定期借家契約B 定期借家権の最終回として、オーナにとっての定期借家制度の利点を整理してみます。 まず初めに挙げられるのは「不良入居者の排除」でしょう。ゴミ出しや騒音などの入居ルールを守れない、あるいは家賃の滞納を繰り返すような入居者を、この制度なら契約終了をもって追い出すことができます。普通借家契約では裁判所の命令がない限り、たとえ契約が終了しても退去させることは困難ですが、定期借家なら可能です。契約期間が残っている間は「すぐに!」とはいきませんが、いつまでとも知れない普通借家よりは比べようのないくらい有利です。 また、それに関連して、「優良入居者を守る」ことができます。不良入居者のはびこる物件では、優良な入居者は黙って退去していきます。表面上の引越理由には出てきません。結果、永く住んでもらいたい人が早々と出ていき、手間のかかる輩が居座る、ということになりかねません。オーナーの空室対策にとって大打撃となる場合もあります。 さらに、「条件が必ずしも良いとは言えない申込者も入居させる」ことができます。とりあえず短期(6ヶ月から1年)で契約して実績を見て、問題がなければ2年間の再契約に応じたり、一定期間の賃料を前払いしてもらい、その期間の定期借家契約を結ぶなどの方法が可能です。後者の場合は連帯保証人も不要になるかもしれません。 次の利点として「立退き料が不要か最低限」とすることができます。オーナーにとって避けて通れないのが賃貸住宅の取り壊しです。建て替えるにしても土地を他の用途に転用するにしても、オーナー側から退去を求める以上、立退き料が必ず必要になります。最低でも家賃の5〜6ヶ月、たちの悪い入居者にあたると信じられないような額を要求されます。金銭的にも精神的にもかなりの重圧となります。定期借家契約なら、契約解除に正当事由も不要ですし法定更新もありません。立退き料はゼロで合法的に契約解除することができます。“立退き交渉”などはまだ先の話で現実感がないかもしれませんが、いつかは必ずやってくるものです。賃貸経営でなにより肝心なのは“中長期的なビジョン”ですから立退き問題を解決しておくことは重要なテーマです。 さて、定期借家権の利点のつぎは欠点についても考えてみましょう。オーナーにとってのこの制度の欠点は2つで、「家賃が下がる」ことと「決まりにくい」ことです。 それぞれ検証してみたいと思います。 最初に「家賃が下がる」という点についてです。まず、大手管理会社の中に「我が社の管理物件はすべて定期借家契約」という管理会社が何社かありますが、「家賃は一銭も下げていない」のだそうです。 もちろん広告の工夫や入居希望者への説明、周りの同業者に理解を求めるなど、多大な努力があってのことです。 「一銭も・・」かどうか別として検討に値する事例だと思います。 また、次のような考え方もあります。普通借家制度の下で賃貸借契約を行うとき、オーナーには多くのリスクが伴います。不良入居者を思うように追い出せず、希望通りの契約解除もできない。しかし借主には契約期間中でも1ヶ月前程度の申し出で自由に途中解約が認められ、場合によってはリフォーム費用も回収できません。立退き料も多額が要求されます。 これらのリスクを見込んで、関東では礼金・更新料を徴収したり、関西では多額の敷引きを請求してきましたが、その制度すら揺らいできています。つまり、普通借家制度のもとでは、10万円の賃料設定をしても、前述のリスクにより実収入は7〜8万円となっていると言えるのではないでしょうか。 このリスクが、定期借家契約によって減少する分があるなら、それに見合った賃料を下げても実収入に差はない、という考え方です。募集条件が下がる分だけ空室対策にもなり得ると思います。 いかがでしょうか。 もうひとつの「部屋が決まりにくい」という点についても、前述の管理会社は「そのようなことはなく、入居率は高い水準を保っている」としています。もし入居者が住み続けたいのに定期借家契約によって無理矢理追い出される可能性があるなら、その部屋は決まりにくいでしょう。でもオーナーは部屋を貸すことを商売としているわけですから、問題がなければ建物がある限り住み続けてもらいたいわけです。入居者との利害はいささかも反していません。ルールさえしっかり守れば希望するだけ住めるし、ルール違反をするような嫌われる入居者は排除されるわけですから、普通借家の物件より住み易いはずです。問題はその事実を、部屋を探している客に正確に伝えることです。広告の工夫や周辺業者からの理解と、紹介の際の分かりやすい説明が必要になります。でも、それらは工夫次第で乗り越えられることです。 大切なのは、まず、そのような方針を決めることだと思います。 最後に、定期借家制度も5年を過ぎ、見直しの提言がいくつかされています。その中でもオーナーにとって重要なのが「現行の普通借家契約を双方が合意すれば定期借家契約に転換することを可能とする」という変更点です。これが実現すれば、入居中の部屋が更新を迎えた際に定期借家契約に切り替えることが可能となります。家賃を少し下げる等のメリットを打ち出せば合意する入居者も多いのではないでしょうか。特に築年数が15〜20年を過ぎた物件は、定期借家契約に切り替えておきたいものです。 福岡市の賃貸と不動産 |