〜サブリース契約の減額請求事件を考える〜

 現在、賃貸住宅業界では、サブリース契約が人気化し始めている。「安定経営が約束されている」といった点がその理由だが、オフィスビル業界では、サブリーサーとオーナー間で減額請求をめぐる裁判が後を絶たない。ある事件を追ってみた。

原告側に2億8000万を返還

 平成12年2月、大阪地方裁判所で中村忠夫オーナー(仮名)にとって、耳をふさぎたくなるような判決が下った。
 「平成11年度分の支払い賃料が年額4800万円であったことを確認する。被告は原告側に2億8000万円を返還せよ」
 裁判官から発せられたこの言葉を聞いた中村氏は、思わず「体のいい地上げだ」と心の中で叫んだという。

 サブリース!。何の苦労もなく毎月決められた賃料が指定口座に振り込まれる。あたかも″魔法の杖″のようなシステムだが、同氏は逆にサブリースによってこれまで築き上げた財産を失いそうな危機的状況におちいってしまった。
 事の発端は、昭和55年までさかのぼる。

 中村氏は、大阪市内で貸ビルや賃貸マンションの経営を行っていた。これらの不動産のほかに大阪市内の一等地に杓150坪の土地も所有していた。
 ある日、その150坪の土地を含めた1500坪という巨大再開発の話が、財閥系大手不動産会社の子会社から同氏のもとに寄せられた。
 売却も考えたが60年間土地の一括借り上げ、初年度で5400万円の地代を支払うという内容だったため契約を交わした。そのうえ、4年ごとに支払い額を16%ずつ自動的にアップさせ、それも前払いでといった夢のような条件も織り込まれていた。

 2年後の昭和57年には、1フロア約1500坪で12階建ての高層オフィスビルが竣工。大阪でも1、2位を争う規模、設備として業界関係者から注目を集めた。
 すべて順調にいっていたが、平成9年1月、突然サブリーサー側から一遍の内容証明郵便が同氏の手元に届いた。
 「内容は、地代を減額してほしいとのことでした。契約から14年が経過していたため、平成9年度の受け取り賃料は9200万円、それを4000万円にしろというものでした」(中村氏)
 当然のように同氏はつっぱねた。平成10年3月から調停となったが、両者の言い分は平行線のまま物別れ。結局、平成10年9月にサブリーサー側が中村氏を訴え、裁判所に判断をゆだねることとなった。

 その後2年間、審理を続けた結果出た判決が、冒頭紹介した一文だ。
 「具体的にいうと、内容証明が届いた平成9年2月から平成11年1月までの2年間は9200万円から6270万円、平成11年以降は1億700万円を4800万円に減額することを裁判所は認めたのです。全面敗訴といっていいでしょう」(中村氏)

 この判決によって前払いで同氏が受け取っていた賃料との差額2億8000万円に借地借家法に基づく遅延損害金10%をプラスしてサブリーサー側に返さなければならなくなってしまった。できなければその土地は差し押さえられ、強制競売にかけられるという最悪の結末を迎えたのだ。当然中村氏はそのような大金を工面することはできず現在仮差し押さえされている状況だ。
 もしこのままいくと強制競売にかけられるが、更地や1棟ものであれば、他者の落札も考えられるが、高層ビルが建っている底地1500坪の一部となれば、手は出しにくく、サブリーサー側がこの土地を競売で落とす可能性が高い。
 「契約書など何の意味ももたないことがはっきりしました。まさに体のいい地上げですよ。一個人が3億円近くの大金をすぐに用意できるはずがない。まんまと大手資本に資産を吸あげられてしまいましたよ。現在上告中ですが、この先については白紙状態です」
 こう中村氏は怒りをあらわにする。

借地借家法32条が適用出来るか否かが焦点

 なぜ、サブリーサー有利の判決が出てしまったのだろうか。その理由は、「借地借家法32条」。借地人が賃料に対し増減額請求を行うことができるというこの一文により、焦点は現在の賃料が相場と照らし合わせた場合適当かどうかに変わってしまったのだ。一方、契約時に中村氏側は、どこを注意すべきだったのだろうか。

 ポイントは2つある。
 1つは前払いとした点。一度授受した賃料を返還しなければならなかったことが同氏を窮地に追い込んだ。
 もう1つが、減額に対する制限を設定しなかったことだ。「4年ごと16%賃料アップ」と増額についてはリミットがあったにもかかわらず、下限はなし。つまり、半額でも3分の1でもどこまで減額しても契約上は問題なかったのだ。
 とにもかくにも、サブリース契約を行う場合、事業者側はいつでも、減額することができる権利が与えられている点を認識すべきだろう。



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