賃貸の構造偽装問題


  世を震撼させたマンションとホテルの耐震強度偽装問題。
 オーナーとしては、ニュースを見ながら「設計士が悪い」「いや、建築主に責任がある」「建設会社こそ怪しい」などと言って、やじ馬に徹しているわけにはいかない問題です。今後は、3階建以上の賃貸マンションの入居者から「この建物は大丈夫なのか?」という問い合わせが増えることが予想できます。また、お部屋を案内したお客様からは、同様の問いかけが必ずありますが、そのときに満足できる答えがないと部屋を決めてもらえない、ということにもなってしまいます。

 さて、「建築主」としてオーナーと似た立場の分譲マンションメーカーはどのように対応しているでしょうか。
ホームページなどによると各社とも「当社が分譲したマンションについて、姉歯建築設計事務所とは一切、関わりが無いことを確認しました」のような記述が見られます。まず対応策の第一弾として、問題となった姉歯との関わり合いがない事実で安心感を与える、という考えです。

 そのあとの対応策はメーカーによって差があります。ある新興マンションメーカーは、販売した建物全戸(8000戸)の構造計算を再確認すると発表しました。再確認にかかる費用の詳細は明らかにされていませんが、1戸1万円程度として、8000万円の出費となります。中小メーカーが生き残るためには、たとえ費用がかかっても、信頼を得るための必要経費だと判断したわけです。その事実がセールスポイントにもなります。
 しかし、分譲日本一の販売会社となると戸数は30万戸に上りますから、すべて再確認するために30億円が必要となります。とても負担しきれる金額ではないということで、再確認したいならば、居住者で組織する管理組合で費用を支出してほしい、としています。大手メーカーの対応はほぼ同じでしょう。

 さて、3階建以上のマンションを所有しているオーナーとしては、どのように対応したらよいでしょうか。
「何もしない」「ある程度は行う」「できる事はすべて行う」、と様々な選択肢が考えられますが、いずれにしても何も考えない訳にはいかないので、検討した上で(何もしない、という答えも含めて)対応策を決める必要があると思います。仮に偽装や手抜き工事などが行われて必要な耐震強度がない賃貸マンションが、震度5強程度の地震で倒壊した場合、オーナーの工作物責任(民法717条)が問われる可能性がある、ということですからリスクが無いわけではないのです。

 まず比較的簡単にできることとして「竣工図面」と「構造計算書」を見れば、問題となった設計会社(エスエスエー建築都市設計事務所、下河辺建築設計事務所、スペースワン、森田設計事務所など)や姉歯と関わりがないことを確認できます。建設会社に尋ねてもいいでしょう。

「関わり」と言えば、1999年(平成11年)5月から建築確認検査業務が民間に開放されましたので、それ以降に建築確認を受けた建物の場合、確認検査した企業が「イーホームズ」「日本ERI」でない事を調べておく方法もあります。入居者から問い合わせがあったときに「問題となった業者とは一切、関わり合いなし」と答えることができれば、最低限の安心感を与えることができます。ちなみに、平成11年4月以前の建築確認は、すべて特定行政庁により行われています。

これらの設計図書は建設会社からオーナーに引き渡されていると思います。

 さらに踏み込むのであれば構造計算書の再計算を行います。国交省のホームページでは、再計算について(社)日本建築構造技術者協会に相談か依頼をするように奨めています。費用は、建物規模、依頼内容等により異なりますが、通常の場合、平均的に40〜50万円(協会HPによる)としています。規模によって違いすぎるので、あくまでも参考程度にしかならない金額ですが。建築確認の時期が昭和56年5月以前のものは、耐震基準が導入されていないので、既存の構造計算書による新耐震基準への適合性のチェックは出来ません。調査としては「耐震診断」を行うしか方法がありません。

 「ここまでやる必要があるのか」とも思いますが、所有建物を建設した会社の内容がよく分からずに不安であるならば、リスクを回避するためにも、必要な措置といえるのではないでしょうか。

 1981年(昭和56年)に建築基準法が改正されて耐震基準が導入されています。そのため昭和56年6月以降に建築確認された建物は必要な耐震強度がある、ということになります(偽装・手抜き建物は別ですが)。反対に昭和56年5月以前に建築確認された建物は地震などで壊れやすいので、「耐震診断」を受けて必要な耐震化を行いなさい、ということになっていて、国交省は現在約75%の耐震化率を早期に90%程度まで高める事を目指しています。

耐震診断を検討する場合は、都道府県の建築士事務所協会に相談します。また地方公共団体で耐震診断の実施に対する助成を行っている場合もあります。費用は、形状、構造、診断方法、現地調査の有無等により異なりますが、一般に、500円〜2000円/uです(東京建設業協会HPより)。

 診断の結果「耐震性なし」となった場合は耐震改修を行うことを検討する必要があります。費用は条件によって違いますが、15000円〜50000円/u(同HPより)となっています。

1人の設計士の偽装問題から発展した話ですが、考えてみれば賃貸住宅経営というのは、「人の命を守る」場所を提供している、とても重大な仕事である事に気付かされます。ある程度の地震や災害に対して「壊れない」ものを提供する責任があるわけです。顧客サービスという観点から考えますと、事が起きたときにしっかり守ることも大切ですが、日常の暮らしの中で「安心感」を与える事も大切です。この「安心感」も商品価値(お金を払う価値)のひとつであると、世間が認識した事件なんだと思います。ですから、耐震強度の確認に対してオーナーが払う努力は、決して無駄になることはないと思います。


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