賃貸住宅のトラブル防止策を考えるF 具体的な紛争の未然防止について考える3回目は、「契約書の使用・用法制限」についてです。契約書に記載し貸主借主が承諾して締結しても、その効力は万能とは言えません。このことを前提としてどのように契約締結したらよいか、ご一緒に考えましょう 賃貸借契約書には、貸室の使い方の制限として、いろいろな項目が記載されています。 例えば、「ペット飼育の禁止」条項について、契約書の中で「その禁止行為に違反したときは催告なしに解除する。」あるいは「催告して改善されなかったら解除する。」と書いてあるとします。また、「賃料不払い」の条項に「賃料支払を2か月以上怠った場合は、無催告で解除する。解除後部屋の中に残していったものは全て所有権を放棄したものとみなし、残置物は処分する。」と書いてあるとします。 大家さんは、犬や猫を飼っている借主を見つけた場合も賃料を滞納された場合も当然に「契約書にこのように書いてあるのだから、すぐ解除して出ていってください」と主張するでしょう。 しかし借主は、いろいろな人に相談して、「そう簡単には解除に応じられない」と対抗してくる場合が多いと予想されます。 何故そのようなことになるのか。これは次のような原則があるからです。 「契約書に明確に書かれていれば、80%位の人はこの約定に従うが、しかし、残りの20%については、簡単に賃貸借契約を解除して追い出すことができない場合がある。」 80%の人が従うのですから条項自体はムダではありませんが、解除に応じない20%に対しては、後述する「信頼関係の破壊」を裁判所に認めさせないと契約を解除することができない仕組みになっているのです。 建物の使用方法、使用制限を明記する 基本的に、貸主は、借主に静穏な居住を保証してあげる義務があります。例えば、隣りの人がうるさくて仕方がない、という場合は、貸主側が原則的に対処しなければならないことになります。貸主には、騒音の主である借主に「静かに生活してください」という権利が当然にありますが、それを効果的に行うためには契約書の中にその旨を明記しておく必要があります。できるだけ詳しく定めて説明し、同意を得て契約することが望ましいのです。 特に、ペット飼育禁止やベランダに布団を干してはいけないなどは、当初に説明し、契約書に明記しておかないと問題になりやすいものです。 契約書に明記されていることで基本的には通じるはずですが、保険契約約款のように、詳細な規定の契約書については、書いてあるというだけでは、その効力が本当に及ぶのか裁判で争われる可能性がありますから、契約締結の段階で細かく説明しておく必要がある訳です。 建物の用法制限を明記する 建物の用法について、通常、居住用か業務用かは、契約書に書いてあります。万一、その記載がないときは、一般的には建物の性質によって解釈するものといわれています。この場合、建物本来の性質によって解釈するとなると、かなり広く解釈される傾向が強く、貸主の主張を全面的に認めてもらうことは困難なことが多いようです。居住用として貸したつもりが、用法制限の特約を定めていなかったために、塾として使われていても、建物の一部だけを塾にする程度なら、建物本来の性質に従った用法の範囲内であるとして、契約解除が認められなかった裁判例があります。 従って、用法の制限を契約書に明確にしておかなければ、貸主の意向に反した結果になることもあり得ます。 用法違反などによる契約解除=信頼関係破壊の理論 一般的に、契約においては「債務不履行→契約に定められた債務を履行しないこと→があれば契約を解除できる」というのが大原則です。 ところが、賃貸借契約の場合は「単純な債務不履行では契約を解除できない。ある程度借主を保護する必要がある。」という社会的要請があることを前提にした借地借家法が存在します。そこには、「信頼関係破壊の理論」つまり「貸主と借主との間の信頼関係が破壊されるような事情がないと契約解除には至らない。」という厳しい制約があるのです。 従って、「ペットを飼ってはならない」と定めてあるのにペットを飼ったとすれば、用法違反として明らかに契約違反であり債務不履行ですが、それをもって直ちに契約を解除できるかというと、その内容、程度、それまでの交渉経緯、入居段階の説明内容などを含めて、貸主と借主の信頼関係が真に破壊されていると認められて、初めて契約解除できるというものです。 個々の細かい事実の積み重ねが、信頼関係の破壊の証明に 以上の全てについて、債務不履行と契約解除との関係は徹妙な問題です。この点について、貸主と借主との間の感覚のずれが大変に目立つところです。 契約解除の裁判では、貸主側が、信頼関係が破壊されたことを立証しなければなりません。個々の細かい事実の積み重ねが信頼関係破壊の証明につながります。 「いつ、誰が、何をやって、どのようなことを言ったか、どのように注意し改善してくれなかったのか、そのようなやりとりが何回あったのか、契約締結時にどのように説明し守ってもらえなかったのか。」などの事実を累積していくことが大切です。 大家さんとしては「不動産会社が持ってきた契約書に記載されているのに、なぜ実行できないのか。」という疑問をお持ちになるかもしれません。 しかしそれは「問題が起きないように、また、最小限に留めるためにも、条文に記載する必要はある」のだと思われます。 そして「紛争が起きて、相手が反論してきたら、そう簡単に契約を解除できるものではない」ということも理解しておく必要があります。 もう一度繰り返しますが、契約書には「使用方法・使用制限・用法制限」を明確に記載し、契約時にしっかり納得と同意を得ておく。問題が発生したらすぐに注意し交渉経過を事実として積み上げておく、ことが大切です。 福島市の不動産と賃貸 |