一生懸命になるということC


  今回も、あるオーナー向けの講演内容を本誌用にまとめたものをお届けします。必ずしも全てのオーナーに当てはまる内容ではありませんが、一般的な考え方として参考にしてくだい。

これからのニーズに合った、間取と設備に変える

 リフォームの話ですが、木造アパートで30年、賃貸マンションなら40年を寿命と考えたときに、この間に大規模なリフォームをしないで、賃貸住宅に第一線で活躍し続けてもらうことを望むことができるでしょうか。
それは、なかなか難しいのではないでしょうか。

 家賃をどんどん下げて、なんとか入居者を確保することは可能かもしれませんが、それを第一線での活躍とは言いません。
 20年前にアパートやマンションの建築を提案していましたが、最初に建てていただいたワンルームアパート(当時ではワンルームという間取りは珍しかった)の一戸の面積が5坪でした。部屋は6畳弱で、3点式のユニットバスで追い焚きなし、電磁式調理器という、今なら「お客様に嫌われる要素」のてんこ盛りです。

 でも当時では珍しく、満室が続き「空き待ち」も出たほどです。時代とともにお客様の趣向は劇的に変化していくのですね。
 賃貸住宅経営が、建物設備というハードを提供する商売である以上、お客様の趣向が変化すれば、それに合わせてハードも替えていく必要があります。できなければお客様から選ばれず淘汰されてしまいます。大切なのは、目の前の売上を増やすことや経費を削ることだけを優先するのではなく「収益」の確保です。

 さて、ワンルームは、面積でいえば、すぐに6坪20uの時代になりました。トイレとバスルームが別々になったタイプです。
 次に7坪23uへと移り、今は8坪26uが標準となりつつあります。部屋は8畳近くあり、独立した洗面・脱衣所が必要とされるのが最近の傾向です。
 私は、これから建てるなら9坪30uを勧めています。

 ちなみに5坪のワンルームを企画していた当時の部長は「これが時代遅れになったら、二部屋を繋げて1LDKにすれば良い。そのように設計している」と言っていました。先見の明があったと思います。

 さて賃貸住宅のリフォームは、大きく分けて、
 外壁(鉄部も含む)の塗り替え
 間取りの変更
 設備の入れ替え 
などがあります。

 まず間取りを変えるときのキーワードは、『部屋数は少なく、ひと部屋は広く』です。
 日本の総人口は2年後の2006年にピークとなりその後は減少していくのに、世帯数は10年後の2014年まで増え続けると予想されています。

 つまり、一人か二人の世帯が圧倒的に増える、ということですね。四人以上の世帯はどんどん減っていくようです。それなのに、3DK・3LDKのマンションを作るのは時代に合っていません。さすがに最近では、1LDKや2LDKの分譲マンションが増えていますが、ローカルな地域では、今でも3LDKのマンションを建てて、売ったり貸したりしています。

 つまり間取りの変更は、40uの2DKなら1LDKに変えていく。
50〜60uの3DKなら2LDKに変えていくという方向性が正しいと思います。
 可能ならば、6畳を8畳クラスの広さにしたいものです。

 次に設備を入れ替える際のキーワードは、「安全」と「趣味」です。
 「安全」が求められるのは、それだけ日本が物騒になったということで残念ですが、これも時代の要請です。いまやオーナーの責任として、必要な安全対策が賃貸住宅に求められるようになりました。
建物の周りを照らす照明、夜でも明るいエントランス、オートロック、二重キーやカードキー、防犯シールの貼られたサッシ、各室ごとの警報装置など。これらの設備が強力なセールスポイントになる時代です。

 次の「趣味」ですが、最近では賃貸住宅への希望条件に、自分の「趣味」を満たすものを求めています。
 たとえばペットを飼う人が増加の一途だそうですが、その希望を満たす物件は、まだまだ少ないのが実状です。ただ条件としてペットOKだけでなく、脱臭器や床の材料、シャンプーに便利な設備など、ペット専用ほどではないにしても、気の利いたペット用設備が望まれています。
 昨年、ペットの飼えるマンションを探した経験がありますが、本当に選択肢が狭く、ペットが飼える、というだけで、ほとんど家主の条件通りで決めました。

 つぎに、テレビで音楽や映画を楽しみたい、という人には、ケーブルTVが喜ばれます。ケーブルTV会社と個々に契約すれば見られます、ではなくて、家賃の中に視聴料金も含まれてる、という条件が良いと思います。
 ケーブルTVを見ることの出来ない地域では、BS・CSアンテナが必須です。CSアンテナがない場合は110度CS対応のBSであればOKです。どちらでも「スカパー」が視聴できます。これからは地上波デジタルへの対応も必要でしょう。

 パソコンを家で使うという人も増えました。誰でも電話回線さえあればパソコンは使えますが、大容量のデータを高速で処理したい、となると簡単ではありません。
 これからは映画もインターネットで配信されて、好きなときに見ることが出来る時代です。100mbps と言われるくらいのスピードが必要といわれるています。それが可能なのは「光ファイバー」ですが、マンションなら設備を付加すれば取り入れることができます。
プロバイダー料金も家賃に含まれていれば、なお魅力が増します。

 これらのリフォームは、投資に見合った収入増が見込めるのか、あるいは失った収入を取り戻せるか、が大事な判断材料です。
 賃貸住宅の価値が高まるようにお金を使うのが「投資」で、ご自分の趣味や満足に使うのは「浪費」です。「投資」は見返りが返ってきますが「浪費」は戻りません。

 人生の楽しみとして「浪費」も必要ですが、限りあるお金なら、どちらに優先して使えばよいか、考えたいものです。
 売上−経費=収益 目的は収益を最大限に増やすこと、を忘れないことだと思います。

最後に、家賃の値下げ

 さて、最後に家賃の値下げです。
地域差があれ、ほとんど日本中の家賃相場が下がっているので、それに合わせて下げないわけには、残念ながらいきません。
 ただし、はじめから「家賃の値下げ」だけで対処しようとするのは間違いです。その前に、すべき努力がある、ということを4回に渡ってお伝えしたいと思いました。
 贅沢になった日本の若者は、気に入る何かがなかったら、価格が安くても見向きもしません。価格だけで決める人は、本当に余裕のない人で、入居者としては、あまり望ましくないケースが多いです。
家賃の滞納やトラブルに結びつく可能性が高いのではないでしょうか。

 「建物を綺麗に、設備を充実させる」(可能なかぎり)
 「募集を全力で行う、募集条件を考える」(最近の流れに合わせて)
 「居住環境の質を高める、入居者を大切にする」
 それらの努力をまず行って、最後に、家賃の見直しをしてください。

最後に、ある読み物で知ったエピソードを紹介します。

 自宅を建て直す際に、敷地内に賃貸住宅を併設しようと計画したオーナーの話です。
 建築メーカーの担当者が最初に持ってきた図面を見ると、南側にオーナーの自宅が配置されていて、賃貸住宅はその陰になっていました。しかも見積もりを見ると、オーナー宅の方が、坪単価が3割以上も高く、設備も豪華になっています。
 その理由を尋ねる「皆さん、普通はこうされますよ」という返事でした。そのオーナーは建築メーカーの担当者に言いました。
 「賃貸住宅に住む方はお客様です。お客様より陽当たりと設備の良い家に住むわけにはいきません。南側に賃貸住宅を配置して、設備も賃貸住宅の方を良くしてください。」
 それを聞いた担当者は首を傾げたそうです。

 ライバルのオーナーがこんな方達ばかりだったら、競争はもっと大変になりますね。


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