賃貸倶楽部21 > 賃貸住宅と耐震問題
危険な姉歯物件は取り壊されるようですが、旧耐震基準で建てられた既存不適格(現在の耐震基準に適合しない既存の建築物)の建物にも、同様の危険があるのでは、と言われています。 同じ懸念は、入居者(これから入居しようとしている人も含めて)の多くが抱えているでしょう。そこで今月は耐震問題特集として、「耐震診断と耐震改修」「オーナーの責任について」「市場への影響」について考えたいと思います。
1981(昭和56)年に決まった新耐震基準(以下、新基準)と、それ以前の旧耐震基準(以下、旧基準)では、その考え方が大きく異なっています。旧基準は、鉄筋コンクリートの物件の耐用年数を60年とすると、例えば20年周期で3回程度発生する可能性のある大規模な、震度5強とか6弱という地震が起きても、その建築物の経済的な価値が損なわれないように建てるという考え方に基づいています。従って旧基準の建物でも、震度6強や7の地震がきたときに、そう簡単に壊滅的に崩壊してしまうものではない、と言われています。
ところが、宮城県沖地震や阪神・淡路大震災で震度7が起こり、旧基準の建物で壊滅的に崩壊するものがあり、犠牲者が多く生じてしまいました。そこで、震度7の地震がきても、壊滅的な崩壊をしないように造ろう、というのが新基準の考え方です。
旧基準の木造家屋は、全国に1000万棟あり、マンションは150万戸にのぼると言われています。
そこで、旧基準の建物は、地震に対する耐力がどこまであるかを知るために耐震診断を受け、耐力不足なら改修を受ける必要が生じてくるわけです。
鉄筋造や鉄骨造で5〜6階建ての建物の場合、コンクリートのテストピースを採取したり、鉄筋の状態をレントゲン撮影したりなどの費用と、どの部分の強度が不足しているか分析し、必要な工事の提案書を作成するのに、合計で100万円近くかかると言われます。さらに、補強工事となると500万円以上必要になる、とも。
その費用については、補助金などを当てにしたいところですが、国交省住宅局長は、このようにコメントしています。「耐震診断や耐震改修について、補助金や税制優遇などの措置を講じることになっている。それにより、全ストックの75%しか新耐震基準を満たしていない現状から、今後10年で約9割まで満たすという目標を、耐震改修促進法に基づいて国の基本方針として掲げた。」 まあ、期待することにしましょう。国は、旧基準の建物500棟をサンプルに選び調査するため、補正予算案の30億円と来年度予算案で実施する方針を決めたと発表しています。
日本賃貸住宅管理協会のセミナーで、講師の弁護士の先生が耐震問題について解説しました。テーマの一つは、賃貸マンションが地震で倒壊し、入居者が死傷した場合のオーナー責任などについて、です。
まず、オーナーが責任を問われるか判断するときの大切な考え方は2点です。
1点目として、建物に瑕疵(かし)がなければ責任は発生しない、ということ。
2点目として、瑕疵があった場合は、その瑕疵と事故との因果関係が問題になる、ということです。
そこで、ある判例が紹介されました。阪神・淡路大震災の発生によって、神戸市東灘区で、賃貸マンションが倒壊し一階に居住していた4人が死亡したという事件です。遺族はオーナーに総額3億円の損害賠償を求めて訴訟を起こし、判決は要求額の約半分に当たる総額約1億3000万円の支払いを命じました。判決理由として、すべての柱について柱脚部分に補助鋼(リブ)が溶接されておらず、斜材(筋交い)は全く入っていなかったことを指摘しました。
軽量鉄骨造としては、柱と梁(はり)の骨組みだけで筋交いが無いのでは、水平方向の荷重(建物に対してかかる重さ・力)に抵抗できず、構造計算上は建築当時を基準に考えても建物が通常の安全性を持っていなかった(法令が定める基準を満たしていなかった)、としました。つまり建物に瑕疵があったことになります。
次に、建物の瑕疵と倒壊の因果関係について裁判所は、強い揺れ(震度7)の地震だったので、もし瑕疵がなくても倒壊したものと思われる。しかし、結局は倒壊する運命だとしても、基準の安全性を備えていれば、一階部分が完全に押しつぶされるかたちでの倒壊には至らなかった可能性もあることを考えると、賃借人の死傷は地震という不可抗力によるものとは言えない、としました。
つまり、自然の力だけで一階が押しつぶされたとは言えず、その寄与度は5割程度とするのが相当であり、約半分の金額の支払いを命じたわけです。
そこで我々が一番知りたいのは、旧耐震基準の建物を所有するオーナーが、耐震診断を受けず、その後の地震によって入居者が死傷するような事態になると(それが震度7でも)、建物の瑕疵と因果関係を問われて、この判決のような損害賠償責任を被る可能性があるのか、ということではないでしょうか。
これに関して弁護士は次のように解説しています。
建築時には適法であったが、その後、建築基準法が変更され、現在の法規に適合しない場合に、オーナーに責任があるのか、という問題です。
例えば、旧来の基準では極めて危険なので、すべて新しい技術に従って建物を補修ないし改築することが法令によって要求されていたり、あるいはそういう指摘がなされて、それが一般的に行われていたような特別の事情があれば、オーナーの責任が問われることになります。
そうではなく、建築当時に瑕疵がなく、その後も何ら異常が無い建物の場合は、新しい基準に適合するように補修や改造をすることは必ずしも一般的に期待できないので、これを怠ったからといって責任を問うことはできません。
つまり、旧耐震基準の建物であっても当時の建築基準を満たしていれば、瑕疵があったとは認定されないようです(あくまで一般的に行われているような特別の事情がない場合)。
ただし「建築物の耐震改修の促進に関する法律」というものがあり、3階以上で床面積の合計が1000uを超える共同住宅や事務所(特定建築物という)の所有者は、耐震診断を行い、必要に応じて、耐震改修を行うよう努めなければならない、とされていますので、これは「法令によって要求」に当たると思われますから、該当する物件をご所有のオーナーはご注意ください(倒壊して主要道路に覆い被さる危険のある建物も含まれます)。
また、建設時が旧基準のときでも新基準のときであっても、そのときの建築基準を満たしていなければ「瑕疵あり」となって、オーナーの責任が問われます。オーナーが知っていたか知らなかったかは問題ではありません。
※ただしこの件について判断される場合は、諸官庁や弁護士にご相談ください。
問題発生から2ヶ月余を経て、世間の反応はどのように変化したでしょうか。
不動産マーケティング会社の調査によりますと、「耐震強度偽装問題」によるマンション購入予定者の意識の変化について、86%の人が「購入の意思に変わりがない」と回答していることが分かりました。実施時期は1月20日〜23日のアンケートです。
「今回の事件でマンション購入にどのような影響があったか」という問いに対し、「以前と変化ない」が18%で、「購入判断が慎重になったが、購入意思に変わりない」が68%となりました。
購入意思を維持している割合が86%と多数を占め、「慎重になり、購入自体を見送る可能性がある」は12%、「購入を見送る」は2%にとどまりました。
同社では、「すでに購入検討を始めた人にとっては、今回の問題は業界全体への不信感を醸成するには至ってないと考えられる」としています。
マンション販売各社も対応が早く、
@自社物件が今回の事件と関係ないことを発表。
A分譲済み既存物件すべてを調査(構造計算再チェック、建築確認を別の機関で再チェック)し、入居者に報告。
B今後、購入者に基礎完成・上棟前・上棟後・内覧の各段階で検査日を導入、などの方法で信頼回復に努めています。
その結果、「問題発生から約1ヶ月間はモデルルームへの来場者は減少し、電話やメールによる問い合わせが殺到したが、今年に入ってからは、耐震に関する問い合わせはほとんどなくなり、来場者も回復基調にある」「反響は確かに若干の減少傾向にあるものの、申込みベースではほとんど影響がない」などと報告しています。
市場への影響は収束に向かいつつある、というのが大勢のようで、賃貸の現場でも同様と考えていいのではないでしょうか。
賃貸倶楽部21 > 賃貸住宅と耐震問題