賃貸倶楽部21 > アスベストの調査
国土交通省では本年4月24日から、賃貸住宅の耐震性能やアスベスト建材の使用について調査の有無とその結果を、入居予定者に説明する義務を私たち不動産業者に対して課す予定です。これからは入居斡旋を任せる際に「建材にアスベストが含まれているか、調査されましたか?」「調査結果を教えて項けますか?」というような質問を、オーナーさんは不動産業者から受けることになりそうです。 そこで今回は話題になっているアスベストについて、ご一緒に勉強してみたいと思います。
アスベストとは、石綿(せきめん、いしわた)と呼ばれる、天然の鉱物です。髪の毛一本ほどの太さに約5000本も含まれるほど細い繊維で、肉眼では確認できず、吸入すると気管から気管支、さらに肺の一番奥の肺胞にまで入り込み、ガンなど深刻な健康障害を引き起こすことで知られています。耐熱性、防音性に優れていて、腐ることもなく、加工しやすく安価なので「奇跡の鉱物」と呼ばれ、日本に輸入されたアスベストの90%以上が建材に使われています。
アスベストの規制は段階的に行われ、まず1975年に「吹き付けアスベスト」が禁止になりましたが、アスベスト含有率が5%以下のものは適用除外となりました。その後も吹き付け材に現場でアスベストが混入されたため、実質的に使用が中止されたのは1990年頃のことです。この時期までの建物を分析すると十数%のアスベストが検出されるのが現状です。スレートなど成形板へのアスベストの含有が原則禁止となったのは2004年10月で、それまで製造もされていました。
今でも多くの建物にアスベストが残っていますが、「どれがアスベストなのか?」と見回しても、素人にはなかなか探し出すことはできません。アスベストが使われている可能性のある代表的な建材を紹介しましょう。(すべての建材にアスベストが使用されている、という訳ではありませんので、誤解のないようにお願いします)
鉄骨・鉄筋造の柱・梁・天井・壁に、耐火被覆材としてアスベストにセメントを混ぜたものを噴射機で吹き付けたものです。1959年〜1975年頃まで使用されました。吹き付け材が劣化するとアスベスト繊維がむき出しになって周囲に飛び散るので、アスベスト建材の中で最も危険度の高いものです。マンションやオフィスビルの、屋内の鉄骨がむき出しになっていることは少ないですが、駐車場・倉庫・店舗などでは見受けられます。
禁止になった吹き付けアスベストの代替製品として利用された人工の鉱物繊維です。1980年頃まで、多くの吹き付けロックウールにアスベストが混入されました。その後も1990年頃まではアスベストを含有したものが時々見られます。やはり危険なので見つけたら除去が原則です。 ※近所の大手家電販売店の駐車場を見上げたら、鉄骨に何かが被覆材として吹き付けられていて、一見するとアスベストのように見えます。こういった光景は私達の日常に多くあると思いますが、これらが全てアスベスト混入物ではありません。アスベストの有無を調べるにはサンプルとして採取して分析する必要があります。
アスベストを混ぜて成形した建材(成形板)は、基本的に飛散の心配はないとされています。しかし、その中でも屋根材は、劣化のため飛散の危険性が高いといわれています。
・波形スレート 断熱性があり製造も簡単なため、大量に使用されました。工場や駅などの屋根や壁によく使われています。2004年に禁止されるまでアスベストを含有しているものがありました。
コロニアルと呼ばれ、厚さ 5mmほどの平らな洋風瓦で、よく見かけます。アスベストを入れると強度が上がるため、重量の3〜15%程度含有した製品が2004年まで製造されています。商品名と製造年代からアスベストの有無がわかります。とくに劣化が激しくなければ気にする必要はない、と言われています。
屋根材以外の成形板は、そこにあるだけでは飛散の心配はありません。改築や解体時には注意が必要です。
防火構造の木造外壁としてよく使用されました。2004年まで含有製品が製造されました。
表面に虫が這ったような穴のあいた板で、天井に防音目的で使用されるもので「虫食い」などと呼ばれることがあります。ロックウール(岩縮)に接着剤を混ぜて成形しています。アスベストを含有した製品は1988年まで製造されていました。
合板ボードの一種で耐火性に優れるため、台所のコンロまわり、浴室の壁などに使われます。含有製品の製造は2004年までです。
プラスチックタイルのことで、塩化ビニール樹脂を用いて30cm角のタイル状に加工しています。1987年の製造分まで含有の可能性があります。
今回の国土交通省の通達は、賃貸住宅に使われている建材にアスベストが含まれているか、調査することをオーナーに義務づけたものではありませんし、直接的な罰則もありません。ですから、必要以上に神経質になることはありません。ただ、もし現場でアスベストが危険な状態で置かれているのならば、それを放置したままにすることもできないと思います。
さてアスベスト使用の有無を調査するとして、まず鉄骨・鉄筋造か、木造かによって見るべきポイントが違ってきます。
木造で使用されている可能性のある含有建材は、成形板がほとんどです。 アスベストが含まれた成形板が使用されていたとしても、そのままでは危険性が低いので、劣化が激しいもの以外は今すぐに対処する必要性はありません。劣化が激しい成形板(屋根材が欠けているとか)が見られる場合、アスベストが含まれた製品かどうか、製品名と製品年代によって調査した方がよいでしょう。
ただし、建物を改築や解体する時は、壊れた成形板からアスベストが飛散するので、可能性のある建材は含有の有無を確認する必要があります。そういう意味では、どこに使われているか程度を把握しておくのも意味があると思われます。
使用の可能性のある箇所は、○屋根(スレート瓦)、○軒下(フレキシブル板など)、○外壁(セメントベースのサイデイング)、○天井(吸音天井板)、○床(Pタイル)、○台所・風呂・トイレ(フレキシブル板)などです。
また、設計図書からチェックすることも出来ます。 仕上表という、使用してる建材名(製品名)を一覧表にしたものの中に、「アスベスト」や「石綿」という表記が見つかれば、そこには確実にアスベストが使われています。そのような表記でなく、アスベスト含有建材の製品名で書かれていることもあります。 矩計図(かなばかりず)にも、使用建材名が示されていますので、ここから拾うことができます。
次に、マンション、倉庫など、鉄骨・鉄筋造の建物には、アスベストを含む吹き付け材が頻繁に見られます。1975年以前に竣工した建物に使用されている吹き付け材の9割が、吹き付けアスベストだったという話もあります。その中で長期間にわたって生活したり仕事に従事するのは、アスベストを吸入するリスクが大きいので、注意が必要です。「アスベストを含んだ吹き付け材は削除が基本」と言われているのです。
鉄骨・鉄筋造の建物で吹き付け材が使用されているのは、○共用部分や集会所の天井、○屋内の駐車場、○エレベーターの機械まわり、○電気室や機械室、などです。吹き付け材が見られたら、アスベスト含有の調査を依頼した方が良いでしょう。それ以外の「耐火被覆材」「成形板」は木造と同じく、すぐに対処の必要はありません。劣化の激しい箇所のみ調べるか、使われているか程度を把握しておくために調査しておくのも無駄ではありません。
前述した通り、4月24日から賃貸住宅を借りようとする方に、アスベスト建材使用の有無について調査したかどうかを説明します。調べてなければ、ただ「調査してません」と説明すれば、それで事足ります。「調査してないなら入居は控える」という借主は、あまりないと思います。そういう意味で、神経質になることはありません。 ただ、賃貸住宅の“満室対策”として、立地や外観や設備にプラスして“安全と健康性”がクローズアップされていることも事実です。防犯や耐震と並び“シック対策” “アスベスト対策”などが、競争相手に打ち勝つ決め手になり得るのかもしれません。
大事なのは、建物で生活したり仕事をする人の健康と、その安全性を提供するオーナーの商売が繁盛することです。
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