賃貸住宅のトラブル防止策を考えるI

 賃貸住宅をめぐる紛争は、極力未然に防止するように、また、万一、現実に紛争が起きてしまっても、できる限り当事者間の話し合いにより、自主的に解決すべきです。
 しかし、どうしても話し合いによる解決が難しい場合は、やむを得ず法的手段に訴えることになります。
 法的手段−いわゆる裁判沙汰には、相応の時間や費用や労力がかかります。しっかりとした基本方針を定めて、専門家ともよく相談しながら、解決に適した効率的な手段を選びましょう。


1.支払督促
 支払督促は、賃料等金銭の請求の際に、債権者の申立てに基づいて、迅速に債務名義(強制執行力をもつ書面)を取得できる手続きです。

l)支払督促の申立て
 支払督促の申立ては、請求金額がいくらでも、簡易裁判所の書記官に対してすることができます。

2)裁判所の審理
 裁判所では、審査も尋問もせず、債務者に支払督促を送ります。この場合、債権者には、支払督促を送付した旨を通知するだけになります。
 これに対し、債務者が異議の申立てをしなければ、「確定判決」と同じ効力を得ます。つまり強制執行することができるようになります。
 もしも、債務者が異議の申立てをすれば、通常の民事訴訟の手続きに移行します。

2.即決和解
 当事者同士の話し合いにより和解か成立したり、その見込みが立ったときには、簡易裁判所に和解の申立てをすることができます。
 当事者が期日に出頭して、和解が成立したときは、「和解調書」が作成されます。「和解調書」は、「確定判決」と同じ効力があり、また、金銭の請求だけでなく、建物明渡しの履行などにも強制執行ができます。
 当事者双方が出頭したが、和解が成立しなかったときは、双方の申立てにより、訴訟手続きに移行します。

3.和解
 訴訟提起後、判決に至るまでの間に、裁判所の勧告により、双方歩み寄って和解することができます。
この「和解調書」は、確定判決と同じ効力があります。
 即決和解が「裁判前の和解」とすると、この和解は「起訴後の和解」といえます。

 紛争の内容や相手方の人格にもよりますが、お互いに譲り合って「和解」することは、費用、時間、労力の面でも、プラスになることが多いので、民事訴訟においては大切なことです。

4.民事調停―賃料増減額請求の調停前置主義
 民事調停とは、民事紛争を解決するため、裁判官と良識ある民間人で構成される「調停委員会」により、双方のいい分を聞いて、具体的に妥当な解決をはかる制度です。
 調停は、必ずしも法律だけにとらわれず、双方の心情などを考慮し、条理にかない、実情に即した、話し合いによる解決を目指して、非公開で行われます。
借家の賃料増減請求は、民事訴訟を提起する前に、必ず「調停」の手続きを経なければなりません。これを「調停前置主義」といいます(民事調停法24条の2)

 調停が成立したときの「調停調書」は、「確定判決」と同じ効力があります。調停は、あくまで話し合いを基調としますから、不成立の場合でも、あくまで法的解決を目指すならば、あらためて訴訟を提起しなければなりません。

5.少額訴訟
 簡易裁判所が管轄する少額の訴訟で、複雑でないものについて、一般市民が訴額に見合った経済的負担で、迅速かつ効果的な解決を求めることができるように、原則として1回の期日で審理を完了して、直ちに判決をいい渡すことなどを内容とする少額訴訟手続きが設けられています。

1)訴訟の対象
 少額訴訟は、簡易裁判所における訴訟手続きで、対象となる事件は、訴額が30万円以下の金銭の支払いの請求を目的とするものです。

2)一期日審理の原則
 少額訴訟では、第1回口頭弁論期日において、審理を完了しなければなりません。従って、当事者は、その期日までに全ての証拠や証人を提出しなければなりません。これを一期日審理の原則といいます。
 そして、判決のいい渡しも、通常は、口頭弁論の終了後、直ちにすることとされています。

3)反訴の禁止
 反訴の提起があると、原告による反論の準備や、反訴についての裁判所の審理などが必要になり、一期日で審理を完了するという原則と相容れなくなるため、少額訴訟では、反訴を提起することはできません。

4)判決による支払の猶予
 裁判所は、支払方法について、被告の資力その他の事情を考慮して、判決のいい渡しの日から3年以内で、支払猶予もしくは分割払いの定めをすることができます。また、これと併せて、訴え提起後の遅延損害金の支払い義務を免除することができます。
 裁判所は、分割払いとするときは、被告が分割払金の支払いを怠ったときは、期限の利益を喪失する旨を定めなければなりません。
 分割払いなどの判決に対しては、不服の申立てはできません。

5)不服申立ての制限
 少額訴訟の判決に対する不服申立てとしては、控訴は禁止され、その簡易裁判所に対する、異議の申立てだけが認められています。
 適法な異議があったときは、裁判所は、通常の手続きによって、原告の請求について、引き続き審理および裁判を続けます。この場合でも、反訴は禁止されています。

 少額訴訟は、賃料の不払いの際に、貸主が原告となって提起しますが、逆に、敷金返還請求では、借主が訴え、貸主が被告になる場合も多く起こっています。
 そのためにも、この少額訴訟の特別なルールを知っておく必要があります。

6.民事訴訟
 民事訴訟手続きは、紛争当事者が、裁判所に法律上の請求または確認の訴状を提出し、何が正当であるか、裁判所の判断を求める手続きです。
 応訴、口頭弁論、証拠調べなどを経て、「判決」、そして「確定判決」に至ります。「判決」に不服の場合は、判決が「確定」する前に「控訴」します。
 この手続きは、相当の長期間を要し、費用もかかることが多いといえます。
 従って、賃貸住宅に関する紛争は、できるだけ、この訴訟にまで至ることなく、それ以前の解決が望ましいのです。


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