賃貸住宅のトラブル防止策を考えるC 紛争防止のための基礎知識として今回は「賃貸借契約」について考えます。貸主側は、「賃貸借契約とは何か」ということを専門的に理解し、必要な納得を借主から得ておけば、多くの紛争が防止できるのです。 賃貸借契約は、各当事者が、相互に、使用収益させる債務と家賃支払債務を負担する契約で、有償・双務契約といわれます。賃貸借契約における賃貸人の義務として対象物を借主に使用収益させるという義務があります。使用収益というのは、借りた人がその用法、例えば住居であれば住居として使用することです。 契約の大原則のなかに「契約自由の原則」というのがあります。これは、 @契約の相手方選択の自由 A契約の内容を決定する自由 B方式選択の自由 です。 このような契約自由の原則は、当然に賃貸借契約にも当てはまっています。お互いが自由に内容を決めて、その内容で当事者が合意したため契約が成立しているのです。 入居者と契約するときに最も大切なのは、契約の条項を理解していただくことです。「契約内容を認識して承諾したから、ここに署名したのでしょう。」といえるために、契約条項を理解してもらうことは、契約の本質からいって最低限必要なことです。 「紛争の未然防止」の最大のポイントの一つがここにあります。 任意法規としての民法 賃貸借契約についての一般的なルールを定めている法律が民法です。 普段は賃貸借契約書が中心でしょうから、民法という法律を意識されることは少ないでしょう。さらに賃貸借契約に関して重要な法律には、借地借家法があります。しかし、賃貸借契約に関して「一般的かつ基本的なルール」を定めているのは「民法」なのです。ですから、民法における賃貸借契約の規定を理解することが重要です。 法律には、強行法規と任意法規の2種類がありますが、民法における賃貸借の規定は任意法規です。 「任意法規」というのは、「当事者が民法の規定と異なる権利や義務や使用方法を定めた場合には、当事者間の合意即ち契約の定めの方が民法に優先して適用される」という法規で、契約で何らの定めもしなかった場合にはじめて民法が適用されるという意味で補充的な法規といえます。 例えば、賃料の支払い時期について民法614条は、建物の賃貸借の場合「当月分を毎(当)月末に払うことを要す。」と当月払い(後払い)の原則を定めています。しかし実務で使用されている賃貸借契約書の多くは「翌月分を月末までに支払う」と定め、前払いの原則を定めています。この場合、契約書の定めのとおりの効果が発生し、民法の条文は適用されません。即ち、民法の条文は任意規定であり、契約の定めが優先的に適用されたということになります。 また、契約に定めていない場合であっても、民法の規定に基づいて判断しなければならない場合があります。従って、単に賃貸借契約書だけではなく、その背後にある民法の存在を念頭に置いておく必要があり、普段使われている契約書の内容をまず、よく理解しておくことが大切です。 賃貸借契約の内容を規制するもの 1)強行法規−借地借家法 賃貸借契約の内容を規制する法律に借地借家法があります。この借地借家法のように、契約の内容を規制する法規を強行法規といいます。 賃貸借契約の条項をどのように定めていても、借地借家法の強行規定に反する場合には、借地借家法の規定が優先して、契約の条項は無効になります。従って、契約内容に、借地借家法という強行法規に反する条項があるかないか、あるとすればどのように規制されるか、ということを十分検討しておかなければなりません。だからといって、借地借家法に反する条項がまったく無駄であるか、というと、そうではありません。10人のうち7〜8人は契約時に納得していれば、たとえ借地借家法に反する条項であっても従うものだからです。 2)公序良俗違反 契約の内容があまりに非常識であったり不公平であったりする場合は、借地借家法に定めがなくても無効になる場合があります。公の秩序、善良な風俗を略して「公序良俗」といいますが、この「公序良俗違反」も賃貸借契約の内容を規制します。 3)例文解釈 「公序良俗」や「強行法規」と同じく「契約自由の原則」を制限するものに「例文解釈」というものがあります。 この「例文解釈」とは、不動産の賃貸借契約や示談書などに含まれる定型的文言や約款の解釈で、文言通りに適用すると不当な結果となる場合に、その不当性を回避するために、その文言を「単なる例文である」として、その有効性を否定する契約解釈の手法です。信義則によって基礎付けされ、形の上では合意の存在の否定ですが、実質的には、裁判官による契約内容の改定を意味しています。 一方的に相手方に不利となる契約内容に対する隠れた司法的内容規制としての機能を発揮するものです。 例文解釈が借地借家について採用されやすいのは、借地借家法の歴史と関連しています。つまり、戦前の借地借家法は出征軍人の留守宅保護のために、留守宅の居住の安定という要請を一時的緊急避難的に強化したのですが、その保護策の精神が今日まで残っているのです。その根幹は居住の安定、即ち入居者の保護です。 居住の安定をはからなければならない、という思想に基づいて借地借家法が成立しており、現在もその思想のもとに運用されています。従って、借地借家法の解釈は、現在もなかなか厳しいものになっています。 また、通常の賃貸借においては、借地借家法の適用がない部分についての解釈についても、入居者保譲のために制限的に解釈される場合が多くなってきています。そのために例文解釈として契約条項を無効にしてしまう解釈もでてくる訳です。 現状としては、借地借家法もあるし、一般的にも入居者保護に対する強い要請や判断がありますので、賃貸借契約は、条項と違った諸々の規制を受ける場合が多いことを知らなければなりません。 大阪市中央区の賃貸サイト |