賃貸住宅のトラブル防止策を考えるB

    賃貸住宅の紛争予防についての3回目です。賃貸借契約で起きやすい紛争について、その基本的内容を解説していますが、今回は  「敷金返還」と「解約・更新拒絶」の問題です。

敷金の意味

 敷金とは、借主が賃料不払いなど貸主に損害を与えた場合に、賃貸借終了時にその損害額を差し引いて返還することを予定して、賃貸借の契約時に借主から貸主に預けられた金銭のことをいいます(大審判大15.7.12)。


敷金によって担保される範囲

 敷金によって担保される貸主の債権範囲は、賃貸借契約の存続中の未払賃料や室内の損壊などによる損害賠償請求権だけでなく、賃貸借契約の終了後建物を明け渡す時までに生ずる賃料や、建物の毀損などによる損害賠償請求権を含みます(最判昭48.2.2)。


貸主が代わった場合の敷金返還請求

 賃貸借契約の途中で貸主が代わって、それまでの貸主が新貸主に対して敷金を支払っていない場合でも、賃貸借契約が終了したときは新貸主は敷金を返還しなければなりません(最判昭44.7.17)。


敷金の返還はいつ求めることができるか

 賃貸借契約が終了しても、直ちに敷金を返還する必要はありません。
 敷金は、建物の明け渡しまでに貸主に生じた一切の損害を担保するものですから、敷金は建物の明け渡しを受けてはじめて返還義務が生じます。また、返還額も、建物の明け渡しまでに生じた修繕費用などの損害額を差し引いた残額についてのみ返還義務が生じます(最判昭48.2.2)。


敷金の返還と建物の明渡しはどちらが先か

 貸主は、借主が建物を明け渡したときにはじめて敷金返還義務が生じ、あくまで借主の建物の明け渡しの方が先になされなければなりませんから、借主は敷金が返還されないからといって建物の明け渡しを拒むことはできません(最判昭49.9.2)。


返還時に差し引く金額を予め定めることができるか

 契約時に敷金から差し引く金額を一定額または一定割合と定めることも、判例上一般に認められています。
特に、関西では「敷き引き」と呼ばれ、広く行われています。


敷金返還に関する特約

 天災などの不可効力により建物を使用することができなくなった場合には敷金を返還しない、という特約を結んだとしても、判例上その特約は無効とされています。したがって、地震によって建物が損壊し使用することができなくなり賃貸借契約が終了した場合には、敷金を返還しなければなりません(大阪地判平7.2.27)。


借主からの解約申入れの場合

 賃貸借契約に期間の定めのない場合には、いつでも借主から解約の申入れができますが(民法617)、期間の定めのある賃貸借においても、解約権を留保する旨の特約がなされていれば、期間の途中であっても借主から解約申入れができます(民法618)。
 ただし、借主が解約申入れをしても、即時返還特約がない限り、賃貸借契約が終了するためには解約申入れ期間を経過することが必要です。なお、借主の解約申入れ期間は特約によって定まりますが、特約がない場合は3ヶ月となります(民法618、617)。

 ところで、借主が解約申入れ期間経過前に明け渡した場合であっても、それはあくまでも権利の放棄に過ぎませんから、解約申入れ期間経過までの賃料支払い義務が当然に免除されるものではありません(東京高判昭59.10.16)。このため、この場合借主はなお解約申入れ期間満了までの賃料等を支払わなければなりません。
 また、借主の都合による期間中途解約の場合、次の借主が入居するまで賃料を支払う旨の約定も公序良俗に反せず有効であるとしている判例もあります(東京地判昭45.2.10)。


貸主からの解約申入れ・更新拒絶

1.貸主は、期間の定めのない賃貸借契約については6ヶ月前に解約申入れをすることができ、期間の定めがある場合は期間満了前の1年ないし6ヶ月前に更新拒絶の通知をし、かつ、期間満了後に借主が建物の使用を継続している場合には、遅滞なく異議を述べなければなりません。その上、貸主が解約申入れ・更新拒絶の通知をするには、正当事由が備わっていることが必要となります(借地借家法26@、27A、28)。
2.正当事由には、以下の事情が考慮されます(同28)。
イ. 貸主および借主が建物の使用を必要とする事情。
貸主が建物を自ら使用する必要がどの程度あるか、借主がほかに使用できる建物があるか。使用目的が居住目的なのか、営業目的なのかなど。
ロ. 賃貸借に関する従前の経緯。
賃貸借をすることにした経緯、権利金などの支払いの有無および金額、契約上の義務の履行状況など。
ハ. 建物の利用状況。
借主が当該建物をどのような目的・態様で利用しているか。
ニ. 建物の現況。
建物の老朽化により大修繕・建て替えが必要になっていることや、建物敷地の利用権利の喪失のために建物の利用が困難になるなど。
ホ. 貸主による財産上の給付の申し出。
立退料の提供がこれに当たるが、立退料の提供のみで正当事由があると判断されるものではなく、ほかの諸事情とともに立退料の提供があるときに正当事由があると判断されます(最判昭46.11.25)。
立退料の算定には、借家権価格、造作買取価格、営業上の損失に対する補償、移転実費、慰謝料、開発利益などが考慮されます。


次回は、紛争の未然防止のために、「賃貸借契約とは何か」を検証します。




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