反しない、つまり貸主が勝ったというものはあるのですか?

司会 私どもが知り得ている限りでは2例あります。 ひとつは東京地裁の平成17年10月16日の判決で同法違反になりませんでした。理由は「更新料は借主の権利を強化する対価と考えられる」というものです。

G 更新料が借主の権利を強化するというのはどういう意味ですか?

司会 借主が更新料を支払うことによって、2年間は貸主から契約解除の申し入れを受けることがなくなるなど、借主としての地位が確保される、という主張です。

G なるほど。私たち貸主側は、更新料を受け取って合意更新したからには、2年間は契約の解除を主張できなくなるのですね。相手からの契約違反が無ければ・・。 その分が借主からみれば更新料を支払うメリットということになるんですね。

司会 そして二つめは、明石簡裁平成18年7月19日の判決で、同じく消費者契約法10条違反とはなりませんでした。「更新料が、賃料の補充、異議権の放棄の対価という性質を持っている」というのが理由です。

A 賃料の補充というのは何となく分かりますが「異議権の放棄」というのが分かりませんね。貸主が更新料を受け取ることによって、何かの異議権を放棄して、それが借主のメリットになる、ということですかね。

G いずれにしても、更新料を払うことが借主にメリットを与えると認められれば、消費者の利益を一方的に害しているとは言えないので、消費者契約法10条違反ではない、ということですね。 だったら、更新料を支払ったら畳を替えるとか、何かの設備を付加するとか、金額の上限を決めて契約書か別紙に書けば、借主のメリットを証明できるのではないですかね。

D あ、それ良いアイディアですね。空き室対策の「永く住んでもらおう」という考えにも合っているし・・・・。うちも、そのように契約書書類を見直そうかな。

M 僕もそのアイディアに賛成ですね。あと、更新料条項のところに借主の署名・捺印をもらっておくのもどうですか?
消費者契約法の基本的な考えの中に、知識や情報の不足している消費者は契約時に不利な立場にあるから、契約書に署名したからと言ってそれを理解したとは言えない、みたいなところがありますから。 大切な条項なら、その箇所に署名してもらえば、その条項に集中して理解した、という証拠になりませんかね。

D それもあるかも知れませんね。

A 今回の裁判の影響に備えて、少し契約書などを見直しますかね。それと、やっぱり借主さんとは、争うより共生したいですね。 借主さんの満足が増すことが、私たちの物件の競争力を高めると考えれば、なによりも「空き室対策」の考えが最優先ですよね。

D それと今回の対談で分かったことですが、Aさんが言われた考え方に則していれば、借主(消費者)の利益を一方的に害することにはなるわけがないので、究極の防衛策だと思います。 更新料をいただいても、その一部を借主に還元すればいいのです。それが空き室対策につながります。

M ただし、いくらこちらが良くしても退去後に裏切る人もいるので(それを支援する人たちもいるし)、書類上の証拠はしっかり残しておきましょう。

G この対談で賢くなりますね(笑)。

司会 本日は有り難うございました。


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