賃貸倶楽部21 > 大阪高裁の「敷引き判決」その後
本誌の9月号で紹介しました、大阪高裁での敷引き無効判決の続報です。
概要を簡単に説明しますと、堺市の賃貸マンションで家賃は8万3000円。保証金を60万円(家賃の約7ヶ月分)預かり、敷引きとして50万円を貸主が取得する契約でした。借主が違法だ、と訴えた裁判の結果は、約12万円を控除した残金を借主に返却せよ、というものでした。貸主側の全面敗訴といえます。業界新聞などでも多く取り上げられて関心を集めた判決でしたが、各方面の意見は、こんなところに落ち着きそうです。
○敷引きが無効とされた訳ではな い。
判決では「敷引き特約は有効である」と指摘されていますので、この制度そのものが否定されたわけではありません。
○法外な金額では認められない。
今回の敷引き金額は保証金の約83%、賃料の6ヶ月分に及んでいるので、元々の敷引きの趣旨を逸脱していると判断されています。
○では、どの程度なら逸脱しないのか。
これまでの慣習も考慮されるので地域により差があると思いますが、関西なら賃料の2〜3ヶ月、関東や他地域なら1〜2ヶ月分が妥当な金額ではないでしょうか。
○敷礼制度への移行について。
関西の一部の貸主や管理会社で、あいまいな“敷引き”をやめて “礼金”を徴収する制度に変更する動きはあるようです。その条件でお部屋が決まるのなら有効な方法でしょう。
しかし関東では礼金はなくなりつつありますし(かの東京ルールでは礼金をなくす、と最初の趣旨で言っていた)、礼金を原状回復費用に充てる、ということは、貸主が原状回復費用を全額負担することと同義語なので、敷礼制度が普及すると言っても、関西や福岡の一部ではないでしょうか。
○逆に関東での敷引き制度への移 行について。
関東では“償却”と称していますが「敷金3ヶ月、償却2ヶ月」とか「敷金2ヶ月、償却1ヶ月」などの割合で採用するケースが増えているようです。先ほどの判決内容と照らし合わせても、この程度なら容認される範囲と思われますが、ただ関東では慣行として定着したものではないので、裁判になったときの結果は予想が難しいです。
ただ、1〜2ヶ月の償却金ならば、揉めても話し合いで決着がつきやすいのではないかと思います。
○敷引き・償却の名目はどのよう にするか。
敷引き・償却金とは何なのか。この説明を原状回復費用(=経年変化・通常損耗)である、とすると、原則では貸主が負担すべき費用を借主に負担させる特約である、ということで、消費者契約法により無効、とされるかもしれません。その場合は、「原則では貸主が負担する経年変化・通常損耗分の一部を、敷引き・償却金の名目で○○円を借主が負担することとし、借主はその義務と負担金額について納得し同意した」などと書けば、大分違うのではないでしょうか。
関西では過去の判決で、敷引き金の性質を、1.賃貸借契約成立の謝礼 2.貸室の自然損耗の修繕費3.更新時の更新料の免除の対価
4.契約終了後の空室賃料 5.賃料を低額にすることの代償 などと説明していて、この解釈が定着していると考えていいでしょう。
敷引き制度のない地域ではこの解釈とは限りませんので、契約書に明確に記述して借主の納得を得ることがトラブル防止に役立ちます。
○入居期間に応じて徴収する。
ちょっと運用が面倒ですが、敷引き・償却金の額を、入居年数に応じて段階的に引き上げるというアイディアも現実的だと思います。
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