7つの障害 A


賃貸住宅オーナーの“事業の障害”となる7つの項目のうち[空室の発生][賃料の低下][修繕費用の増加]について前回お話ししました。この3つは密接に関連していて、トータルで取り組む問題である、というお話でした。今月は残りの4つについてご一緒に考えたいと思います。
 
[C賃料の滞納]
 この賃料の滞納もオーナーにとって深刻な問題です。滞納が起こっても最終的に入金になれば良いのですが、実際には貸し倒れとなる可能性が高いのです。“賃料滞納は空室と同じ”という言葉がありますが、空室よりも精神的・経済的被害が大きいと言えます。

 滞納を防ぐには「入居審査を厳重に行う」ことが第一ですが、ここでも「空室の問題」が絡んできます。確かに審査を厳重に行い、一流企業の社員や公務員に限定すれば滞納は減るでしょうが、そんな贅沢を言っていたら空室がうまらないのが実情です。審査を軽くして入居促進を優先すれば滞納発生の危険が高まります。要するに入居審査というのはグレーゾーンにいる申込者の判断をどうするか、そのバランスが難しいのです。

 さて、滞納問題にとって重要な項目をいくつか上げて検証してみましょう。

○連帯保証人
 賃貸借契約の連帯保証とは、借主が賃貸借契約の中でオーナーに対して負う債務を、連帯して保証するものです。“連帯”とは借主と立場が全く同じ、ということで、オーナーからいきなり請求されても「借主に先に請求してほしい」とは言えずに、すぐに応じなければなりません。
保証する債務の内容は、賃料はもとより借主の不始末で発生した火事で貸室に被害が生じたときの損害賠償も、その対象となります。
まずこの連帯保証人を、しっかり立てておくことが肝心です。名前だけの保証人ではなく、いざというときに債務を弁済できる資力と責任を備えた人を求めなければなりません。その理由で連帯保証人は、借主よりも資力がある身内を第一に求めます。親兄弟ならばいざというときに頼りになるからです。

 また最近では、連帯保証を引き受ける会社が多く登場しています。契約時に2年分の保証料(賃料の30%程度)を受け取り、滞納の際には督促を行いオーナーに対して賃料を保証する、というものです。この制度を利用するためには、それらの保証会社と提携(あるいは代理店契約)している不動産会社に仲介を依頼する必要があります。督促と保証を行ってくれるのはオーナーにとっても大きなメリットで、個人の連帯保証人よりも頼りになると考えるオーナーも多いようです。

○督促の方法
 オーナー自ら管理している“自主管理”の場合は、督促活動もオーナーが行うケースが多くなります。仲介を依頼した不動産会社に任せっきりにする例もあるようですが一考の余地があります。その理由は、滞納賃料の督促というのはスピードが命です。発生と同時に電話や文書、場合によっては訪問を行い、催促すれば支払う人(主にルーズな借主)と、事情があって払えない人(収入が少ない、払う気がない)を選別する必要があるのです。連帯保証人に連絡したり、場合によっては内容証明郵便を送るなど、早め早めに手を打つことがなによりも肝心なのです。募集だけを請け負った仲介会社が、そこまでの“やる気”を発揮するか、しっかりと吟味してください。単にダラダラと督促していたのでは被害が拡大する危険もあるのです。

 商取引の原則を論ずることをお許しいただけるなら、仲介業者は借主との賃貸借契約が終わり、精算と入居が済んだところで責任業務は終了しています。賃料の督促はその後のサービス業務ですから、単に催促するのみか、プロとして問題解決をはかるのか、督促の力量を確認する必要があります。一般常識で考えれば“タダの管理”と“有料の管理業務”とでは、その内容に大きな差があって当然だと思います。
とにかく、オーナー自ら督促する場合は、電話・文書・訪問を早めに行い、“うっかり”や“ルーズ”な借主を一掃してください。その上で不幸にも“問題あり”の借主が把握できたら、連帯保証人へ連絡・本人と支払い約束の書面化・場合によっては内容証明などの手を早めに打つことが大切です。仮に法的手続きが必要な場合でも、司法書士や弁護士への相談は一日でも早いほうが被害が少なく済みます。

[D事件・事故]
 5番目の障害は、賃貸物件が遭遇する様々な事件や事故です。
テレビのニュースで目にする痛ましい事件などは、よく見ていると賃貸住宅を舞台にして起こっているケースがよくあります。ニュースを見るたびに「あ、またアパートだ」と思い、そのオーナーさんの嘆きを想像したりしてしまいます。きっと事件の起こった周辺では、舞台となった賃貸住宅は有名になっているでしょう。もし亡くなられた方があれば、次の募集に大きな影響が出るでしょう。賃料を半額近くに設定せざるを得ないかもしれません。

 これらの事件に巻き込まれることを完全に防ぐことはできませんが、物件のレベルの維持と入居審査で、可能性を少なくすることはできます。やはりニュースになるような事件を起こす人の多くは、滞納と同じで入居審査の際に何らかの信号を発しているものです。またレベルを維持してそれなりの賃料水準を保っていることも、事件を起こす予備軍の入居を防ぐ手だてとして効果が大きいと思います。
貸室内の自殺というケースもオーナーにとっては大きな問題です。
壁・天井など内装工事をしっかり行い、お祓いをし、その上で内見希望のお客様に事実を伝える必要があるのはもちろんですが、募集賃料も下げざるを得ないでしょう。
ただし、被害を最小限度に食い止めるための手だては尽くしたいものです。

 まず法人契約の場合は、引き続き契約を続行することを要請しましょう。社員が住もうが住むまいが相手の自由ですが、契約を続けてくれればその間の賃料は下がらなくて済みます。2年も借りてくれれば事件のほとぼりも少しはさめてくるというものです。法人がすぐに解約を希望するなら、損害賠償を求める、という方法もあります。賠償額は1〜2万円の24ヶ月分程度のようですが、契約を続行するか損害賠償に応じるか、法人側も考えることでしょう。家族で居住していて亡くなられたのがご主人の場合、相続された奥さんに損害賠償を求めることも可能のようですが、これは心情的にどうでしょうか。でも、こちらの窮状も訴えて、たとえ多少の賃料減額をしても住み続けることを要請してみる価値はあると思います。

[E災害]
 賃貸住宅が被る災害で真っ先に頭に浮かぶのが“地震”です。阪神淡路大震災で亡くなられた方の中には、意外にも18〜22歳の若者が多くいた、という話には驚かされました。築年数が20年以上経過した木造アパートが多く壊れて、安い家賃で入居せざるを得ない若者がその犠牲になったようです。
そのあと、オーナーの皆さんにとっても他人事ではない事態が起こりました。亡くなった青年の遺族が建物所有者を訴えたのです。損害賠償責任として1億円の支払いを求めて訴えました。判決は、所有者が遺族に対して5,500万円の金員を払え、とするものでした。要するに近隣の賃貸住宅が軒並み全部が倒れたのであれば不可抗力が認められるが、その建物だけが倒壊したのならば、所有者が管理責任を負わなければならない、というのが判決の主旨のようです。民法717条(工作物責任)1項。建物が倒壊したり建物に起因して損害が発生した場合に、オーナーに対して責任追及する際に、この“工作物責任”はよく用いられる概念です。

 この問題を考えると、ご自分の所有する賃貸住宅でその対処法を準備しているオーナーがどのくらいの割合で居られるのだろう、と思ったりします。つまり、築20年を過ぎた木造アパートは耐震性のチェックと、それにより指摘された耐震補強(※注意 この問題で恐怖心を煽る営業をしている一級建築士もいるらしいので気をつけてください)を施す必要がケースによってはあるということです。
判決後の建物所有者はどうなったか。一人のオーナーは自己破産を選択し、もう一人のオーナーは係争中とのことです。

[F高額な立退料]
 さて、最後にオーナーを襲う障害は“立退料”の発生です。
賃貸住宅を経営していると誰でも一度は、立退料を請求される局面に立たされます。それは建物を取り壊すときです。
まだ住み続けたい、という借主に、無理に退去を要望するのですから、オーナーに立退料を支払う義務が発生します。
立退料に相場はありませんが、新しく借りる賃貸住宅に必要な金員として家賃の5〜6ヶ月分と、引っ越し料プラス迷惑料です。家賃の7〜8ヶ月くらいでしょうか。これはあくまでも平均の話で、この金額でも出ていかない借主を強制的に立ち退かせる事は、現実はなかなか難しいです。

 極めて希な例ですが、知人の立ち退き交渉の経験では、家賃の10年分を払ったケースがありました。25,000円で貸していた築35年の貸家の立ち退きに、交渉の末300万円を支払ったのです。箸にも棒にもかからない強欲な夫婦者でした。その一棟の取り壊しが進まないと新築工事に取りかかることができなかったのです。他の借主さんは15〜20万円で応じてくれたのですが・・・・。
このように賃貸住宅経営の最後になって、どんでん返しのように高額の立退料を請求される危険性があります。そのための予防策を日頃からとっておく必要があります。

○借主との関係を良好に
日頃から関係が良好な相手に無理難題は言いにくいものです。そのために快適な居住空間を提供し、借主の要望にも耳を傾けておくことです。

○賃料水準を高く保つ
相場より安い賃料で貸しているケースほど立退料は高くなる傾向があります。他に住み替える物件の選択肢が狭まり、立ち退く側の損害が増すからです。建物や設備にしっかりと手を加えて、近隣の同じ広さの物件の中でも高めの賃料が維持できていれば、転居先は容易に見つけることができるので立ち退きもスムーズになります。

○定期借家契約に移行しておく
定期借家契約ならば立退料は発生しません。たとえば築25年の賃貸住宅があり10年後に建て替えを予定しているなら、これから新規に結ぶ賃貸借契約は10年を上限として“再契約型”の定期借家契約とすれば良いのです。来年契約する際は9年を上限とし再来年の契約は8年を限度とします。こうすれば10年後にはほとんどの貸室が定期借家契約の満期を迎え、立退料なしで契約を解除することが可能です。

 以上、2ヶ月に渡って、賃貸経営を妨げる7つの要因をお話ししました。
いずれも遭遇すれば大きな問題ですが、なるべく避けることは出来ますし、遭遇しても被害を最小限度に食い止めることは可能です。
賃貸経営も事業である以上、収益を最も多く確保することを求める訳ですが、そのために想定される問題には日頃の準備を怠ってはいけない、ということだと思います。


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