「空室対策を考える
  〜礼金・手数料の見直しと、貸し方の工夫〜」



引き続き、空き室対策についてご一緒に考えましょう。

礼金・仲介手数料を見直す

 賃貸住宅の魅力は気楽に引っ越せること

 分譲住宅と比べて、賃貸住宅の利点のひとつは動きやすさです。ライフステージやライフスタイルに合わせて住み替えていく身軽さが賃貸住宅の身上といえます。しかし、実際には敷金2ケ月、礼金2ケ月、仲介手数料1ケ月、前家賃1ケ月、合計月額家賃の6ケ月分に加えて引っ越し費用がかかるわけで、これが住み替えを阻む足かせのひとつとなっています。

 こうした初期コストが少なくなれば、住み替えはかなり進むはずです。市場が貸し手市場から借り手市場に転換したことをきっかけに、初期コストを構成している敷金、礼金、仲介手数料などについても見直す動きが出ています。
 関東では「敷金2ケ月、礼金1〜2ケ月」が慣例化していますが、今後は需給バランスや物件力、経営戦略によって敷金や礼金の額も変わるものと考えたほうがよいでしょう。

 敷金はともかく、礼金は住宅が不足している時代の慣習です。すでにお客様が物件を選ぶ借り手市場に転換しているのに、お客様、つまり入居する側がオーナーに礼金を払うのは、考えてみればおかしな話かもしれません。礼金があるのは首都圏と関西圏(敷き引制度)のみです。地方にはほとんどありません。

仲介手数料も一部ではオーナー負担に

 また、仲介手数料にしても、現在はお客様が仲介業者に手数料を支払っていますが、受益者負担という考え方からみれば、お客様を決めてもらったオーナー側が半分は負担するほうが自然です。仲介手数料の考え方はこれだけでなく、インターネットの登場で情報コストが劇的に安くなることもあって、今後は大きく変わってくる可能性があります。過去がどうだったかということにとらわれず、現在の市場の中でお客様に入居していただくことを第一に考えるべき時代なのだと思います

 供給過剰なエリアや条件に劣るような物件の場合は、家賃調整のみならず、礼金の緩和(または取らない)や、仲介手数料を半額負担するというように、入居時のコスト負担を減らして早期集客を目指す方法も検討してはどうでしょう。
 オーナーからすれば、現状の回復、リフォーム、空室期間等々を考えれば、家賃の5ケ月〜6ケ月分を是非欲しいと考えるかも知れません。お客様は入居する際の一時金が高く、動くに動けずなのです。このあたりから、礼金や仲介手数料を考えてみてはどうでしょう。

 アメリカでは礼金や仲介手数料をお客様が支払うことはほとんどありません。敷金1ケ月分の支払いで気楽に移転していきます。しかも、家具付きも多く見られるので、賃貸派はほとんど移転費用の負担もなく、移り住むことができるのです。

こんなお客様に要注意!

 家賃を下げれば、もっと大幅に下げてくれ。また敷金・礼金も下げてくれ、とにかく「安くしてくれ」というお客様は要注意です。入居させて、とにかく空室を埋めたいというオーナーの気持ちは分かりますが、常識を外れた要求、とにかく安くしてくれと言う人は、一般的に言えば「不良テナント」が多いのです。家賃不払い、滞納、マナーが悪いことが多いので、こうした人に対しては審査を厳しくしなければなりません。不良テナントの入居は良質なテナントを追い出してしまう危険があるのです。


貸し方の工夫をする

発想を転換すると

 賃貸住宅のメリットである動きやすさを高め、お客様の初期コストを下げる方法として、短期貸しの家具付きアパートにするという方法もあります。
 エリアにもよりますが、1ケ月、3ケ月、6ケ月、1年といった短期間利用したいという場合、そのために生活道具を揃えるのは無駄になります。カバンひとつで引っ越して明日から生活ができるならば、賃料単価が多少高くなっても十分に見合うはず。この場合は、賃貸借契約ではなく、利用契約として敷金や礼金は無し。ホテルと賃貸住宅の間というような形になります。マンスリー(月単位)、ウイークリー(週単位)の賃貸住宅が都心を中心に増えています。ちなみにアメリカでは、単身用では月単位が圧倒的に多くなっています。

 また、場所によっては、事務所として使えるような設備を付加してSOHO需要を狙う方法もあります。こうした物件はまだまだ少ないので希少価値があるものと思われます。
 これとはまったく逆のケースですが、今までの賃貸住宅の欠点とされていた制約を取り払うことによって、新たなお客様を確保する方法もあります。築20年を超えるような物件は、原状回復にもかなりのコストがかかりますから、内装などについてはお客様の自由な変更を認めるというようにしてはどうでしょうか。クギひとつ打てない賃貸住宅が多い中、お客様も好みの環境にするために投資した訳ですから、定着率も高まり魅力的な条件になるはずです。

フリーレントも使ってみる

 単純に家賃を下げるだけでなく、フリーレントも考えてみましょう。家賃の月額を下げずに、1ケ月間ゼロにして入居してもらいます。お客棟の仲介手数料、敷金、礼金、引越し費用の負担を軽減させるためにこのフリーレントを考えてみることも必要です。賃貸管理会社からもこうした提案があることでしょう。

 事務所系のビルでは既にフリーレントは多用されています。3ケ月〜6ケ月のフリーレントは今やごく普通です。ビルではお客棟の確保に激烈な競争をしているからです。ビルのフリーレントは3年以上の賃貸借契約を結び、解約権を認めません。家賃を値引く代わりに、「家賃を確定」させるために使われるのです。たとえば、月額100万円の家賃を3ケ月間ゼロにして3年契約に100万円×33ケ月=3,300万円を確定させるのです。これに対して、アパ−トの場合は解約権を縛るのは困難なため、通常、フリーレントはお客様との最後の条件として、「1ケ月間家賃をゼロにする」という使い方をします。いわば、誘導策として使われています。但し、家賃は一定期間ゼロにしても管理費は頂くことが多いです。

誘導型賃貸契約

 学生向けの賃貸マンションで、繁忙期の2月〜4月を過ぎてしまい、夏休みも過ぎてしまいました。そこで思い切って、家賃6万円を9月から翌年の3月までの6ケ月間だけの定期借家契約で4万円とします。定期借家契約終了後は通常の6万円で再契約します。
4万円のお客様が再契約するかどうかは分かりませんが、その時には4月以後のお客様を決めればいいのです。残り6ケ月間の空室を何とか埋めなくてはなりません。定期借家契約を使った誘導型賃貸、いわば、お試し賃貸の方法もひとつとして考えて下さい。


建て替えを予定しているなら

 近い将来、建て替えを予定しているのなら、立ち退きトラブルを回避するために定期借家権を利用しましょう。
 5年後に建て替えたいのなら5年間の定期借家契約にして、その代わりにお客様に十分なメリットのある条件を設定します。たとえば、「家賃3割引き、敷金・礼金なし、内装・間取りの変更もOK」ならば喜んで入居する人はいるはずです。もっとも、居住用賃貸の場合は、定期借家契約でもやむを得ない場合は途中解約が認められていますが、そうした場合は残りの期間でまた定期借家契約を結べばよいのです。
 途中解約リスクを考えても、従来の借地借家契約で契約して居座られるリスクや老朽化による空室リスクをとるよりは、よほど安心感があります。


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