賃貸住宅のトラブル防止策を考えるE 具体的な紛争の未然防止について考える2回目は、「連帯保証人」についてです。普段、当たり前のように処理している保証人ですが、曖昧な知識でいると思わぬトラブルに見舞われることがありますので注意が必要です。 賃貸借契約の締結において、連帯保証人がどのような負担を負うのかを、連帯保証人に明確にしていないケースが多いようです。 更新時に、賃料が15万円から17万円に上がれば、連帯保証人の責任も2万円アップします。 しかし、ほとんどの場合、「あなたが連帯保証している賃貸借契約の負担額が増えました」という連絡をしていないのが実状でしょう。 もっと悪いのは、「連帯保証人になることを承諾します」というだけで、賃貸借契約の重要な部分について、連帯保証人に説明していないケースもあります。 銀行が500万円を貸すときに、連帯保証人に対して、どれだけ慎重な手続きをとっているか、銀行員の目の前で自筆署名をさせています。これによって、500万円の連帯保証債務を負担したことを本人が認識したことを、銀行自体が直接確認しているのです。 賃貸借契約において、10万円の家賃で2年間なら240万円にもなります。平均4年間居住するとすれば、480万円の賃料を支払う契約をしていることになります。 4年間の分割払いで500万円の借入金を返済するのと同じ重さの契約が行われていることになります。 このように考えると、銀行が貸すときに連帯保証人に対して極めて慎重な姿勢で挑むのに対して、賃貸借契約においては、非常に曖昧な態度がとられているのです。 賃借人が賃料を滞納した場合は、連帯保証人に請求していくことになりますが、契約更新が繰り返されていれば、当然、トラブルが発生する材料になってしまいます。 なお、保証人が具備する条件として、当然のことですが、民法は次の2つを挙げています。 @能力者であること。 A弁済の資力を有すること。 保証債務とは 保証人の保証債務を一口で説明すると、「賃借人の債務と同一の内容で、賃借人が債務の履行をしないときに、保証人が代わって履行することを内容とする、保証人と債権者との契約によって生じる債務」のことです。その範囲は賃料のほか、利息、違約金、損害賠償金などを含みます。 保証債務には、 @附従性:債務がなければ成立せず、債務の内容を超えることがない、そして債務が消滅すれば保証債務も消滅する。 A随伴性:債権譲渡により、債務の債権者が変更になるときは、保証債務も主たる債務と一緒に移っていく。 B補充性:保証債務は、債務者が履行しないときにはじめて履行しなければならなくなる。 この補充性について、民法は、保証人に2つの抗弁権を認めている。 イ.催告の抗弁権(452条):まず、債務者に請求せよとの主張ができる。 ロ.検索の抗弁権(453条):まず、債務者の財産に執行せよとの主張ができる。 以上3つの性質がありますが、連帯保証とはこのうち、補充性を排除するもので、従って賃貸人は、債務者と連帯保証人の双方に同時に支払いを求め、また財産に執行することもできます。 保証人は連帯保証人 賃料不払いなどが生じた場合、法律上の手続きによって、賃料などの債権を回収することができますが、多くの場合、賃借人に資力がなくなっていて、「ない袖は振れない」の例え通り、裁判に勝っても、実際は回収できないのです。 そこで、賃貸借契約締結時に、連帯保証人を確保することが非常に重要になりますが、大切なことは、保証人の「資力」と「保証する意志の確認」です。 この場合、保証人ではなく、連帯保証人にすることが極めて重要です。連帯保証の場合は、賃借人に賃料不払いや敷金精算後の不足分の未払いなどが生じたときに、賃借人と同等に、また同時こ、連帯保証人にもその支払い義務が生じます。一方、連帯しない保証の場合は、保証人はまず、賃借人に請求することを主張する(催告の抗弁権)ことができ、また、強制執行に当たって、まず、賃借人の財産に執行するよう主張する(検索の抗弁権)こともできます。従って、賃貸人としては、賃借人に連帯保証人を立てることを必ず要求する必要がある訳です。 保証意思の確認 賃貸借契約書に連帯保証人の氏名が書いてあり、実印が押印されており、印鑑証明書も添付されているときでも、なお連帯保証人から「保証した覚えはない」と否定される場合があります。特に、賃料不払いなどの金額が多額に上るときに起きやすいケースです。 その対策として最善のものは、連帯保証人と面談して保証する意志を確認し、住所、氏名を自署、実印押捺をしてもらい、印鑑証明書を受け取ることです。とは言っても現実には仲々難しいので、少なくとも面談か電話で、連帯保証人の保証の意志を確認し、ご自分の物件履歴などの記録でよいから、「いつ連帯保証人に電話で保証の意志を確認した」かを明記しておく必要があります。 賃貸借契約でほ、連帯保証人も気軽に「代わりに名前を書いて捺印してよい」という場合が多いでしょう。これが、後になって「自署ではない」ことが判明して難しいことになるのです。 連帯保証人の責任範囲 連帯保証人の責任範囲について、賃貸借契約から発生する賃借人の債務全体について担保責任を負うことは間違いありません。 しかし、賃貸借契約は、数回にわたって更新することが多いので、その更新後の契約にまで保証の効力が及ぶのか、という基本的な問題があります。自動更新の場合も同様です。最近の時代の流れとしては、包括的な、あるいは根保証的な、制限のない保証については、保証人の責任を限定して、やや軽減していこうとする傾向があります。 具体的には、15年間、20年間と長い間続いている賃貸借契約の場合、15年後、20年後に発生した賃借人の債務について、そのまま連帯保証人として責任を追及できるか、という疑義が生じる可能性があるということです。この対応策として、ある程度の期間が過ぎたら更新時に、連帯保証人の自署、捺印を取得すべきでしょう。自動更新の場合、一定期間経過したら連帯保証人に、保証継続の確認書を取っておく方法もあります。 法人への連帯保証人 法人が賃借人である場合も、連帯保証人を立ててもらうことになりますが、○○株式会社代表取締役甲野太郎が賃借人で、甲野太郎が連帯保証人であってもよいし、関係のない第三者であっても構いません。法人相手といえども安全でない今日、できるだけ連帯保証人を立ててもらうことが望ましいのです。 注意すべき点は、法人の代表取締役である甲野太郎は、通常、会社の債務について金融機関に、個人として根保証的な債務保証をしていますから、甲野太郎を個人の立場で連帯保証人にした場合、その法人が倒産すると、甲野太郎個人も資産を失うのが普通です。つまり、会社が倒産すると連帯保証人からも回収できない恐れが高いのです。従って、できれば、代表取締役以外の者を連帯保証人に立てるべきです。 契約解除権、残置物処理権の付与 賃借人が職を失ったり、事件を起こしたり、事業に失敗して財産を失ったりして、姿を消し、所在がわからないことが、しはしば起こり得ます。このための対策として、賃貸借契約の中で、連帯保証人に賃貸借契約の解除と残置物の処理を委任する旨を定めることが通例となっています。この特約を有効に活用するためには、できれば、連帯保証人は賃借人の父母、兄弟姉妹、叔父叔母、従兄弟位にしておきたいところです。会社の上司や同僚は、失踪するような者のために責任を負うとは考えにくいからです。 次回は「用法、制限の明記と説明の重要性」についてお話しします。 戸田市の不動産情報 |