〜原状回復と消費者契約法〜 サラの状態で貸しても明け渡し時は 建物を賃貸するときに改装し、いわば“サラ”の状態で貸しても、期間が経過して明け渡しを受ける時には、賃貸物件は変色・汚損・破損などの変化が生じています。次の入居者に貸すためには原状を回復して、変色・汚損・破損状態を回復しなければなりません。原状回復をしないで次に賃貸する場合もあるでしょうが、ほとんどの例では原状回復をして、次の入居者に貸しているのが通例でしょう。このための費用が原状回復費用です。原状回復費用を賃借人から徴収せずに済ませている例もあるでしょうが、程度の差はあるものの、賃料とは別個に原状回復費用を賃借人から徴収している例が多いと思われます。 例えば入居者に厳しい原状回復の負担の契約条項例としては、次のような事例があります。 賃借人は退去の際に、本賃借物件の検査を受けたうえで、賃貸人の指示に従い、本物件を自然損耗、経年変化、通常使用により生じた汚れ、損傷をも含めて賃貸借契約締結時の原状に回復しなければならない。その原状に回復する費用はすべて賃借人の負担とする。 以前より苦情申し立ては増す一方 しかし原状回復費用の徴収については、以前より賃借人の一部から不満が出され、消費者センター、役所、宅建業協会、弁護士会などに苦情申し立てがなされてきました。原状回復費用の負担をめぐる賃借人と家主・管理会社間のトラブルは、賃貸借関係のトラブルの典型事例として広く知られています。賃借人から出されてきた不満・苦情は次のようなものです。 @入居の時には、敷金はすべて返還されるような説明であったのに、退去時に敷金から原状回復費用が控除され、わずかしか敷金が返還されない。 A控除される原状回復の内容・単価とも家主サイドの査定で、一万的内容であり、納得ができない。 Bそもそも高い賃料を支払っているのに、それに加えてなぜ原状回復費用まで負担しなければならないのか。修繕は家主の義務ではないのか。 悪徳商法だけでなくどの分野でもこの原状回復費用の負担をめぐる問題が続く中、本年4月1日から消費者契約法が施行されました。消費者契約法では、消費者と事業者との契約について、一定の場合に、消費者に締結した契約の取消または無効の権利を与えています。消費者契約法では、いわゆる悪徳商法などの契約だけでなく、広くどの分野の契約についても適用されます。不動産賃貸借契約の場合では、法人契約の場合を除き、借主は個人の住居として契約することが多いので、その場合の賃貸借契約は、まさに消費者(入居者)と事業者(家主)の消費者契約となり、消費者契約法が適用されることになります。 消費者契約法で、消費者に契約条項の無効を主張できる場合のひとつとして、第10条において次の規定が定められました。 第10条 民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する。消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。 負担しても改修せざるを得ない? 入居者(消費者)サイドでは、この消費者契約法第10条の適用により、原状回復費用を入居者が負担する冒頭のような契約条項は無効にできると主張しています。原状回復費用を入居者が負担する契約条項が無効となると、家主(事業者)は原状回復費用を入居者から徴収できなくなり、敷金から原 状回復費用を控除することは許されないことになりかねません。また、家主は自らの負担で原状回復を図らなければならないことになります。 原状回復費用を入居者に負担してもらうことが一切できなくなるとすれば、その影響は甚大なものとなります。例えば、学生マンションで1戸あたり15万円の原状回復費用を負担してもらっており、毎年20室の退去がある場合に、消費者契約法第10条の適用により原状回復費用の負担を求めることができないとなると、15万円×20=300万円もの減収になります。原状回復費用がもっとかかったり、退去戸数がもっと多かった場合には、家主はさらに減収となります。減収となっても家主としては、不況等により満室にすることが困難になっている現在の状況では、原状回復を家主が負担してでも改装を図らざるを得ないでしょう。前の入居者が退去したままの状態で、新たに賃貸することは極めて困難です。消費者契約法の出現が原状回復の実務に大きな影響を与えることは確実です。 八王子市の不動産サイト |