老巧化した賃貸住宅の対処法

  オーナーの悩みは「空き室」「入居者トラブル」と「古くなった賃貸住宅の問題」です。今月は「老巧物件をいかに取り扱うか」について考えたいと思います。

老巧物件こそ賃料値上げを

 築20年、30年もたてばどの物件も老朽化し賃料下落の波にのまれます。利益が少なくなったことから修繕がなおざりになり、さらに古びてしまう。古くなれば当然、賃料の値下げをせざるを得なくなります。そして利益がさらに減ってしまうという「悪循環」にのみこまれてしまうのです。
 その対策のひとつとして「家賃の値上げ」があります。
 古い賃貸物件で値上げなど出来るか、とお思いの方が多いと思います。もちろん現状のままで値上げはできません。「古いから安い」という悪循環から脱するためには、値上げできるグレードに引き上げる必要があります。

 値上げをすれば修繕費にあてることができます。もしそれを不服として入居者が退去し空室になればそれでもかまわないのではないでしょうか。全室空室にして大規模リフォームや建て替えをすることができるからです。
 悪循環を脱するには品質を上げる必要があるのです。そのためには値上げをすることが一番の近道といえます。

 「25才がお肌の曲がり角」とよく言われますが、実は不動産も25年がひとつのポイントです。その年を過ぎると老巧化、取り壊しの問題が生じてくるからです。人間と同様に建物にもライフサイクルがあります。放置しておけば間違いなく「古アパートの悪循環」におちいってしまうでしょう。せっかくの「資産」が原因でとんでもない問題を抱えてしまわないとも限りません。賃料の下落が始まったら品質の向上を図り、連鎖にのまれないようにしておくことが大切です。
 つねに適切な修理・修繕で適正な家賃をもらうことが必要だといえます。

立ち退き料の方程式

 建物を取り壊すために立ち退き交渉をする場合、問題になるのが、借家権の問題です。借家権を認めるのか、どのくらいの借家権料を支払うのが妥当なのでしょうか。
 こちらの事情で入居者に立ち退いてほしいときどのくらいの金額を支払えばいいでしょうか。
10万円が相場家賃の物件に6万円で住んでいた人が立ち退くと仮定します。
この場合、支払われる金額は、10マイナス6=4万円×24カ月分、これに引っ越し代と次の物件の入居費用を足した合計額となります。

 この計算式は「その再開発がなかったかのように生活を続けることができるようにする」という再開発事業での考え方に基づいています。
 主に2年分の家賃の差額が補償額とされています。これを借家人補償といい、アパートなど集合住宅の場合によく使われる方法です。
 一方で、住んでいたところから移ることについて、借家権を認めてその割合に応じて支払う考え方があります。ここで問題になるのが、どのような賃借人に借家権を認めて、どう価格を算出するかということです。

 契約時に借家権に関する取り決めがない場合、その借家割合を算定するのは不動産鑑定士となります。借家権価格を認めるひとつの目安として戸建て住宅を例にして、長期間居住していることを前提に計算してみます。
 まず借家権割合は地域により一定しませんがおおむね30%です。

    戸建てのケースだとその借家権価格は土地の価格に借地権割合と借家権割合をかけたものに、建物の価格に借家割合をかけたものを足します。
 つまり、土地の価格が7000万円、建物の価格が3000万円で借地権割合が70%、借家権割合が30%だとすると(7000万円×0・7×0・3)+(3000万円×0・3)=1370万円が借家権価格となります。
 計1億円の戸建てを人に貸すと、借家権が1370万円も発生することに驚かれる方も多いと思います。集合住宅の場合は、これを戸数分(あるいは専有面積で按分)で割ります。

・借家権価格=(土地価格×借地割合
 ×借家割合)+(建物価格×借家割合)
・借家人補償=周辺相場の家賃
      −現在の家賃×24ヶ月分
※どちらの場合でも、これに引っ越しや入居費用が加算される

 借家権価格で計算するにせよ、借家人補償で計算するにせよ、引っ越しの代金や動かせない設備の代金などは別に加算されることになります。

建て替えの実例に学ぶ

老巧化したアパートを建て替えを前提に買うオーナーが増えています。高利回りを期待するには、できるだけ安く購入することが必要だからです。しかし、ここで問題になるのが入居者の立ち退き問題です。1年をかけて満室だった物件を整理し建て替えに成功した事例を紹介します。

満室物件を1億円で購入

 建て替えに至る経緯を教えてください。
 平成12年初めにオーナーが物件付きの50坪の土地を1億円で購入したところから始まりました。場所はJR大井町駅から徒歩4分、南東の角地という好立地にありました。賃貸住宅を建てるには最適の土地でした。唯一問題となったのが、すでにその場所に建っている古いアパートです。トイレこそあるものの浴室がない1K全10戸の物件で、当時は満室状態でした。老朽化が始まっており、外階段はビスが落ちるなどかなりいたんで危なくなってきていました。入居者は高齢者ばかりで、なかには新築当時から住みつづけていた人もいたくらいです。賃料は1戸あたり4万円ほどで、家賃収入は月に31万2000円しか取ることができていませんでした。

 新しい建て物を建てたくとも満室では立ち退きの手間がかかる物件だったといえますね。入居していた人のなかに、高齢者が多かったという点も問題を難しくしています。
 1年間という立ち退き猶予期間を設けてこれを入居者に通達しました。オーナーから立ち退き料の予算として1戸70万円計700万円をいただき、いざ実行、というところで入居者の1人が自主的に退去してくれた、おかけで交渉相手は9戸になりました。ここで、立ち退きにより必要となる引っ越し代と入居準備金として家賃の10カ月を立ち退き費用として申し出て交渉を始めました。

 この時、次の物件としていくつか候補の提示も行いました。その物件が気に入らない人には各自に部屋探しを任せました。仲介手数料はいただくことにしていましたが、物件を探す手間を考えると各自に探してもらうほうが効率がいいからです。
   結局、9件中4件を当社が仲介し、うち2件は自社管理物件だったので仲介手数料を半額にしました。次の入居先が決まると先の立ち退き料に必要経費に足らない分をプラスαしたのです。

 立ち退き料の総額はいくらになりましたか。
 500万円を少しきりました。残りはオーナーに返却しています。全室、期限であった1年以内に退去していきました。

新しい物件は利回り10%

 新しい物件はどうですか。
 平成13年の6月から8500万円かけて鉄筋コンクリート造3階建ての物件を建築しており、平成14年春に竣工します。さまざまな諸費用を計算すると総事業費は約2億円になります。当初は約23uの1Kを12戸、年間総家賃収入1279万円を予定していましたが、3階部分をオーナーの息子夫妻が使用することになり年間収入は852万円、単純利回りは10%となりました。
   現在、完成まぎわになり、すでに入居募集は完了しています。入居者は全員、若い単身の社会人となりました。


 賃貸住宅の取り壊しと立ち退きの問題はすべてのオーナーの頭を悩ます問題です。新築の物件も、時が過ぎれば必ず取り壊すときが来るのですから、オーナーであれば例外なく、避けて通ることのできない問題です。
 そのためには、その日のために準備をしておくことです。まず「家賃は相場通りか相場以上を保つ」。そして必要な投資は行うことです。また、取り壊しが視野に入ってきたら「定期借家制度」に切り替えて「立ち退き料の不必要な状態」を作りだすことも大切です。そして建物の誕生から最後までをトータルでサポートできるプロフェッショナルな業者と付き合うことが、何より大切です。



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