賃貸住宅のトラブル防止策を考えるD

  今月から具体的に、紛争の未然防止について考えていきたいと思います。まず大切なのは、契約内容に不備をつくらない、ということです。契約を締結するに際して気をつけるべき事をお話しします。

法人契約の場合


 法人には、民法に定められている社団、財団、商法上の株式会社、合資会社、合名会社、有限会社法上の有限会社、他に宗教法人、学校法人、組合法人などがあります。
 賃貸人が個人的な信頼関係で法人に貸す場合に、その信頼関係が個人との間なのか、法人ないし法人の社長としてなのかいずれかはっきりせず、そのため契約の表示の方法もあいまいになり、果たして契約の相手方が社長個人なのか法人なのか不明確な場合があります。

 例えば、「○○株式会社 甲野太郎」と書いてある場合と、「○○株式会社代表取締役 甲野太郎」と書いてある場合との違いです。前者は、「○○株式会社」に貸したものか「甲野太郎」に貸したものかはっきりしません。法人に貸すのであれば、後者のように表示する必要があります。
 賃貸人が法人の場合も、上記の内容はすべて当てはまりますので、注意していただきたいものです。
 もう一つ、法人について問題があります。つまり、実際の入居者の問題です。

 これには2つの側面があります。一つは、法人の従業員に限る、とする特約をつける場合です。従業員が退職後も居座ることがあり、この場合、この特約に違反することを理由に、その法人に対して、その従業員を退去させるよう申し入れます。もう一つは、実際に入居する従業員の氏名や家族構成などを、その都度連絡させる責任を賃借人である法人に課すことです。同時に、入居者に居住のルールを徹底させる責任も負わせることです。法人に入居者の勝手な入れ替えを頻繁にされると、居住ルールが乱れ、他の入居者の不満やクレームを誘発する恐れが高くなります。又、暴力団等不良入居者につけ入るスキを与えることにもなります。

契約締結時に注意すること

 紛争を未然に防止するために必要なことは、契約書およびその他の説明書などにおいて、賃借人に対して、賃貸借契約の条項、内容を明確にしておくことです。
 賃借人がどれだけの賃料その他の金銭の義務を負うのか、金銭債務以外にどういう義務があるのか、実際の建物はどうなっているのかなどを十分理解していれば、紛争が起きる可能性を低くすることができるでしょう。

 普通の方であれば、最初に契約内容を説明して理解すれば、その約束を守りますし、クレームも少ないでしょう。
 つまり、賃料の問題や敷金の返還の問題、修繕義務の問題、原状回復の問題などについて、後々のトラフルを予想して、契約内容を明確に説明して、納得してもらった上で契約を結んでいるかかが重要です。一つの例として、たばこのヤニが多かったのでクリーニンク代を請求したところ、トラブルになったということがあります。これが紛争になるのは、最初の契約締結時に、修繕義務は賃借人にあるのか、ヤニの場合はどうするのかについて明確に説明していなかったからです。ヤニは入居者負担であることを納得して契約していれば、問題が起きることは減少できます。
 紛争は、最初に契約内容をよく説明せずに、単に「これで契約してください」といって、契約書の作成だけで終わってしまうことが一因となっていることが多いのです。

書面化と証拠化の徹底

1)部屋のカルテの作成
 紛争の未然防止のためには、賃貸借の対象となる建物、特に内部のカルテを作成しておくことも一つのアイディアです。
 入居時には、どこが損耗していたか、どこが壊れていたか、畳を取り替えているか、表替えをしたのか、というような内容を証拠として残しておくことです。そうすれば、賃貸借契約が終了して明渡す時に、ここは最初から汚れていたとか壊れていたとかいわれても、その証拠に基づいてきちんと説明することができます。
 更に確実なのは、最初の説明時に部屋の内部の状況についてのカルテに、賃借人の署名捺印を得ておくことです。これにより、後日、賃借人が当初どのような状態で借り受けたかが証拠として明らかになる訳です。これによって、紛争は大幅に減少するでしょう。

2)必要な費用の予定の説明
 明渡し時にいくら位費用がかかるかを、契約締結の最初に賃借人が把握しているとすればどうでしょう。紛争が生じることは少ないはずです。
 できれば、関西の「敷引き」の場合に行われているような、一定額でよいとか、一定額以上はかからない、といえば、紛争は一層減少するでしょう。後になって、予め説明を受けていない費用を請求される場合に、クレームが起きやすくなります。
 ところで過去の経験から言えることは、入居者は敷金の範囲内であれば、大抵の場合は納得していますが、敷金を超えた請求をされた場合にクレームが起きやすくなるということです。

3)敷金を超える請求は証拠が必要
 敷金を超える費用を請求する場合には、かなりの証拠を揃えておかないと裁判において勝訴を得ることは難しいでしょう。
 「契約書の修繕義務条項で定めてあります」というだけでは厳しいと思われます。いざ裁判になれば、どれだけ汚したかを賃貸人が立証しなければなりません。そのときに、最初はこれだけ綺麗で、3年後に返したときには通常の損耗よりもこの程度汚くなっている、ということを立証しなければなりません。これはなかな難しい立証作業です。

 従って、賃借人の立会いがなくて、後になって、こことここが汚れているから請求します、という形で請求したのではまずクレームになります。最初の段階で、どういう契約内容であるのか、どういう現況で借りるのかを、立会ってもらい、理解してもらうことです。その時に、明渡し時にはどれ位の費用がかかるのかも予測し理解してもらうことも大事なことです。

明渡し時に大切なこと

1)立会いと記録の作成
 貸室明渡しの際の立会いについて考えてみましょう。立会いのときに、汚れているので負担しなければならないということを、本人が認識すると否とでは全く事情が違ってきます。
 この場合、「これについては負担します。修理します。」という文書に、本人に署名捺印をしてもらうことです。つまり、本人の確認行為を証拠として残しておくことを徹底しておくということです。後で、言った、言わない、というレベルのことが問題になると、賃貸人にとって不利となるからです。
 また、トラフルになりそうな部屋の明渡し時には、写真やビデオを残しておくことも大切です。最初の写真と最後の写真を残しておくと理想的です。少なくとも明渡し時の写真を残しておくと、どの位汚れているかが第三者の眼にもわかるので、これなら仕方がないということが明らかになります。最近は、デジタルカメラがあり、現像しなくても、パソコン等の記録媒体で保存しておけるので、大いに利用して証拠化していただきたいものです。

2)書面の作成
 賃借人に何か特別な義務を負担してもらうときや、契約締結時、明渡し時などには、必ず書面を作成しておくべきです。
 賃貸借契約書だけでは十分ではありません。何か特別な義務を負担してもらうときは、書面を作成することによって、賃借人本人にも負担義務を認識してもらうことができるし、後日裁判になっても有利になります。
 今後は、このような書面を「同意書」といった形であらかじめ書式を作っておき、賃貸借契約時に作成することを心がけていただきたいものです。

 次回は、「連帯保証人の取り方」や「契約書の用法、制限の明記」について考えます。



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