国交省のガイドライン改訂


  2月10日に国土交通省から発表された「原状回復にかかるトラブルの未然防止と迅速な解決のための新ガイドライン」の内容を再確認しておくことは、これからの賃貸住宅経営にとって大切なことだと思います。


入居前の物件確認
 この度の改訂版は、トラブルの未然防止対策として、契約締結時とその準備の重要性を強調した内容になっています。そのためのひとつとが、入居前の物件確認です。
いままで退去時に、荷物が搬出された後に現地で立ち会い、物件の使用状況や汚損を確認することは一般的に行われていました。

 新ガイドラインでは、入居前の物件の状態を確認することで、「出口」(退去時)より「入口」(契約、入居時)を重視するように呼びかけています。また立会時に、住まい方、手入れ方法などを説明すれば、借主の管理や責任義務を明確に理解させることができ、退去時の修繕工事の負担内容を説明する機会ともなります。

契約内容を双方が合意する
 つぎに「入口」での大事なポイントとして、契約内容とその合意です。貸主・借主がどこまで修繕項目や費用を負担するのか、契約書に明確に記入し借主にしっかりと理解させることが大切です。
ご存じのように、特に契約書に記載がなければ、借主が負担するのは「故意・過失」「善良な管理者としての注意義務違反」「その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損」です。住む人の通常の使用によって生ずる「経年劣化」や「募集のためのリフォーム」は貸主が負担することとされます。

   一般的に上記の考え方があるとしても、特に契約当事者が合意すれば、この考え方以外の内容で契約を締結することは可能です。大事なのは借主がその不利益(?)を正確に理解して契約を結ぶことです。
理解が不十分だと、後ページの「賃貸トピックニュース」に紹介した「借主負担特約は無効、消費者契約法適用」のように、訴訟によって特約が無効とされてしまうのが現状です。

 借主の正確な理解を得るために新ガイドラインでは、次の3点をポイントに上げています。
@特約が社会通念上の範囲を超えないこと
A退去時の通常損耗等の復旧は貸主が行うことが基本とされているが、本契約では借主も一部について負担の義務を負うこと
B前項について借主がその義務と負担を負うことを明確に意思表示していること。


 このような特約を作るときは、契約書に明確に記載して、借主がその内容を充分に理解し、了解して契約することが必要です。
また、退去時に借主の費用負担がどの程度のものか、単価や工事範囲の明示を行うことで、トラブル防止に役立てるように新ガイドラインは示しています。
そしてその特約は、部位ごとに、具体的に記載するとともに、文字を太く、朱色の文字を使うなど借主の注意を引く工夫も有効です。

善管注意義務の事例が追加

 善管注意義務違反とは、「借主が通常の住まい方をしていても発生するが、その後の手入れ等の管理が悪く、発生・拡大したと考えられるもの」で、ガイドラインでは借主の負担と規定しています。
この善管注意義務違反の事例が追加になったことは貸主にとって評価できる内容です。

@冷蔵庫のサビ跡
冷蔵庫に発生したサビが床に付着しても、拭き掃除で除去できる程度であれば通常の生活の範囲と考えられますが、そのサビを放置し、床に汚損等の損害を与えることは、借主の義務違反に該当します。

Aガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす
使用期間中にその清掃、手入れを怠った結果汚損が生じた場合は、借主の義務違反に該当すると判断します。

B風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビなど
使用期間中にその清掃、手入れを怠った結果汚損が生じた場合は、借主の義務違反に該当すると判断します。

Cタバコのヤニ(ただし書き部分の追加)
喫煙自体は用法違反、義務違反には当たらず、クリーニングで除去できる程度のヤニについては、通常の損耗の範囲であると考えられます。ただし、通常のクリーニングでは除去できない程度のヤニは、もはや通常損耗とは言えません。

 これらの事例が追加され該当する事態が起きたときは、善管注意義務違反として借主に請求することができます。ただし、実務的な判断になると個々の状態が異なり、判断に苦慮することも多いと思われます。これについても、契約時や物件確認時に「使用規則」あるいは「住まいのしおり」などで具体的な住まい方、使い方を説明することが大切です。

裁判例から特約条項を考える

 新ガイドラインでは裁判例が10事例追加されています。大半が借主の主張を認めている判例です。
借主の勝訴となった判例を見ると、契約書に修繕工事費の負担内容などを特約で具体的に記載していないことが、借主の主張を認めた要因と理解できます。裁判事例などを参考に、個々の契約書面に特約を設けるときは、具体的に明示することで借主が理解し、納得してもらえる契約書を備えておくことも必要である、と国交省の新ガイドラインは語っています。



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